エピローグ 俺だけにウザい後輩と、これからも
ウザ後輩一家の、その後
「交際OK、もらった!」
わーいと、アンズ会長が両手を上げて喜ぶ。
いつもの放課後、生徒会会議が終わった。みんなは帰っている。
俺たちは居残りの時間を利用し、話し合う。
会長が、経過を報告してくれた。
両親と話し合い、交際を認めてもらえたらしい。
「誠ちゃんなら、全然大丈夫だろうって!」
「だよな」
俺は大して驚かなかった。
誠太郎なら、受け入れてもらえると思っていたから。
「別に伝統を重んじるとか、特に苦じゃないんだけどな。俺も誠太郎も」
誠太郎とうなずき合っていると、「ああ」と会長が声を漏らした。
「それはもう、大丈夫。斉藤家の権力者が失脚したから」
うわ、マジか。
「実はね。我が家……っていうか本家がさ、あのお見合いを仕切っていたの」
「おじいさまか?」
確かクルミのおじさんが電話していた相手は、クルミの祖父だと覚えている。
「違う違う。本家のヤツ。祖父の兄なんだけどね」
一族の中で特に斉藤家が嫌っていたのは、その人だったらしい。
元々一族から爪弾きにされそうになっていて、仙道とのパイプを繋いで起死回生、と行きたかったという。
要は、クルミを使って自分が権力を握ろうとしていた。
「どうりで、変に話が急だなと思っていたんだよなぁ」
「そいつが裏で、手を引いていたの」
結果は、見ての通りである。家の勢力も、斉藤祖父に戻った。
今は悪行も仙道家にバレ、追われる身に。
財産も没収され、療養中だという。
もう長くはないだろうとか。
「で、そいつはメンツ潰されて没落したのね。だから、お見合い台無しにしてくれてちょーどよかったわけ」
俺と仙道は、知らず知らずのうちに姉妹を救ったことになる。
「面倒な親戚も消えたし、私は満足!」
力こぶを作って、アンズ会長は喜ぶ。
「よっぽどその人が嫌いだったんだな」
「あの人が好きって人は、見たことない」
どれだけ、嫌われてるんだよ?
「とはいえ、これで堂々と誠ちゃんとデートできる!」
誠太郎の首に、アンズ会長が抱きつく。
「オレは、こっそりデートも楽しかったけどな」
「それはそれで残念だけど」
アンズ会長が、アソートを誠太郎の口へ放り込んだ。
俺とクルミは、離れた位置でアソートとコーヒーを楽しむ。
「よかったぁ。もっと話し合いが通用しないと思っていたから」
心底ホッとしている風に、アンズ会長は語った。
「どこまで信用がないんですか? 父と母も、泣いていたじゃないですか。そんなに疑われているなんて思ってもいなかった、って」
「だってさ、現状維持がモットーの家訓だよ? 変わり者の誠ちゃんが認めてもらえるか、心配だったんだもん」
古典的な金持ちに対し、誠太郎は変化を恐れない。
誠太郎は確かに、伝統を重んじる家にとっては鬼門のような存在かもしれなかった。
「あの家に口出しする気は、起きないからね」
「だから、近いうちに家を出ると思う」
やはり、両親とは水が合わないようだな。
「本気なんだな?」
「私にとって大事なのは、贅沢な暮らしじゃなくて誠ちゃんだからね」
会長に必要なのは、経済的余裕ではなく理解者なのだろう。
視野の狭い世界はお呼びじゃないのだ。
「私、思ったんだ。リクトくんなら、干渉しないからいいんじゃない?」
「え、どういうこと?」
「ウチのお婿さん、どう?」
「はあ⁉」
とんでもないことを、アンズ会長は告げた。
「リクトくんって、ネコちゃんさえ飼えれば他に何もいらないんでしょ?」
確かに。普通の家でいい。
たいして偉くなくても、出世できなくても。いや出世はないな。
ネコといられないなら、忙しい日々なんていらないから。
「我が家の方針にも、興味がないんだよね?」
「まあ、たとえ伝統を重んじるったって、俺は気にしないけど」
「だったらさ、ウチのお婿さんになりなよ。クルミもつくよ」
「発想が飛びすぎだろ⁉」
いきなり、何を言い出すんだ⁉
「待て待ってくれ! そんな理由で結婚とか、ありえないだろ?」
俺が言うと、クルミが反論する。
「いいえ是非どうぞ」
「お前まで、何を言い出すのかと!」
ネコを飼いたいだけで結婚まで発展するとか!
「あたしが、先輩の面倒を見ますよ。その間に、先輩がネコの面倒を見てください」
夢のような生活だな、ってちょっと揺らぎそうになった!
そんな自分が憎い!
「考えておいてね。おじいさまも、きっとお喜びになるから」
ああ、斉藤祖父か。
「家の権力が戻って、よかったな」
俺が言うと、誠太郎が首を振る。
「斉藤のじいさまが泣いていたのって、それも理由にあっただろう。けどさ、クルミちゃんが自力でカレシを作ったことが、なにより嬉しかったんだと思うよ」
たしかに、あのとき斉藤祖父は「よかった」と言っていた。
それはきっと、クルミを祝福してくれていたんだ。
「で、リクトくんは、クルミと一緒にいたい?」
「そりゃあ、まあ」
もちろん、側にいたいと思っている。
「クルミと同居したい? クルミの方はノリノリよ?」
「いずれはな」
クルミが、なんとも言えない顔になっていた。
両頬に手を当てて、いやいやをする。
「あれッスね。間近で聞くと恥ずかしいッス」
「お前が照れるなよ! こっちが照れくさくなるだろ!」
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