第二話 迫り来る調査団
気づけば俺の周りに結構な人数が集まっている。数は200と言ったか……、人気者だな。
武装した兵士が大半だけど、中には軽装の人も何人か見える。学者とかそういう人たちかな? 唐突に現れた謎の巨人、ここの世界観に合わせて言うのであればゴーレムの調査団、と言ったところか。
周囲の音声を拾って見るも、言葉が分からないから何が始まるのかわからない。その辺融通してくれても良かったんじゃ無いかな、神様はさあ……。
「スミレ、言語解析はどう?」
『カイザー、お寿司屋さんが一流のケーキを作れるようになるまでにどれだけ手間と時間がかかるかわかりますか?』
「ごめんごめん、わかったよ。どうせ動けないし、見たところ大して進んでいない文明だろうからなんもできないでしょ。気にしないでそのまま解析を続けてて。俺は人間たちを眺めてるからさ」
『了解しましたカイザー』
整列した人間達に指揮官らしき人が指示を出しているようだ。
何か長い棒のようなものや杭のようなものを持ってるな。学者っぽいのが居る辺り俺をバラして解析しようとか思ってるのかな? まあ、そんな道具でどうこうできるようなもんでもないけど……。
アニメのカイザーに群がった不良達はクルマの解体でもするのかな? って感じの本格的な道具を使ってたからヤバかったんだよなあ。
あんな重そうなのどうやって持ってきたんだろ?
大体にしてそんなもんで無理やり解体するって言うのが理解出来ないよ。
せっかくのきれいでかっこいい外装を破壊しちゃ意味が……。
って、なんだ???
足元に衝撃を感じた。カメラを動かしチェックするとどうやら足に収納しているサブウェポンをはぎ取ろうと頑張っているらしい。
攻城兵器みたいな奴なのかな、何か大きな杭をガツンガツンと打ち付けていて、音と振動だけは立派なもんだけど、データを見ると『損傷無し』と表示されてる。
全然痛くも痒くもないし、まさに歯が立たないと言う状態だね。
ふふん、シャインカイザーをなめてもらっては困るよ。
敵性宇宙人組織、ジャマリオンの幹部の重い一撃だって輝力を上げたら耐えられるんだ、そんな人力の杭なんかじゃ傷一つつかないって。
ほらね、外れない。
うん、どうやらあきらめてくれたようだね。
やれやれ……まあ、お話しできるようになればさ、そんな真似をしなくても渡して見せてあげるような機会もあるよきっと。
そうなればパイロットだって見つかるだろうしさ、友好的な人たちだと思えたら、こちらの力を貸してあげることだって出来るしさ、それまでゆっくりと待っててちょうだいな。
『カイザー、工兵と思われる存在が2名コクピットに接近中。身動きが取れず、相手との意思の疎通が取れない今、脅威度LV4です』
「むむ……でも、コクピットハッチは機体の要だろ? 流石にどうにもできないでしょ」
ローブを纏った人たちが何やらバールのようなものを使って無理やりこじ開けようとしている。
そんなもので開いたらセキュリティも何もあったものじゃないでしょ……ほらね、無理だよ。いくら棒で叩いてもこじ開けようとしてもハッチを開けることなんか……――
『コクピットハッチ強制解放、未知の兵器による局所的な過剰エネルギーの流入が原因と推測。
未知のエネルギーの流入によりロックシステムが一部解除されました。
脅威レベル5、脅威レベル5、カイザー指示を!』
まいったな……第27話 奪われたカイザーそのままじゃないか……。敵対宇宙人、ジャマリオンの幹部による作戦でシャイン粒子に偽装されたエネルギーを流し込まれ強制的にコクピットハッチをあけられてしまうんだ。
その後、DNAレベルで偽装された偽竜也によりカイザーは奪われてしまって……
『カイザー! カイザー! 聞こえてますか!? カイザー!!! 工兵1名コクピット内に侵入! コクピット内に侵入!』
っは!
「うわ、まずい! 万が一適性があったらこいつがパイロットになっちゃうよ! こんなジャマリオンみたいなやり方する奴にパイロットは任せらんない!
