第十話 機兵の価値

「今の時代だと戦力的にライダーが主流なのかい?」


 その質問をするとレニーは困った顔で肯定し、解説を始める。

 

「そうなんですけど、機兵ってそう易々と手に入れられるようなもんじゃないんですよね-」


 悲しそうな、そして悔しそうな顔で手と顔をブンブンと降る。。


「手先が器用で知識がある人はコツコツと素材を集めて自分で造る事もありますが、大体の人はそこまで知識も腕もないので機兵工房に依頼を出して作って貰うか、完成品を購入することとなります」


レニー先生の話によると……。

 

  民間人が搭乗するロボット――機兵を構成するパーツは特殊な例を除き、その殆どが魔獣の素材から作られたものである。

 

 鉱物から金属を生成する技術が無いわけではない。軽量で強度が高い魔獣の素材がそれに勝っているからだ。


 魔獣由来の素材は加工をして外部装甲や武器の材料等にする以外にも、複雑な内部機構や魔術的要素が強い飛び道具等は多少の調整をした後、そのまま機兵のパーツとして転用されることが多い。

 

 魔獣の身体を構成するパーツは、その見た目通り生物の身体をそのままロボ化したような物で、かなり精密で効率が良い作りをしている。

 それは聖典の知識が無い技術者達が知恵を絞って1から造るパーツよりも圧倒的に高性能でコスト面でも性能面でも優れていると言うのだからそれを使わない理由は無い。


 よって、機兵を造ろうとすればそれを構成する素材は魔獣からの入手に頼るしかないわけだが、勿論その魔獣の討伐にもコストが生じるわけだ。


 魔獣をハンターが狩り、素材屋はそれを買い取る。工房は素材屋からそれを仕入れ、手間ひまかけて加工した後、機兵として組み上げていく。


 レニー先生の説明は以上だが、さて最終的に一体いくら掛かるのだろうな? 

 想像するに決して安くはないはずだよ、これは。


 と言うわけで聞いてみたのだけれども。


「なるほどな。いくら魔獣の素材が優れているとは言え、加工にも手間暇は相当掛かるのだろうな。それが機兵として形になった時、いったいいくらの値段がつくんだい?」

 

 その質問にはレニーが苦笑いで答えてくれた。


「そうですね、工房に置いてあるのを買うと1機あたり金貨50枚から白金貨1枚、といったところでしょうか……。

 いつ死ぬかわからないハンター相手に分割払いを許す優しい職人はいませんからね、一括払いでのお支払いとなるわけですが……そんなお金を用意するのは下っ端ハンターにはとても無理です。

 なので、駆け出しライダーは自分で素材を用意して、作業代だけ支払って組んでもらうんですが……それでも金貨20枚からになります。私みたいな5級フィフスの収入じゃとてもとても手に入れられませんねえ」


「スミレ、お金の価値って日本円でどんなもんなの?」


『今日まで集めたデータから推測すると1金貨あたりざっくり10万円ですね。白金貨は1枚1000万円程度のようです』


 うわあ……高級車じゃん……。いやでもロボットだから安いもんなのかな? 実際実用レベルで稼働するロボットって実際に売られてた訳じゃ無いから価値がわかりにくい……中古の油圧ショベルでも900万円くらいしてたからそんなもんかな……?


「なので大体の人は先にライダーライセンスだけ取得しておくんです。コツコツと細かい仕事をしながらお金を貯めて、機兵購入を目指す機兵無ぜんらライダーも数多く居るんですよ」


「ぜ、ぜんら?」


「私が正にその機兵無ぜんらライダーなんですけどね、女の子なのに全裸ですよ、全裸。『おい、レニー! 全裸卒業できたか? その様子だとまだのようだな! ガハハ! 女の子が全裸じゃよくねえよなあ』なんて他のライダー共にからかわれるんですよー」


 レニーが心底嫌そうに説明する。なるほど全裸とは言い得て妙だ。この時代において機兵無しでハンターをすることは全裸に等しい無謀な行動と言うことか。


「で、それだけ重要な機兵ですよ? 他人のを盗んでやろうとする奴が後を絶たなかったんです。なので機兵を盗難から守る取り決めが出来たんです。」


 機兵を用意できたハンターはギルドに持って行き、簡単な検査と共に機兵登録をすることが義務づけられるようになったそうだ。


 ギルドから発行されるシールのような魔道具、認識票プレートをボディに貼ることによりパイロットと紐付けられるらしい。パイロットがシールにドッグタグを近づけることにより反応して発光し、持ち主本人であることが証明できると。


