第十二話 物資輸送

 タンククローラーを解体し、新たな素材を手に入れたところで気づいてしまう。

 

 森を出てギルドに向かうに当たって一つ問題があったのだ。

 それは今まで集めた素材達である。


『カイザー、これはいつか使えると思うのでとっておきましょう』


 なんてスミレが確保したパーツに、俺が確保したパーツ。それ以外に取り敢えずキープしておいた素材達だって売ればそれなりに金になる。


 金は俺の装備品になりそうな物を買う資金にするほか、人間であるレニーの生活費も必要だ。世の中なんだかんだいって金である。いくらあってもいいものだ。


 なのでなるべく多くの素材を持って行きたいのだが……。


 この手の異世界にありがちなアイテムボックスでも存在すればレニー任せでなんとかなったろうが、残念ながら聞く限りではそんな夢のような道具は存在しないようだった。


 そんなタイミングでうっすらと背中に寂しさを感じ、もしかすれば、自分にもなにかそういう運搬用の装備があったのかもしれないとぼんやり考えたけれど、例の如く頭痛の野郎に襲われて思い出すことが出来ない。


 悩んでいてもしょうが無いので木を加工して収納箱を作り担いでいくことにした。


 俺が板を作り、レニーが魔獣から回収した大きなボルトを打ち込んでいく。


 板を加工する俺を見てスミレが『カイザーがそんな作業用機体のような作業を……』と、ブチブチ言っていたが、なんだか作中にそういうシーンもあったような気がするし、他のロボアニメでも主人公機が物干し台にされたり、風呂を沸かす道具にされたりと、生活臭半端ない使われ方をしているのを見た覚えがある。


 まあ、気にしたら負けってことで。


 車輪パーツでもあれば馬車を作って引いて行けたのにな、と残念に思うが、予定通りメイン形態で肩に担いで歩くことにする。


「よっこいせーっと。いやあ、結構集めましたねえ! こりゃジャンク屋のおっちゃんもたまげるぞう」


『丁寧に運びなさいね、落としたり転んだりしないように』


 なかなかの重量があるため、ズシンズシンと地響きを立てながら森を歩く。たまにフラりと身体が傾きヒヤヒヤするが、レニーは特に焦りもせず、ニコニコと操縦している。……どうやら嫌な汗をかいているのは俺とスミレだけのようだ。


『カイザーだって不安に思っているのでしょう? 貴方が自ら自立稼働で運べば良いのでは?』


 と、スミレが暗にコントロールを変われと言うのだが、こういう特殊な操作も立派な訓練になる。


 重量物を背負った状態で足場の悪い場所を歩く。

 それには繊細な制御が必要であり、そこから学べる事は沢山ある。

 まだまだ制御が甘いレニーにぴったりの訓練になると考えて、彼女にコントロールを任せることにしたのだ。


 大分マシになったとは言えまだまだレニーの操縦はアラが目立つからな。それに俺だってレニーのクセをデータとして吸収し、レニーの行動と俺の思考との誤差を減らす努力をしなければいけない。


 なのでこう言う日常的な部分でもなるべくレニーに操縦させることにしているのだ。


 そもそも元人間である俺としては、ロボとなり人に操縦されるのはなんというか最初はとても変な感じだった。


 最初が最初だっただけになおさらだ。お約束とは言え、いきなり実戦からはじまったものなあ……。

 

 攻撃が来る! よし! 足捌きで交わそう、そう頭では思っているのに身体は勝手に上空へ跳躍。

 落ちるぞ! ならばその勢いを利用してブレストウルフに蹴りを叩き込む! ……と、思えば姿勢制御もせずに地面へ落下。


 想像してみてほしい。例えば道を歩いていて何かに躓いたとしよう。普通はその時何らかの反応をし、転ばないよう努力したり、転んでしまっても身体をかばう動作をするはずだ。だが、頭でそれをしたいと思っているのに、躓いた勢いそのまま、なぜか両手を上げて顔から地面と口づけだ。どうだい? 恐ろしいってレベルの話じゃあ無いだろう?


