第八話 私兵団vs魔獣 1

 周辺に生息する魔獣だけでは目当てのパーツが手に入らない、そんな話をしていたらレニーがハンターズギルドで話を聞いてみようと提案してきた。


 ハンターズギルドの話は前にちらっと聞いたが、詳しい成り立ちの経緯や仕組みなどはまだ知らない。なので詳細を聞いてから判断してみてはいかがでしょうとスミレも言うので、改めて聞いてみることした。



「ハンターズギルドのお話ですか? いいんですか? そんなこと言って! 張り切っちゃいますよー! 私に語らせると後悔しますよー! では、むかしむかし……ほんのむかしのお話です……」


「言うが速いか唐突に始まってしまった……」

「よっぽど話したかったんでしょうね」

 

 ◇◆レニー◆◇


 ハンターズギルドとはかつて魔獣討伐をしていた私兵団が元になっています。

 まずはその成り立ちからお話ししますね。


 その昔、現在のフォレム周辺には狩人達のキャンプが立ち並んでいました。

 王家の森と呼ばれるこの辺り一帯に広がる森には多数の動物達が生息していて、良い狩り場として重宝していたんです。


 そのため、キャンプは村とも言える規模にまで発展し、テントでは無く簡易ながらも建物が建ち始め、年々人口が増えていきました。


 誰しもがこのままここは狩人の街になるのだろう、そう思っていたある日の事です。

 青い顔をした狩人が広場に駆け込むや否や、大声で『恐ろしい物を見た』と報告をしました。


 それは勿論、今でこそ見慣れた魔獣を指す言葉でしたが、それが歴史に現れたのはその日が初めての事です。金属の身体を持つ異質な生き物の存在は俄には受け入れがたく、狩人達は話半分に聞いていたと言います。


 しかし、日に日にそれの目撃者が増え、とうとう一人目の犠牲者が現れてしまいました。

 ここでようやく狩人達は『アレは人類の脅威となる存在、魔獣である』と判断し、討伐を決意。


 しかし、狩人は単独で行動をする者で有るというのが当時の認識だったため、討伐隊という物が組まれる事は無く。

 腕が立つ狩人が「我こそは」と奮い立ち、勇敢で蛮勇な者たちが次々と単独討伐に向かいましたが、生きて帰る者は珍しく……なんとか生きて戻った者も決して無事に戻ったとは言える状態ではなかったのです。


 このままではだめだ! ジリ貧だ! そう思った狩人達はようやく考えを改めます。

 相手は普通の存在では無い。人である我々がいくら単独で挑んでも敵う相手ではない、我らは力を合わせて脅威を打ち払おうと心を一つにし、魔獣からキャンプを護るフォレム私兵団を設立しました。


 フォレムは古い言葉で『森』を意味する物のようですが、それがそのまま現在の街名になっていると考えると感慨深いですよねえ。


 さて、私兵団となった狩人達は集団戦の訓練を続けました。初めは上手くいかなかった連携も徐々に形になっていき、前衛・後衛が組んで戦うという、今では当たり前のパーティ構成で戦えるようになったのです。


 こうして訓練が実を結んだ事で、結果は上々でした。最初こそ多少の苦戦はありましたが、殆どが無事に戻り、狩った獲物を持ち帰ることも増えたのです。


 折角の素材もこの頃はまだ、物珍しい金属パーツということで日用品や武器の素材として使われていたみたいで……なんとも贅沢なお話ですよね。


 それから数年が経った頃です。ちょいちょいおかしな個体が目撃され始めました。


 それは従来の個体よりも身体が大きく、パーティの人数を倍に増やしてようやく対等という恐ろしい存在でした。


 それでも、まだ私兵団の心は折れませんでした。勝てないなら俺達が強くなればいいのだ、その言葉を糧に彼らはひたすら訓練と狩りを続け、また魔獣素材から作った武器により作られた新型の武器、機械弓や機械刀により更に優位に立てるようになりました。


