異世界輝神シャインカイザーR

茉白 ひつじ

プロローグ シャインカイザー降臨

プロローグ シャインカイザー誕生

『……システムチェック……オールグリーン……状況……クリア……起動シークエンス……完了……おはようございますカイザー、前回のシステムスリープから5834年5ヶ月10日が経過しています……』


 なんだかとっても長く眠っていたような気がする……。


 一体どれだけ眠ったんだろう……?


『5834年5ヶ月10日です。ついでに言えば現在朝8時45分、健康的なお目覚めですね』


 この声……なんだっけ……?  何か聞き覚えがあるような……?


 ……そうだ、この声は……そして、俺がこうして誰かの声に起こされたのはこれで3度目だ。


 一度目は……そう……あの時……そしてその後俺たちは……。


  ◇◇◇


「……目覚めなさい……目覚めなさい……迷える魂よ……目覚めなさい……」


 んん……? なんだ……うるさいな、テレビ消し忘れたかな……。

 というか、いつの間に寝てしまったのだろう。疲れていたのかな? よく覚えてないけれど、どうやら寝ちゃってたみたいだ。


 何時もよりスッキリとした目覚め。

 薄く開いた目に眩い光が飛び込んでくる。


 もう朝か……。


 あれれ、そういやいつの間に家に帰ってきたのだろう? 

 仕事帰りに予約していたアニメのボックスを買ったところまでは覚えているのだけれども。


 ……ああ、そうだ。その後コンビニによって、一人アニメ祭り用の飲み物と食料を買い込んで……あれ……? どうしたんだっけ……。


 おかしいな? 飲み会の約束をしていた記憶は無いし、私には帰宅途中に居酒屋さんに飛び込む習慣も無い。


 お酒を飲んで記憶を飛ばす――なんて事は無いはずだ。

 ううん、なんだか混乱してきたな。


 取りあえず水でも飲もう……と、体を起こしたところで違和感に気づく。

 ……む……ここは愛すべき我が城アパートでは無い……よね?


 ここは一体……?

 なんだかとっても不思議な場所だけど……何処なんだろう。


 今の状況を例えるならば、プラネタリウムで寝落ちして目覚めたような感じ……と言えばいいのだろうか? 全周に星が瞬いていて、足元には地球かな? 何やら青い星が見えている。


 そして部屋に差し込む日差しだとばかり思っていたものはそうではなく、なにやら人型の良くわからないゆらゆらと煌めく謎の存在で――


 ――ただ静かにじっとこちらを見つめているようだった。


 自然とその煌きに身体が向かう。


 好奇心なのだろうか、それとも本能なのだろうか。


 何故そんな事をしているのかは自分でもわからない。けれど、恐れなど感じず、ただひたすらに前に前にと身体は進んでいく。


 そして煌きの前までいくと、それはゆっくりと口を開き言葉を発した。


「おはよう迷える魂よ。どうやらようやく目覚めたようだね。寝起きの君に言う様な言葉では無いかもしれないが率直に言おう。君は死んだ」


 よくわからない場所でよくわからない存在から目覚めの挨拶をされたかと思ったら唐突に死を宣言された。

 

 寝付けない夜にさ、いつか我が身に訪れる死について考えちゃって余計に眠れなくなったりする――なんて事はしばしばあったけれど、まさか『君は死んだ』なんて誰かから言われる日が来るとは思わなかったな。

 

 唐突にそんなことを言われて(そうか、死んだんだ)と冷静に納得できているのはきっと、現在置かれているこの非日常的な状況のおかげだろう。


 いや……なんというんだろうな。

 どうもこの神々しく煌めく存在から『死んだのだ』と言われると妙な説得力があって疑おうっていう気持ちがひとっつも浮かばないんだ。


 ……夢だったら良いなと思うけれど、きっと自分は本当に死んでしまったんだろうなって心の底からハッキリ理解してしまっている。


「ああそうだ。残念ながら君は死んでしまった。そして、魂となった君は奇しくも私の元に辿り着き、私の管轄する世界で輪廻転生を待つ存在となっている。

 次の生は虫か獣か魚となるか……運が良ければ人となるかもしれないね。

 わかりやすく言えば転生ガチャを引く直前というのが今の君が置かれている状況だ」


「転生……ガチャて」

 

