第二章 違う世界での生活 第二話

 そうして次の日からも本を出してはたなに詰め、詰めた先から読破しつつも魔法を覚える日々が続いた。

 色々な料理を作って楽しみながらもカフェのメニューを大量に試作し、ようやく開店してから早二か月ほど。

 この世界に来てから三か月は経っただろうか。

 見事にお客さんの来ない日々を、延々読書や魔法の勉強などにててまんきつしている。

 魔法は様々なものがあり、戦いに身を置く人たちはこうげきや回復魔法を主に使うようだ。

 どちらも人によっては使えたり使えなかったりするらしく、攻撃ができるから回復もできるという訳ではないらしい。

 それ以外にも生活と魔法は切っても切りはなせないほどに密接に関係している。

 魔法が使えない人もいるし、どのくらいの魔法が使えるようになるかは人それぞれ。

 色々試してみた結果、もらった大魔法のえいきようなのか私の性格の影響なのかはわからないが、私が得意な魔法はぼうぎよや回復系、そして日常のこまごましたものが中心のようだ。

 いつの間にか使える事が当たり前になった魔法が増え、お店のだんも前で手をかざせばほのおが燃え上がる。

 初日は元々暖炉にあったりよくを使ったが、今は自分の力でける事ができるようになった。

 この暖炉には辺りに燃え移らない魔法もかけてある。

 本が多いこの店にはなくてはならない魔法だ。

 私が現在住むこの国は「オセル」という名前らしい。

 一年を通して常に雪が降りしきる雪国で、ここに来た時に考えた通りすべての道には雪が積もらない様に魔法が掛かっているそうだ。

 王が治める大国の一つ、その王が妻を一人しかめとらなかったので子供は王子二人と王女一人。

 ほかの一夫多妻制の国に比べると子供の数は少ないが、家族仲が良くぎ争いもない。

 防衛的には団が機能しており、国の周りも高いかべで囲まれているので雪と相まってようさい化している。

 定期的な騎士団のものとうばつもあり、騎士団長と副団長のうでが良いため他の大国に比べて平和であるようだ。

 戦争になったり魔物におそわれたりしたら真っ先に死んでしまいそうな私にはありがたい。

 そしてこの国、というよりもこの世界の主な交通手段は馬だ。

 魔法があるので不便さは感じないが、電化製品などはもちろんなく、私が生まれ育ったあの世界より文明レベルはずいぶん下なのかもしれない。

 ただ食べ物や常識などは通じる所があるため、あくまでここは別の世界という事で色々となつとくしている。

 問題なのはその馬だ。

 こんな森の奥に建つこのお店に来る人がいるのならば、ほぼちがいなく馬で来るだろう。

 店の外の庭のスペースにうまやと運動できるようなスペースを造って、雪が積もらないように屋根をつけて暖かい空気がじゆんかんする結界で囲った。

 もちろん水場やえさ場も完備、馬が好きな草が豊富にしげる様になっている。

 馬がひつの国だけあって馬に関する専用の魔法の教本があった事にはおどろいたが、とても助かった。

 そうの自動化までできるというのだから魔法様々だ。

 救世主という事で私の魔力が高いのはあの神様の言う通りだった。

 最初は子供向けの魔法から覚え始めたのだが、魔力が高いせいかかなり高度な魔法も難なく使いこなす事ができている。

 ただしなぜかこうげきほうはうまくいかず、そのりよくは直接平手打ちをした方が強いのではないかと思うくらいだ。

 本気で何かを攻撃しようと思った事はないので、実際はどうなるのかはわからないのだが。

 しかしその反面、結界などの防御系の魔法はかなり強いものが使えた。

 これなら大魔法でなくても身を守れるだろう。

 今は回復系の魔法を覚えているのだが、やはり自分が知らない事を覚えていくのは楽しい。

 生活に便利な魔法を次々と覚えながら、カフェで役に立ちそうな魔法を使う日々。

 店内に音楽を流す魔法、来客を告げる音を頭の中にだけ流す魔法、本がよごれないようにする魔法……それ以外にも覚えるのが楽しすぎて何に使うのかよくわからない魔法まで覚えてしまっている。

