第六話 魔獣の秘密
あれから一ヶ月。
レニーが寝泊まり出来る簡易拠点を森に作り、訓練をしたり、食料調達をしたりと日々頑張って貰っている。
理由として、レニーがまだ万全に俺を操縦出来ず、街に向かうのは少々恐ろしかったというのもあるのだが、折角魔獣が数多く暮らす場所にいるのだからと、それを狩り、素材として使って俺の武器を作ろうという魂胆もあったのだ。
レニーが普通の女の子であれば、ここまで長い事籠もる事は出来なかったと思うのだが、熱心に俺の元へと通ってきていた彼女には恐るべき野営の才能があったのだ。
野生動物を狩り、野草を摘み……なんとも器用にキャンプメシ……と言って良いのか分からないが、妙に美味そうなメシを作りだしてしまうのだ。
街に食料調達に行っていると前に話しているのを耳にしたが、そんなもんしなくても十分食っていけるんじゃ無いかな、この子は……。
そして才能はサバイバル術だけではなく、操縦技術にも光る物が見え始め。
まだまだ荒削りでは有るが、最低限輝力の制御を覚えたため、レニーは過剰な必殺技を撃つことは滅多に無くなった。
身のこなしについてもスミレから取りあえずの及第点が出て、ここ最近は魔獣から造った簡易的なナイフと蹴りで獲物を狩っている。
以前我々を死ぬ目に遭わせたあの魔獣、ブレストウルフは今では格好の獲物となり、逆に俺達が追い回す始末だ。連中のパーツを集めれば飛び道具も造れそうに思ったが、いくつかパーツが足らないので他の場所も探してみる必要があるな。
そうそう、奴ら、魔獣についてはスミレが渋々といった感じで説明してくれた。
◇◆◇
『カイザー、怒りませんか?』
「なぜ俺がスミレを怒る必要がある? もしかしてまた何か隠していたのか?」
『怒らないとおっしゃらなければ申しません』
「口調が変だな……まあいい、怒らないよ、話して」
『色々思うところがあって300年ほど起こさなかった、と言ったのは覚えていますね?』
「ああ、その事については仕方ないと思うし、怒るようなことじゃないさ」
『いえ……カイザーさんのメインシステム、つまりカイザーさんは眠った状態でお体だけ起きていたと言うのはお話ししましたよね?』
「ああ、脳は寝ていて身体だけ起きてる状態だったって事だよな」
『大体そんな感じです。人間であれば身体が完全に止まってしまったら死んでしまいますので其れで正しいのですが、カイザーさんの場合は事情が違います。本来であればメインシステムだけ停止させると言うことはあまり良くは無いのです』
「ちょっとまて、さっきから気になってたが、なんで君まで「カイザーさん」と呼ぶんだ?何時ものように呼び捨てにしてくれよ、むずむずするから……」
『あれ?何故でしょう…?何故だか「さん」をつけて呼ばないといけないきがして……。いえ、で、ですね……、お身体を起動させていると言うことは、輝力炉エンジンには火が入った状態です。
カイザーシステムを動かすには莫大なエネルギーが必要で、その全てを輝力炉でまかなっているわけですが、それが止まっている以上、余裕で炉のエネルギーは余ってしまいます』
「輝力炉は夢の無尽蔵エネルギー生成装置みたいな感じだったな。扱いを誤ればどえらい目に遭うから、その製造方法は人類には秘匿。コアとなる部分はブラックボックスで解析の取っ掛かりを作ることすら不可能だったと聞く」
『その通りです。そしてその無尽蔵に生み出されるエネルギーを私やカイザーさ……カイザーのサブシステムに回して全出力を上げて調査や分析をしていたわけですが、当然それでも余ってしまうわけです』
「なるほど、いくら頑張って使っても俺が寝てる以上は余剰エネルギーがどんどん発生してしまっていたと」
『はい、それでそれをそのままにしておくとお体に触ると申しますか、なんと申しますか……率直に申し上げるとカイザー様はやがて爆発してしまうとわたくしは思いました』
「おい、言葉遣い! 悪化してるよ!」
『ですので……大変申し上げにくいのですが、少しくらいなら良いだろうと、外部へ放出していたわけです……勿論、人体を含む生物への影響が無いことは社の方、クロモリの研究員達も確認済みでしたのでさほど気にせず余った分はどんどん、そりゃもうどんどんお外に放出しちゃってました……』
「影響は……無い、そうだね、確かに資料集にはそう書いてあったと思う」