どうも調子が狂う説明についツッコミを入れてしまったけれど、煌めく存在はそれを無視するかのように話をどんどん進めていく。


「しかし、退屈な私の趣味に付き合ってくれるなら望みを一つ叶えた上で望みの姿に転生させてあげよう。

 つまり、特典付きスカウトチケットを使えるというわけだ、どうだい? 魅力的な提案だろう?」


 何か良くわからないことを言ってるけど……これは良くある異世界転生という奴のフリだろうか? 


 変な例えをされたせいでなんだか少し胡散臭いものを感じちゃったけど……それは置いといて、あれかな? 邪悪なものから世界を護れ! とか、混乱した世界をなんとかしてくれーとか、そういうあれなのかな……。


「いや……そう物騒な願いではないよ。私の世界はもうずっと平和……悪く言えば停滞していてね。そろそろ新たな刺激が必要かなと。

 そこで、外部の人間に多少の力を与え送りこんだら世界が引っ掻き回されより素晴らしい世界になるのではないか、そう思ったんだ」


 えぇ……。普通平和ならそれでいいんじゃないかな? 神が介入するまでもなく安定し、手がかからない世界……それは何よりじゃないか。


 それをなぜ、引っ掻き回そうだなんて……?


「君の記憶を参考にして分かりやすく説明しよう。街づくりゲームで安定しきった頃、災害を起こしたり宇宙人に攻め込ませたりしたくなることは無いかね?」


 ああー! あるある! 無限に続くモードをコツコツ遊んで遊んで遊び切っちゃうとすることがなくなって破壊衝動に襲われることあるね! 復興作業がまた楽しいんだ。その過程で今まで気づけなかった事に気づけたりしてさ、再開発後のが発達したりして……。


「って、あなたは多分……私の感覚で言う所の神という存在だと思いますが、神がそんな事考えていいのですか? 私が邪悪な思考の持ち主だったらどうするつもりなのですか」


「お、やっと喋ってくれたね。心を読めるからそれでも会話は出来るけど、声が無いというのも寂しいから嬉しいよ。

 さすがに私も自分の世界が滅亡させられてしまうというのは嫌だよ。

 だけど、君は大丈夫。君なら私が望むように世界を滅ぼすこと無く、程よい加減で引っ掻き回してくれると思うんだよ」


「うーん、まだちょっと釈然としませんが、今の私は魂だといいましたよね。

どの道なにかにならなきゃ無いのでしょうから取り敢えず詳しいお話を聞かせてもらいます」


「あまり難しく考えなくていいよ。君が好きな見た目、好きな性別、好きな年齢、境遇で新たな肉体に転生させてやる、ただそれだけの事さ。

 その上で願い事も一つ叶える。勿論、元の身体のまま、そのままの意味でこの世界の住人として蘇生してあげることもできる」

 

「しかし、残念ながら元の世界に帰るという話は無いものと思ってくれ。彼の世界での君の生はもう終わってしまった。その因果は最早変えることは叶わないからね」

 

 願いか……。


 普段から大した欲もなく暮らしてきたから特にそんなにぱっと出るような願い事は無いんだよね。


 これってファミレスで席に着くなり「何食べる?」って言われたようなものだよ。


 自分はメニューを眺めじっくりと吟味したうえでオーダーしたいタイプ。

 とっさに選べと言われても直ぐにぱっと浮かばないし……新たな人生でしたい事とか考えてもなあ……。


 したいこと、したいこと……ああそうだ、買ったボックスまだ見てなかったんだよなあ。


 死んじゃったからな……畜生、悔しいな。地上波版で没になったカットが収録された特別版や初回特典の改稿版設定資料集……みたかったな……。


 ……そうだ! これだよ!


「決まりました!」


「よし、君の願いは何かな? たいていの事なら叶えてあげよう! 

 傾国の聖女様かい? ハーレムパーティー製造機かい? 腹黒ショタでも悪役令嬢でも何でもなんでもこいだ!