 そして魔法の中でも救世主のみがあつかえる大魔法がいくつかあり、修得した救世主がいる国は世界を統一できるほどの力を得ると言われていた。

 救世主は魔力はすごいが魔法自体は覚えないと使えないため、救世主を得た国はトップクラスの教師をつけて必死に魔法を覚えてもらおうとするらしい。

 今の時点では大魔法を覚えた救世主はいないようだけれど。

 私が神様にもらった結界の大魔法、使えばこの国を丸々囲える上に大きなの自動回復機能までついているらしい。

 使ったら一発で救世主だとバレてしまうだろう。

 自分の事はわかっているし、現実はしっかりと見えている。

 どれだけ祭り上げられようとも、どれだけ期待されようとも、私には魔物退治なんて絶対にできない。

 努力とかそういう問題ではない。

 他人に攻撃意志を持って害するというこうを積極的にする事はできないというだけだ。

 例えばこの力を持ったままもうじゆうおりほうり込まれたとして、襲いかってくる猛獣を適切に対処しながら殺す事なんて私にはできない。

 猛獣がねむっていたりしてていこうできない状態だったとしても、今度はわいそうで攻撃できないだろう。

 自分が命の危機におちいったとしてもとつに動けるかどうかすらもあやしい。

 平和ボケした国で大人になった私には荷が重すぎる。

 だから絶対に救世主だという事はバレないようにしなければならない。

 高度魔法は使っても平気だろう。

 使える人間はごくごくわずかとはいえ、魔法自体は確かに存在しているのだから。

 この世界の人達が救世主の目印にしているのは、体に現れると言われている刻印だ。

 かみの毛の下、おまけに後頭部にある私の刻印はよほどの事でなければ見つからないだろう。

 風がいて髪が揺れたくらいでは見えない位置だ。

 見る事ができるとするならば至近きよでかきあげた時、そしてだいほうを使って光ってしまった時くらいだと思う。

 髪を束ねる事でさらに見えにくくなっているので、めつな事では気付かれたりしないはずだ。

 何となく、窓の外を見つめる。

 外出していないせいもあるが、ここが別の世界だなんて信じられないほどの平和な日々。

 大好きな読書にひたり、メニューを考えるために料理を作り、魔法を覚えた数か月間。

「今日もお客さんは来ないかな」

 来なければ来ないで、いつも通りの時間を過ごすだけだ。

 なんせこの世界に来たばかり、読んだ事の無い本の方が多いので時間はいくらあっても足りない。

 ドアのかぎを開け、外にブックカフェと書かれた看板を出してとびらにオープンの札をかける。

 馬小屋の方には使い方の説明を書いた看板も立てたので、もしお客さんが来てもだいじようだろう。

 そうして店内へもどった私は、午前中に最近夢中になって読んでいたシリーズ物の本を一冊読み終え、お昼を食べてから新しい本をほんだなに追加する事にした。

 じっくりと読み進めているのでまだ読んでいない本も他にあるのだが、午前中に読んでいた本に続きがある事を知ってまんできずにシリーズ全てを仕入れたのだ。

 この続き部分の本は作者が戦争でくなった後に様々な理由から絶版になっており、通常ならばもう手に入らない物だった。

 前作が気になる所で終わっていたので、この本のファンは必死に探しているだろう。

 ただし私にはこのペンダントがある。

 ペンダントで出した本をかかえている今の方が、初日に家具を出した時より楽しくて幸せだ。

 こぼれるみをおさえられないまま、次の部分の本を取り出して残りの本を棚へしまい込む。

 そうしてその本を読み始めてしばらく、時刻が夕方に差し掛かった時だった。

 集中して読み進めたためか一冊読み切ったので、次の巻とこうかんするために本棚へ歩み寄る。

 目当ての本をき取って、代わりに持っていた本を戻そうとした時、今まで鳴る事の無かった来客を告げる音が頭の中でひびわたった。

 ゆっくりと開いていく扉とすきから吹き込んで来る冷たい風。

 音を立てない様に静かに扉を閉めた人物が、かぶっていたゆきけのフードを外す。

 かたぐちで切りそろえられたくろかみれて、落ち着いた印象を受ける灰色のひとみがゆっくりと店内を見回してから私の方を見た。

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