 さらにその頃には魔獣の研究も進み、弱点部位の特定や行動パターンが判明し、また以前のようにあまり犠牲者を出さず狩れるようになったのです。


 意気揚々と凱旋する私兵団の勇姿は憧れの的で、志願者は増大。私兵団の黄金期と呼ばれています。


 しかし、そんな日は当然長くは続きません。


 ある日一つのパーティーが戻りませんでした。深追いしてるのだろうか? 怪我をした仲間の治療をしてるのだろうか? 様子を見ようと決めましたが、それから1日が経ち、2日が経ち、3日が過ぎても戻りません。


 ――異常事態が起きているかもしれない。


 誰かが言葉にした事でようやく捜索隊が結成されました。


 5パーティ、60人で結成された捜索隊はやがて複数の亡骸を発見することになります。その亡骸の異常さをきちんと理解して、なぜこうなったのかを考える暇があればよかったのですが、そこは既に奴らの縄張り。気づけば魔獣達に取り囲まれていたのです。


 これまで特異個体とされていた通常種より身体が大きい希少種が5体。そしてそれを従えるかのように岩の上に座る3mはあるさらに大型の個体。


 その個体には今まで見たことがないパーツが付いていたのです。


 見た事の無い相手です、迂闊に動けばどうなるかわからない。

 じっと睨み合い様子を伺う狩人達でしたが……やがて1匹の魔獣が動いたことにより時が動き始めました。


 通常種より強力な希少種で固められた群れですからね。その戦いは苛烈を極めましたが、狩人側も負けては居ません。何より数で勝っているので徐々に魔獣達は数を減らしていきます。


 その間もボスであろう大型個体は岩に寝そべりじっと様子を窺っていただけでした。

 手下のウルフ達を手伝う事無く、ただじいっとしているだけ。


 そしてとうとう取巻き達の討伐が終わり、残すは未知の大型個体のみとなりました。


 ある意味では退却のチャンス。


 ここで一次退却をして対策を練れば良かったのかもしれませんが……数で圧倒している事と、取巻き達を討伐した事により気分が昂ぶっていた事から戦闘の継続を選択。

 

 どうせデカいだけで他の魔獣と変わらないだろう、そう判断した私兵団は大型を取り囲み、ジリジリと距離を縮めていきました。


 その判断が命取りでした。


 のそりと岩から飛び降りた新型は飛びかかるでもなく、うろうろと左右に歩きながらなめるように私兵団たちを眺めていたそうです。


 やがて「突撃!」の声と共に攻撃を始めた私兵団たちでしたが、その刃は、矢は新型に届くことなく……その全てが猛烈な炎によってかき消されていったのです。


 あたりを覆い尽くす強烈な炎。見る間に私兵団たちは焼かれていきます。

 

 ……いわゆるブレス攻撃ですね。


 それまでの魔獣はみな姿こそ違えど、攻撃方法は動物と似たようなものでした。

 飛びかかるーとか、パンチーとか、噛みつきーとか。それがブレス攻撃をしてきたのです。


 予想外の反応――未知の攻撃に私兵団は為す術もなくどんどん蹂躙されていきます。

 前衛が一人倒れ、また倒れ。そして犠牲は後衛にまで届き始め……全滅は目前かという所まで追い詰められたのです。


 しかし、遠くから援護射撃をしていた者の中に賢い選択をした者が居ました。

 一人の若者は、次々と数を減らしていく仲間たちに謝りながら涙の退却。


 それは臆病風に吹かれたからでは無く、次へ繋げるための勇気有る退却でした。


 本部へ戻った若者が報告をすると驚きの声に包まれました。


 恐れおののいて逃げた者の言い訳ではないのか! 

 

 勿論、そういう声もありましたが、後日送られた調査隊が発見した多数の焼け焦げた亡骸によりそれは真実と判明。私兵団の心はポッキリ折れてしまいました。


 不幸中の幸い……ブレストウルフと名付けられたそれは、自分の縄張りから出ることは無かったので、そこを狩りの範囲から外すことにより狩りは継続できました。


 そう、人類はブレストウルフから逃げる選択肢を選んだのです。あの惨状を思い出すと再戦しようとは到底考えられなかったのですから。


 しかし、ある時その状況を打破する出来事がありました。

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