第九話 私兵団vs魔獣 2

 当時も既にこの国、トリバ共和国にも機兵は存在していました。ですので、魔獣の被害が増えるにつれ、強力な力を求めて国に機兵の派遣を願う声は大きくなっていきました。


 しかし、当時の機兵はまだ数が少なく、名目上は首都の防衛として、実のところは土木作業要員として運用されていて、外部の魔獣討伐に派遣する余裕など有りませんでした。

  


 それに――今でこそこの大陸各地に散らばり存在する魔獣ですが、当時は極限られた場所にのみ生息する珍しい存在。

 

 そして首都であるイーヘイ周辺には当時まだ魔獣の被害は無く、当時のおえらいさん達は勿論のこと、イーヘイの人達にとって魔獣というのは未知の存在であり、どうせ機兵を使うほど大げさな脅威ではないだろうと軽んじられていたのです。


 そんな具合に確実に効果的である機兵の派遣を断られ続けたわけなんですが、それが結果的に良い効果をもたらします。

 

 街の住人の中に『じゃあ自分たちで作っちまえ!』そういうデタラメな人たちが居たんです。


 以前から機兵を作ろうという動きはありました。今で言う機兵工房ではどこからか流れてきた聖典の写本を参考に、長年に渡り機兵の研究が行われていたのです。


 しかし、聖典でどうしてもわからないところが一つあります。動力源「ムジンゾウ ノ カガヤキ」と訳されたそれは思い当たるものがなく、そこで行き詰まっていたのです。


 ガワの真似は出来ても動力源が無ければただの人形ですからね……。


 帝国程の優れた技術者がいればそれも解析して再現しているのでしょうが、町工場のおっちゃん共には無理な話。代用品を長年探していたのですが――


 ――ある日持ち込まれた獲物が一石を投じたのです。


 それはまだ"生きている"状態のものでした。手足を潰され自由に動くことこそできませんでしたが、その目には赤い光が灯っていて動体であることを示しています。

 

 丁寧に解体されたそれから出てきたのは淡い光を放つパーツでした。それが取り出されると魔獣の目から光が失われ、少ししてそのパーツからも光が失われたのです。


 今まで捨てていたパーツ、それは魔獣における心臓――魔導炉だったのです。そしてそれは動力源であると推測され再稼働の研究が始まりました。


 それを組込めば機兵は動く、それは間違いないのだけれども、一度止まった魔導炉を如何にして再稼働させれば良いか? 


 その研究は難航しましたが、やがてトリバに潜入調査をしていた仲間から機兵は『魔力を含んだ液体を流し込むことにより稼働する』という情報がもたらされ街の機兵製造は一気に躍進!


 そうです、とうとう1号機が完成したわけです。


『とうとう結果が出せたぞ! 俺達の機兵の誕生だ!』


 その声に私兵団は湧き上がり広場に人が集められてお披露目会が行われました。


 それはずんぐりとした3mほどの大きな鎧のようなもので、狭いながらもきちんとコクピットも存在し、中に乗り込めるようになっていました。


 歩くたび、腕を振る度に歓声があがりあたりは興奮の坩堝に包まれます。

 

 そして間もなくそれは実戦投入に向けての稼働実験が始まったのですが、最初は液体魔力……今で言う所のエーテリンですね。それの調合レシピがきちんとしていなかったので魔力効率が悪くって長時間の駆動はできなかったみたいです。精々20分が限界だったとか。

 

 でも、くじけずレシピや機体に改良を重ね徐々に制御が安定するようになり、とうとう実用に耐える機体が作れるようになりました。


 そう、リベンジの日がやってきたのです。


 その日までに製造された機兵2機と歩兵50名による大規模パーティーによるリベンジ。


 配備された機兵4機はタンク役3機とアタッカー役1機に別れ、まずはタンク役が前に出ます。


 その機兵はブレス対策として開発された大型魔導シールドを装備していて、これはシールドに魔力を纏わせることにより、魔法耐性をあげ、魔力由来のブレスから身を守るためのもの。


 正確な再現実験ができなかったせいもあって完封するまでの効果は出せなかったものの、それでもブレスを受け止め時間稼ぎをすることには成功しました。


 必殺のブレスを受け止め、じっと耐える機兵を見て大型個体はイライラをつのらせます。『小癪な焼き尽くしてくれる』とばかりにブレスをはき続けるのですが、その最中大型は隙だらけになるわけです。


 それを契機と前衛の後ろから飛び出したアタッカーに驚き、攻撃対象を変えようと姿勢を変えようとしましたがもう遅いのです!