 それでもここ一ヶ月の特訓でかなり改善されたんだ。


 中でも一番徹底したのは輝力の出力調整だ。


 当初のレニーは常に最大出力で輝力を注ぎ込んでいたため、攻撃だけでは無く回避行動まで大げさな動きになってしまっていた。これでは軽くステップをしたつもりが壁目がけてタックルするような具合になってしまう。


 それに常時最大出力では10分も持たずに輝力を使い果たしてしまう。

 

 格下の群れであれば兎も角、格上の群れや、格下でも大規模な群れ相手となると戦っているうちに息切れを起こして気絶してしまったらどうなるか?


 自立稼働で戦うことが出来るようになったため、以前よりリスクは大分軽減されたけれど、自立稼働中の俺はそれ以外の事にリソースを割けなくなり、スミレから届くデータを適切に運用する事が難しくなってしまう。


 スミレにはスミレの、俺には俺の仕事がある。パイロットの操縦がなければ戦力が半減してしまうんだ。


 だから戦闘時における自立稼働はあくまでも緊急時の補助機能と考えてもらったほうがありがたいし、なるべくならパイロットが気絶するような事は避けてもらいたい。


 なので輝力の調整は肝心要であり、丁寧に扱わざる得ない荷物運搬も立派な訓練になると踏んだのだ。


 出力調整と言えば、さらに効果的な訓練も思いついたのだが――


「なあ、俺サイズの箸をつくってさ、右から左へ石をつまんで移動させていく練習をしてはどうだろう。細やかな輝力の制御が必要になるし、良い訓練になると思うんだ」


 と、スミレに持ちかけてみたら凄い勢いで反対されてしまった。絵的にシュールすぎるからダメだ! ということで。


 ロボアニメでたまにあるシュール回、好きなんだけどなあ……。


 そんな具合に訓練を通じてレニーの才能をじっくりと調査していたのだけれども、まだまだ荒削りなところはあるが、中々に良いセンスがあるのではないか。


 俺とスミレはそう結論づけた。


 ……スミレはなんだか渋々といった具合ではあったが。


 辛うじて残っている記憶からすると、本来のカイザーはハンドガンを用いた射撃とソードを使った斬撃が主力の攻撃方法だ……が、どうもレニーは格闘術を使いたがる。


 元々そういうスタンスで戦う近接系格闘少女だったのかどうかは知らないけれど、ならばそれはそれで伸ばしてみるのも面白いかもしれないな。

 

 本来の装備品が失われているわけだし、律儀に原作通りの戦闘スタイルで戦う必要はないはずだ。そもそもカイザーというのは一番無難なオールラウンダー、逆に言えば器用貧乏な機体で、他の機体に比べ……他の機体? ……む、ああ、そうか。カイザーの作中には様々な友軍機が登場したからな。

 モブに近い準レギュラーキャラ達が乗る量産機の様な機体だったと思うが……これもやはりきちんとは思い出せないな。


 恐らくそれらの機体は、よくあるロボットアニメの設定にもれず、射撃特化型やサポート特化型等、何かに秀でた機体だったのだろうな。


 そういう機体と比べ、器用貧乏で何でも来いな主人公機であればレニーが好む格闘術主体で戦うのも悪くはないはずだ。


 なによりレニーはこの短い期間で謎の必殺技を二つも編み出して居るし、まったく侮れない娘だ……む!


「うおおっとおお!!! きゃあああ!!!」


「うおおおおい! レニー?? ぐあっ」


『レ、レニー!? ああっ……左足被弾、損傷無し。敵機補足、地面より露出した岩の先端部と判明、しかし当機体の転倒により運搬物散乱。パイロット緊急射出の許可を、カイザー』


「いってててて……ごめんなさい,お姉ちゃん、カイザー……転んじゃったあ……えっへへ……足元見てなかったよ」


 ……もう二週間ほど訓練を延長して一般的な注意力を養う訓練をしたほうが良いのかもしれないな……。

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