「見た目は簡単に剥がれそうなんですけどね、パイロットかギルマスじゃ無いと剥がせないらしいんです。だからギルドに持ち込まれた機兵はプレートの有無をチェックされ、その確認を経て初めて登録がされるんですよ」


「剥がせないなら上から塗料で塗ってしまえば分からないのでは無いか?」


「それを試した不届き者も存在したらしいんですけどね、剥がれないという時点で疑うべきなんですよ、プレート自体が強力な魔導具なんだからそんな対策をしていないわけが無いって。

 その場は綺麗に色が乗るんですが、少しするとそこだけ綺麗に色が抜け、異常を示す赤色に常時発光して不正を行ったのが周囲にバレるらしいですよ」


 なんとも不思議な……そういや元々この世界は剣と魔法の世界だっただったな……。

 我々のせいでどちらかと言えばスチームパンクめいた世界観になってしまったようだが、そうか魔導具というのがあったなあ。うーんファンタジー!


 ここまで黙って話を聞いていたスミレだったが、"プレートを貼る"というのが引っかかったようで嫌そうな声を出した。


「う~……、カイザーにそんなものを貼るんですか? 必要ないですよ? そもそも貴方の身体には認証紋が既に刻まれているのだから……」


 それを聞いてびっくりするのはレニーだ。


「に、認証紋? 刻まれている?? ええ…? 入れ墨かなにかですか? こ、困りますよ嫁入り前の娘なんですよお」


 本気で焦っているようなので補足してやる。


「大丈夫だ、普段は見えないから。そうだな、俺の前に立ち手をかざし輝力をそこに集中してみろ」


「こうですか?」


 と、レニーが手をかざすと手の甲にユニコーンの紋章が浮かび上がった。ううん、無駄にかっこいい……!


「わわ、なんですかこれ? い、いつのまに?」


「俺と君の輝力が反応して現れる認証紋だ。最近まで忘れていたが、パイロットと俺との間で契約がされると浮かび上がるようになるらしい。それがあれば何かの事情で俺と君が離されても互いに居場所がわかり、救出の手助けをすることが出来るってわけだ」


 はえーと、手を見ながら感心するレニーを見て思い出す。

 あれは確か第にじゅうなな……わ……うっ……クソっ! またか! 今何かを思い出したはずなのにデータにアクセスできない。


 今……思い出そうとしたのは……カイザーの元ネタ……そうだ…アニメの話で……おかしい……あれだけ、あれだけ見たのに最終話が思い出せない。


 最終話どころか他の話も思い出そうとしても無理……いやいや、待て待て。諦めるな。順番に1話から確認するぞ。

 

 第1話……カイザーが…そうだ……竜也と出会うため降り立ったが……運悪く不良に解体されかけるんだ……。第2話……パイロット契約が済み……、自立出来るように……なった……。うん、これは…覚えている……。くそう、他の話を連鎖的に思い出せないか考えてるがだめだ……。


 第3話……戦闘訓練中に敵に襲われ……実戦に……そして4話………!


 あと少し、あと少しで思い出せそうだったがだめだ。


 やはり何かが俺の記憶に強烈なロックがかかる事態が起きている。興味深いのは今の今までアニメの話をしようともしなかった自分のことだ。


 じんわりと思い出してきたが、俺という存在はロボットアニメが好きすぎるあまり何かと名台詞を口にしていたような気がする。いや、していたはずだ。それがついさっきまで出ようともしなかった。


以前までと違うのは……自立……自立の時に解除された俺達が知らなかった機能……?


「イザー……カイザーさん! 聞いてますか? カイザーさん!」


 っと、レニーに呼ばれて我に返る。まあ、考えていても仕方が無い。長く眠りすぎたせいでデータがおかしくなっているだけかもしれないし、そのうちなんとかなるさで後回しにしておこう。


「もう! カイザーさんったら! とにかくまあ安心しましたよ。普段はまったく見えませんし、私すら気づいてませんでしたからね。でもプレートは貼らないとダメですよ? 認証紋で納得するのは私達くらいだけですからね」


『まあそうでしょうね……はあ、わかりました。ただしかっこわるいものだったら足の裏に貼らせますからね』


 「もー! お姉ちゃんは直ぐそういうー!」


 ”女子”達がキャッキャと盛り上がっているが、貼られるのは俺なんだよなあ……。

 なんだか犬の鑑札みたいでちょっと嫌な気分だが、ナンバープレートという言葉を思い出し自分を納得させる。


 いいですよね、ロボにナンバープレート。なんだかリアリティがあってとてもいい。おまわりさんが乗るロボット……いい……。

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