 素早く回り込んだアタッカーの振るった太刀により胴体に一撃! はじめて攻撃というものを喰らったのでしょう、驚き怯んでるうちにもう一太刀! 弱ったところに歩兵達から雨のように放たれた矢により蜂の巣になり……とうとう討伐は叶ったのです!


大型個体を掲げ、戻った討伐隊達の姿に街の人々は大いに沸き立ちました。その日は大きな獲物を中心として夜遅くまで宴が続けられたと伝えられています。

 

 ……しかし、誰しもが思っては居たけれど口に出さなかったこと、恐れていたそれはやはり現実となります。


 以前新型が発生したときと同様、大型もまた1体だけでは済みませんでした。


 時が経つと斃したはずの大型が目撃されるようになったのです。


 それは1カ所だけでは無く、数カ所で目撃され、大型は単体では無く、複数存在することが確認されます。


 そうです、以前新型と呼ばれていた物達と同様、新たな種として繁殖を始めていたのです。


 それに対してこちらは機兵を増やすというやり方をしていたところ、年月とともに外部からも機兵を求める狩人が集まるようになり、私兵団の入団希望者はうなぎのぼり。


 その頃にはフォレムも街に片足を突っ込む規模にまで発展していて、人口も爆発的に増えていました。それだけ民間用の機兵という物は需要があったのです。


 魔獣を狩る存在がそれだけ増えるわけですから、嬉しい事には変わりは無いのですが、数が増えすぎると収拾がつかなくなります。


 そこで発足したのがハンターズギルド。


 魔獣の分布は徐々に広がっている。時期にフォレム以外にも脅威に晒される村や街が現れるだろう。


 であれば、フォレム私兵団は縮小し、自由に街を巡って狩りたい連中を各地に散らせば良い、魔獣を狩る者達の互助組織『ハンターズギルド』として各地で運用していけば良いじゃ無いかという理念から発足したギルドは私兵団よりも自由度が高いものでした。


 機兵乗りライダーでも生身のハンターでも登録出来、ギルドから依頼を受け好きなときに好きなだけどこの誰でも登録さえすれば仕事がもらえる仕組みです。


 私兵団のように決められた予定に沿って行動をする必要が無いのですから、賛同する声は多く、直ぐにそれは各地に広まっていきました。 


 過去の経験により討伐依頼の際にはパーティーに1機はライダーを配置するようにすべし、という暗黙のルールはありますが、強制力はありません。死にたい奴は勝手にどうぞのスタンスですね


 しかし、突き放すばかりでもないんですよ。ランクシステムと言う物がハンター達の無茶無謀を抑制するのです。

 

 初心者がいきなり無茶な仕事を受けてしまわないよう、受託可能な依頼に腕前や実績に応じた制限をかけるんですね。


 それをわかりやすく階級で表した物がランクシステム。


 まずは5級フィフスから始まり、実績が認められるにつれて4級フォース3級サード2級セカンド1級ファーストと、昇進していきます。1級ファーストの上にA級エースSA級スーパーエースとありますが、普通に生きてれば凄くてもA級エース止まりでしょうね。


 というわけで、今日まで続くハンターズギルドという組織は魔獣に抗おうという人々の精神から産まれた物で、その辺りを書き記した伝記はどれもこれも読み応えがあって……あ、こんどカイザーさんにも見せてあげますね。一冊だけ持ってるんですよー……それで、ハンターはですねー……

……

 …


 ◇◆◇

 

 レニーの話は興味深いものだった。余りにも熱が入りすぎ、また初めから話し出そうとしたため途中で止める事となってしまったが、なんとも有益な情報だった。


 ライダー無しで魔獣を狩ろうというのは酔狂でしか無い、か。


 確かにあの魔獣を見れば生身で戦うということは考えたくないよな。よほど熟練したハンターでなければ命を差し出すようなものだろうし。


 であれば、現代におけるハンターとは機兵に乗るライダーが主流なのだろうか?


 レニーは一通り話し終わって満足気にお茶を飲んでいるが、折角の機会だしその辺りについても聞いてみよう。

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