第一話 シャインカイザー 異世界に立つ
『……システムチェック……オールグリーン……状況チェック……オールクリア……起動シークエンス開始……シャインカイザーシステム……第1から第4……第5から第8……サブシステム……第9から第12……オールグリーン……本部との通信……タイムアウト……緊急処置として認証システムを第1から第8まで省略……システム起動……はじめましてカイザー、私はスミレ カイザーのサブAIシステム、戦術サポートを担当するスミレと申します』
っは! さっきのは……夢……?
いや、そうじゃない。これは現実だ。視界が、視界に広がる景色が現実だと物語っている。
おおよそ人間の身長とは思えない視界の高さ。これはもしかしてもしかするのではなかろうか。
眼下に広がるは自然あふれる草原。そこにはなにやら大きな道が見え、その道の先には西洋風のお城としか言えないものが見える。
そして、これはやっぱり本当に願いが叶ったのではないか? そう思わせてくれるのが生身の体ではけして得ることが出来ないだろう情報だ。
視界に忙しく見え隠れする各種センサー、それにより付近の生物が丸わかりだ。小さな反応は狐のような哺乳類、あっちの大きめの反応はクマだろうか? そして向こうからたくさん来るのは……。
『カイザー、多数の人類が此方に迫っています。原始的ではありますが武器の所持を確認。敵対勢力の恐れがありますが如何いたしましょう?』
スミレ……カイザーと主人公、炎雷 竜也(えんらい たつや)のサポートをする戦術サポートAIだったな。こいつとカイザーの口喧嘩はなかなか楽しかったな……。
『カイザー? 聞こえてますか? カイザー? まさか、私を無視しているのですか?』
「おっと、すまない。起動後の確認作業に集中していてね。無視をしたわけではないんだ。改めてよろしくね、スミレ」
『なるほど、そういうことでしたか。それよりもカイザー、原始的な勢力への対処は如何致しましょうか?』
「うーん、いきなり脅かすのも悪いし、そこまで脅威的な存在とは思えない。ちょっと様子を見てみよう」
第一村人発見ってやつかな。いや、この場合は異世界人か? って彼らからしたら私が異世界人? いや、私は人じゃないか。異世界メカ発見! って感じかな。
しっかし、これが私……いや、俺……の声か……なかなか渋くていい声じゃないか……ふふ捗る……。
なんてくだらないことを考えているととうとう足元まで兵士たちがやってきた。
スミレは原始的って言うけれど、そこまでじゃないよな。
いわゆるファンタジー世界にありがちな中世ヨーロッパレベルの文明ってやつかな。
槍やら盾やらを持った兵士がずらりと俺を取り囲み、中でも偉そうな奴が何か一生懸命喋っている……けれど、声が小さくてよく聞こえないな……。
取り敢えずこちらから戦意が無いということを伝えておくことにしよう。
我々だって無闇に敵対したいわけじゃないし、仲良くしておきたいからね。
「あのー、俺カイザーって言います。えっと、悪いロボットじゃないですよー?」
フレンドリーに挨拶をしたつもりだった……けれど、兵士たちは腰を抜かしたり後ずさりしたり。ううんどうやらこれは言葉が通じていないようだな。
少し離れた後、集まって何事か相談していたけれど、やがて城へ戻っていってしまった。
せっかく人と出会えたのにこれでは寂しい……。
やはり言語というものは大事だな。まさかこの体でボディランゲージをするわけには行かないし、言葉による意思の疎通はどうにかしなければならないね。
「スミレ、彼らの言語って翻訳できる? 君の解析能力でちゃちゃっとさ」
『カイザー、私は戦術サポートAIです。それはちょっと無茶ぶりでは?』
「頼むよー。今の俺にはスミレしか頼れる相手がいないんだよ。戦術データの解析も言語データの解析も似たようなもんでしょ? ね?」
『お寿司屋さんにデコレーションケーキをお願いしているようなものだと思いますが……しかたないですね。カイザー、かなり時間がかかりそうですがやってみます』
「うん、お願い。じゃーその間に俺はあたりの探索でもしてみようかな。互いにできることからやっていこうじゃないか」
見たところ周辺は草原だ。この広さなら多少俺が歩いたところで人の迷惑にはならないだろう。
人型ロボットだから身体の感覚が同じで助かる。
今はちょうど体育すわりのような状態だから、地面に手をついて……よっこら……あれ? おかしいな? 感覚はきちんとあるのに身体を動かすことができないぞ?
『カイザー、それは無理な話です』
「あれ? 俺って自立機動もできたよね? そういう仕様だよね?」
『カイザー、何を言っているのですか? 機体のパイロット登録が済んでいない場合、本部の許可なく自立機働は不可能です』
「……本部への連絡は……」
『先ほどからしているのですが、応答ありません。トラブルでしょうか? ですのでカイザー、残念ながらパイロットの選任を待つしかありません』
「オーケースミレ。わかったよ。残念だけど今は我慢しよう……」
しまったあああああああああ!!! 失念してた! 作中では普通に自立機動してたから忘れてたけど、パイロット登録がされるまで動けないんだった……。
カイザーは1話で竜也と出会い、パイロットして受け入れることになるんだけど、次の2話でいきなり自立機動をしてみせて竜也を驚かせたんだよね。
『すまない、竜也。驚かせるつもりは無かったんだ。
本部からパイロットを見定めるため、登録がされるまでの間は自立機動を封印されているんだよ。
動けないフリをしていたわけじゃないぞ、本当に動けなかったのさ。
あの時君が現れ、俺に乗ってくれなかったら今頃スクラップにされていただろうな』
そうだそうだ。輸送機で移動中、竜也が通う迅雷学園の前に”わざと”落とされたカイザー。それを見つけた学園の不良連中がバイクのパーツにしようとカイザーに手をかけ始める。
そこに通りかかったのが竜也だ。助けを求めるカイザーの声を聞き、ボロボロになりながらも守り抜くんだよ。
両手を広げ、不良達の攻撃を黙って歯を食いしばって耐え抜いてさ……。
そうこうしているうち、お約束通り現れるのが悪の宇宙人メカだ。それを見て逃げ出す不良達。
そして――街を護るため、カイザーはコクピットを開け竜也を向かい入れる。竜也の正義感溢れる行動からパイロットとして相応しいと認められ、カイザーとの登録が結ばれるんだ。
『そういう事なら手を貸すぜ! へへ、女の子じゃなくてすまねえな! 今日から頼むぜ相棒!』
『なーに、女の子はスミレで間に合ってるさ! 行くぜ相棒! 頼むぞスミレ!』
くう~~~!!! 見たくなってきた! 俺もそんな流れで良いパイロットと早く出会いたいなあ。
『カイザー、多数の人類が此方に迫っています。数200、脅威度レベル1上昇、如何いたしましょうか?』
むむ、さっき逃げてった連中が仲間を連れて戻ってきたのかな?
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