第七話 カイザー大地に感動

 無事パイロット登録がされた……と言うことで念願の自立稼働が可能となったはずだ。

 戦闘はレニーに任せても良いが、それ以外はブラブラひとりで歩きたい時もある。


 俺ことカイザーの全長は8mだ。ロボットにしては小ぶりな方だが、人間の生活域でも活動しやすいのでそれはむしろ幸運なことだと思っている。


 ……時折、自分の大きさ、というか視界に妙な違和感を感じる――もう少し大きかったような記憶があるのだが――パイロット登録によるシステムアップデートの影響かなにかだろう。それにもしも異常があれば直ぐにスミレが教えてくれるはずだからおそらくは気のせいだと思う。


「スミレ、自立稼働を試したい」

『そろそろ仰る頃合いだと思っていましたよ、カイザー』


 そんな会話をしていると地獄耳のレニーが聞きつけてすっ飛んできた。こいつの耳の良さには俺のセンサーも叶わないのでは無いか? たまにそう思う。


 もっとも都合が悪いことは聞こえなくなるみたいで、なんだかスミレが二人に増えたかのようで胃が痛い。


「自立稼働っていいました? なんですかそれ? も、もしかして……私抜きでも動けるんですか?」


「そうだぞ、今からそれを試す。あ、心配するなよ戦闘時は君に操縦して貰うから」


 不安半分期待半分という顔をしていたレニーだったが、期待全開の表情に変わって切り株に腰掛けた。


「よかった! 今更お役御免とか勘弁して下さいよ! カイザーさんが居ないと困りますからね!」


 何を今更。俺だってレニーが居ないと困るんだ、自立稼働が可能となってもパイロット解雇なんて言い出さないさ。 


「よし……ではスミレ頼む」


『はい、カイザー。それとレニー、私が貴方の名前を出して「許可を」と言ったら「承認!」と言って下さい。この作業には貴方の許可も必要ですから』


「ショウニンですね、わかりました!」


『では……』


『カイザーメインシステムロック解除 カイザー、許可を』

「承認!」


『本機の承認を確認しました。カイザー パイロット レニー・ヴァイオレット許可を』


「ショウゥウウニンッ!!!」


『……パ、パイロットの承認を確認しました……本部の承認、通信不能……非常事態により特例を申請……システムより承認を得ました。セーフティロック解除許可 承認 カイザーメインシステム 第2から第4まで機能制限が解除されました。自立稼働システム解除 変形システム解除 形態調整システム解除 以上、メインシステム第2から第4までのロックが解除されました』


「レニー、前から思ってたけど、ああいう喋り方何処で覚えてきたの?」


「ん? 何を言ってるか分かりませんがその場のノリですよ」


「そっかそっか。大変よろしいので今後も励むようにな」


 突然褒めらてよく分からない顔をしていたが、褒められたのは悪くなかったようでにへにへと笑っていた。


 さて、これで俺のシステムが色々解除されたようだ。俺としては自立稼働システムだけで良かったのだが、変形って何だっけ……? 大好きな作品なのにちょいちょい仕様を忘れてしまってる。6000年近くも眠ってたんだ、まあ仕方ないんだろうけど寂しいな。


「じゃ、ちょっと歩いてみるね」


 よっこいしょ、と立ち上がり歩いてみる。うむ、多少フラつくかと思ったが結構普通だ……そうか、歩いてるんだ、歩いてるんだな、私……!


「うおおおおおおお!!!6000年くらいぶりに自分で歩いたぞお!」

 

『おめでとうございます、カイザー 正確には 初めて、だと思いますが』

 


 ああ、そっか。スミレは俺の事情やアニメの世界のことは知らないんだものな。


 どういうわけか、スミレを含めたこの身体は新品の状態――原作の世界で主人公達と出会って居ない状態――でこの世界に納品されたカイザーが俺だ。

 だからスミレ的には俺が自立稼働システムを使ったのが初めてだ、という感覚なのだろう。まあ、些細なことだ。


「おめでとうございますー 6000年ぶりーとか私には分からない感覚ですが、半月寝込む羽目になったときは速く森で駆けたいと毎日外を見て呪ってましたからね、何となく気持ちは分かりますよ」


「まあ、そんな感じだよ。ありがとうな」


 実際のところ、俺としてはあんまり覚えては居ないとは言え人間時代から考えた話なのだ。この世界に送られる前は普通に歩いていたし、その感覚も覚えている。だからこそ、歩き回れずにずっと座りっぱなしでスミレとおしゃべりする日々は楽しいとは言えちょっと辛いところはあった。


 だが、今はこうして歩けている! 楽しい! 楽しいな!