 出産直後からでも、4歳位で目覚めるパターンでも……告発シーンからの目覚めはちょっと面倒だけど……それも出来なくはない。

さあ、好きなだけわがままを言ってごらん」


 私がなりたいのは聖女でも悪役令嬢でも……勇者でもポーターでもない。

 私がなりたいのはそう言う異世界テンプレ境遇じゃない。


 ……もう見れない、見れないのならば……自分がそれになってしまえばいい!!!


「はい! 真・勇者 シャインカイザーにしてください!」


 言い切った。言ってやった! どうだ! 言ってやったぞ! 

 この願いが叶えば未練はもう何もない! 向こうの世界で思う存分新たな人生を謳歌してやる!


「し、し、しんゆうしゃ?」


「はい、シャインカイザーです」


「ええと……まってね……君の記憶の情報を調べさせて貰う……はあ、ロボットアニメの? ……ロボット、と呼ばれるもののようだが、それになりたい……? と?」


「はい! シャインカイザーとなり異世界を引っ掻き回してやります! あ、願いについてはロボという概念が無い世界に卸して貰えればって思ったんですが、神様の世界に行くという前提があるんですよね……うーん」


「いや……いや……ううん、ちょっとまって、まってね。ええと、あ、あった。今君が遺してきた記録媒体や本からカイザーについての情報を取得しているから……ふうむ……ほう……ううっ……ふう……」


 神様的な存在が腕組みをして虚空を眺め唸ったり感心したり興奮したり挙げ句の果てには泣いたりしている……。


 この小学生達に世界を救わせようとしそうな見た目の神は何をしているんだ……


「いやいや……流石に地球の子供たちに世界護ってとか言わないから……

 ふう……君には申し訳ないが、BD-BOXを含めて全て見させてもらったよ。シャインカイザー……特に新規カットが大幅に追加されたディレクターズカットバージョン……最高だった……まさか資料集にだけ存在するあれがな……」


 な、なななな!? ボックスを……見ただとう!?

 資料集にだけ存在するアレ? どれだよ! うわー! なにそれ! 見れないならなる! って言った私の決意は!?


 ていうか、見れちゃうの? うわー! ずるいな! 私も見れるのかな? 見れるなら見たいな! 見たい!


「ああ! ずるい! 私は観れないんですか? 観せて下さいよ!」


「ああ、実物が有るわけじゃないからね。残念ながら君には渡せないんだ。

 君が亡くなった時の所有物の記録から再構築して読み取った……いうなれば私だけが読み込めるデータのような物だから。

 しかし……ううむ……シャインカイザーなー」


「くっ……で、どうでした? シャインカイザーは! なれるんですか? なっていいんですか?」


「滾る炎が背中にある限り! 俺の勇気はとまらねえぜ!」

「おっ! 25話 蘇る炎、終盤に竜也が言ったセリフですね。あそこ熱いですよねえ」


「いやあ、いいねシャインカイザー、気に入ったよ……最高だった。

 よし分かったよ。君の願いを叶えてやろう。あれなら……なんとかしてくれるかも知れないし……いや、大歓迎だな! うん!  

 さっきロボが居ない世界って言ってたけどね、あんなの存在している世界の方が珍しいからね? 私の世界にだってもちろん存在しないよ。私が管理する世界はいわゆるテンプレファンタジー世界だからね!」


「やったああ!」


「あ、もちろんフル装備にしておいてあげるからね。

 折角シャインカイザーになるのに必殺技の再現が出来ないんじゃ寂しいだろうし、装備以外にも作品再現のために色々と便宜を図っておくよ」


「お気遣い感謝します……!」


 神様にロボットアニメのBD-BOXを見せるという滅多にない事をしてしまったけれど、そのおかげで細やかな夢が、お子様時代思い描いた夢が最高の環境で叶うわけだ。


「では、早速だが君を送り出そうと思う。新たな体で活躍してくれることを心から願うよ!」


 神がより強烈に輝き視界が白く覆われていく。徐々に意識が薄れ……て……。

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