スミレ! 連中が間違って認証しちゃう前に緊急射出お願い!」
『了解しました、カイザー』
『緊急射出 緊急射出 5秒後パイロットの緊急射出を実行します。カウント5,4,3,2,1 グッドラック』
でましたシャインカイザー名物パイロットだけ射出! 謎パワーによりパイロットのみを射出するエグい脱出機構だ。
『ヤバい状況のまま振り回されるよりマシだろ?』
っていうのが本部の光山 長官のセリフだ。機体は後から直せばなんとかなるけれど、そのレベルまで損傷を負うくらいの目に合えば、中に乗っているパイロットはただでは済まないからね。そのための緊急射出というわけだ。
ちなみに今使ったのは緊急射出なので、パイロットにはまだ備える猶予が残されている。
ガチでやばいときは即時発動する強制射出が実行されるんだけど、あれは緊急射出と比べてやたら遠くまで飛ばされる上に、衝撃吸収ギミックが中々にパイロット泣かせなんだよな。それをされなかっただけありがたいと思ってほしいな。
さて、射出された後だけれども……当然パイロットを保護するギミックはあるけれど、それはパラシュートじゃあない。
折角脱出しても、そんなのでフワフワしてたら敵から撃ち落とされちゃうからね。
じゃあどうやって衝撃から身体を守るかと言うと……飛ぶ際に輝力フィールドがパイロットを覆い、簡易な防御フィールドとして作用するんだ。
でも痛いだろうなあれ……自転車で盛大にコケたくらいのダメージと書いてたし……あ、巻き込まれて飛んでった兵士ともども二人落ちたな。あー生きてるけど痛そう……。
『カイザー、問題が発生しました』
「報告して」
『先程の侵入者により当機体、シャインカイザーのメンテナンス用マニュアルが盗まれました。どうやらダッシュボードを開けて持っていったようです。
なお、発煙筒及びオヤツは無事でした」
そうだった……なぜかこのシャインカイザーには自動車のような収納がついている。その中にはメンテナンス記録と保険、そしてマニュアルに何故か発煙筒まで入っていた。車じゃないんだからって思ったけど、クロモリ重工傘下の民間防衛組織だからその辺しっかりしてたんだろうな。
ちなみにオヤツはパイロットである竜也の私物で激辛スナックだ。そんな物まで再現してくれたのかと嬉しく思うが、なんだかとても力が抜ける……。
さて、マニュアルが盗まれた、と。
これが現代を舞台としたアニメの世界であれば大問題になるが、見たところここは剣と魔法の世界って感じだからどうかな……?
「スミレ、マニュアルの盗難により考えられる事は?」
『技術の流出……ですが、周辺の原住民の知識レベルを考慮するとまず言語を翻訳することすら困難と推測。
シミュレーションの結果では翻訳には数百年レベルの年月が必要であり、仮に読めるようになったとしても素材の加工や技術の理解等、模倣するのは不可能と思われます。
よって良くて破棄、悪くても国宝扱いとされ通常の用途では使用されないと推測。流出による脅威度LVは1と思われます』
「ありがとう。うーん、竜也が寝込むほど読まされたマニュアルはパイロットの教育にはかなり重要なんだよな……メンテナンスの技術を学べば機体をより深く理解して操縦センスが上がる云々でさー」
『その辺りは安心して下さいカイザー、シャインカイザーのシステム内に操作マニュアルはデータとして残っていますし、私やカイザーが口頭で解説することでもある程度教育は可能と推測されます』
「そうだね、戦術や操作は俺やスミレでなんとかできるし、メンテナンス周りは誰かに頼まなくとも自動でジワジワなんとかなるしな……時間は掛かってしまうが……」
その後も何度か兵士たちが訪れたが、スミレにより未知のエネルギーへの対策がされたおかげでコクピットが再度開けられることはなく、やがてあきらめたのか調査団が来ることはなくなった。
それはそれで寂しいものだけれども、まあ平和が一番だよねー。
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