「あ、そうだ。変形ってなんだっけ。スミレ、変形するよ」


『変形システム了承しました。モードチェンジユニコーン』


「えっゆにこーん?」


 聞き返す間もなく身体に妙な感覚が走った。微妙に視点が変わり、手足に感じる感触からどうやら四つん這いになっているようだ。レニーを見ると口をパクパクとさせてこちらを見ている。


 どうやら無事に変形したらしいが、ユニコーン?馬形に変形する仕様ってあったっけ……そういえばシャ……カイザー……13話……。


 うっ……!?


 何かを思い出しかけたが酷い頭痛がしてそれを拒否された。ロボットなのに頭痛って。あれ? 痛覚って無かったよね……? システムに拒否されたのが感覚的に痛みとしてフィードバックしたのかな? にしても痛み……ううむ、わからんがこの事は覚えておこう。


「わああ、わあああああ!!!しゅごい……カイザーさんしゅごいでしゅ……」


 目をキラキラさせながら俺の足にしがみつくレニー。そ、その若い娘がしゅごいとか……止めた方が良い……


「そうだ、スミレ、変形機能ってさらっと承認されて実現されたけど、元々このシステムってあったっけ?」


『それについては肯定であり不明でもあります』


「と、いうと?」


『私自身も不可解に思うのですが、先ほどロックが解除されるまで私自身カイザーメインシステムの2番から4番までの存在を知りませんでした、というか失念していました。

 私はAIですので失念すると言うことはありません。そしてカイザー、貴方も本来であればあり得ないことと言えます。我々はAIなのですから、人間と違い忘れるという現象は起きません』


「つまり、何らかの外部的要因により意図的に、もしくは何か事故があってデータを失った、ということかな?」


『そうですね、それを実証するには情報が足りませんが、私もその様に推測しています』


 もしかしたら今後なにかを切っ掛けとして俺の機能が増えることがあるわけか。ちょっと楽しみだな。いや、すっげえ楽しみだ! きっと機能が復活すると共に失われたカイザーのネタも思い出せるようになるはずだ。


 そう言えば、第4、形態調整システムってなんだろう?


「スミレ、第4ってどう使うんだこれ」


『それは大きさをある程度の範囲で変更することが出来る機能です。

 現在可能なのはそのユニコーン形態での大きさ調整ですね。今の状態は体調6mの巨馬ですが、調節することにより普通の馬サイズまで小さくなれますよ』


「どれどれ……形態調整システム発動」


『形態調整システム承認 カイザーユニコーンモード 縮小』


 と、みるまに俺の視界が下がっていき、身体が小さくなっていくことを実感させる。


 せっかくなのでしゃがみ込みレニーを乗せてやった。軽く駆けてやるとハイドウハイドウと調子に乗っている……まあ、たまにはいいだろう。後で股や尻が痛いと泣くのはレニーだ。


 

「しゅごい! しゅごいよお! かいざーしゃん……はああ~~!!」


 ……だから変な声を出すなと……。


『……といった感じで、様々な状況に合わせて良い具合の大きさに調整する機能ですが、カイザー怒らないで下さいね』


「今度はなんだい?魔獣の話を聞いちゃった後だから、それ以上怒るネタがあるとは思えないぞ……」


『いえ、もう重大な失態は無いはずです……。それで、変形や大きさの変更に関しましですが、実は特に私の許可を貰う必要はありません。戦闘中そんなことしてたら良いカモにしかなりませんからね」


「えっ?ええっ?」


「当然でしょう。敵は承認を貰う間、待ってくれるわけがないので。つまりカイザーが思うだけで出来ますので、次回からは特に許可は要りませんということです』


「ああ……そう……なんだ……」


『カイザー? 怒りましたか?』


「いや……ほら、そういうのはその……ロマンだから……無ければないで寂しいなって……でもそうだよな、名乗り口上しているときや合体シーンなんかアニメや特撮でよく見るけどよくまあそこで攻撃しないよなあって思うもん。

 稀にメタ要素が強い作品だとそこで攻撃することもあるけど……まあ、それはそれ。現実をみるよ……」


『言っている事の半分は分かりませんが、言いたいことや気持ちはわかりますよ……。

 私も余裕があるときであれば……お付き合いしますので……落ち込まないで……カイザー……』


「ありがとうスミレ……サンキューな……」


 そんな俺に「分かります! 分かりますよ!」と言った感じで頷きながら頭を撫でるレニー。うん、レニーもありがとう……いつか叶うならばレニーにロボットアニメを沢山見せて共に語り合いたいものだな。

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