そうだ、アニメ終了後に出た資料集にも其れは書いてあった。某目がグルグルになる系のなんとか線とは違いクリーンであると。多少漏れたところで人体や生物への影響は無いと明記されていた。
確かに、それで影響が出るようであれば間近で浴びることとなる作中の主人公達もただでは済まなかったと思うし、最後まで健康体で居た様子から何も無いと思う。
『ただ、ただですね。イレギュラーというものはどこにでも忍び寄ります』
「つ、つづけて……」
『この世界の在来種、動物たちには我々が知らない器官がありました。魔石です』
「魔石っていうとファンタジーなお話に良く出てくるアレかい?」
『そうです、その魔石です。心臓に隣接するその魔石は……輝力と凄く、すごおく相性が良かったようで……
中でも強い個体が持つ魔石は輝力の影響を受けやすかったようで、それの干渉により周囲から鉱物を吸収し始め、心臓部と魔石を融合させ魔導炉に変異。そこを基板として徐々に変異が全身に渡り……やがて機械生命体へと変化させてしまいまして……』
「では、この世界でちょいちょい困ったことを起こしている魔獣は、スミレさん、スミレさんがお創りになられた、そういう事で間違い有りませんか?」
『ちょ、ちょっとカイザー敬語はやめましょう。辛いです。怒らないと言いましたよね?』
「怒ってませんよ。ちょっと驚いただけですよ。私が寝ている間にスミレさんはそんな凄い事をやってたんですねー。どうりでスミレさんがお目覚めになったのと魔獣の発生時期が大体近い感じだったのだなあと納得した次第ですから。怒ってませんよ」
『カイザー、それを私のデータ上では怒ってると言うのです。いやほんと勘弁して下さい……自分から暴露したのですから……何卒……』
「まあまあ、カイザーさん、その辺で勘弁してやって下さいよ」
「レニー達だって魔獣からかなり迷惑を被ったんじゃ無いのか?」
「そりゃまあ、酷い目に遭った人は沢山居ますし、今もきっと誰かが餌食になってますよ」
『うう……レニー……ごめんなさい……』
「まあまあ、でもね?魔獣が居るおかげで私たちみたいなしょっぱいハンターが機兵に乗れるんですよ。ほら、機兵って大昔に創ったのを発掘してメンテナンスするか、自作するしか無いんわけで。発掘された
「前も思ったがロボットを自作って結構凄くないか?」
「うーん、自作と言っても見よう見まねですからね。動きそうな部品をくっつけて上手く動いたらラッキー! みたいな。世の中には凄まじいメカニックが居て機兵団の機兵に迫るスペックを誇る機体を作れるみたいなんですが、無理無理! 普通はむーりです!」
「ほほう、一度会ってみたいな……出会い頭に分解されそうな気もするが……」
「あはは! 可能性は無くはありませんがカイザーさんなら平気でしょ? 私がいくらやっても壊れなかったんだから……おかしいですよその装甲! 工具のが壊れちゃうなんて信じられません!」
「マジで壊す気でやってたのか……」
『わたしはこの子についてそう説明し、貴方に警告しましたよ……』
「まあまあ! で、それもこれもスミレさんが魔獣を作ってくれたおかげ! 魔獣のパーツが無ければもしかしたらもう機兵は存在しなかったかもしれませんよ。
国家所有の機兵にだってメンテナンス用パーツとして魔獣は使われているはずですからね」
(するとスミレがミスらなければ俺が望むロボが世に溢れる前の無双出来る世界にロールバックしていた可能性もあったのか……ぐっ……複雑だ……)
「私としては、この機兵文化のきっかけ、そもそもの原因がカイザーさんにあるのでは? と言い伝えから推測してるんですがその辺どうなんですか?」
「内緒だ」
「内緒ですかあ……まあ、それならそういうことにしておきます。スミレさんは私たち世界にもう一度機兵を触るチャンスを与えてくれた、今度は間違えず、良い方向で使うチャンスを与えてくれた。それでいいことにしましょうよ! ね!」
『レニー、良い子ですね。後でセンサーの見方を教えてあげますね』
「ありがとうございます! スミレお姉ちゃん!」
「なんだかお前らまた仲良くなったな……」
仲良くなるのは何よりだが、俺が嘘をついてるときに上がる数値とかそういう話は勘弁して欲しい、本気でそう思った。
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