第三章 ウザくても彼女にしたい!

ウザい後輩の隠し事

 翌日の放課後、俺たちは生徒会の後に呼ばれた。


 一応、授業や生徒会自体は何事もなく終わる。


「なんでまた、隠してたの?」

 特に責めるでもなく、誠太郎が尋ねてきた。


「ごめんなさい。みなさん」


「別に悪い子としてないから、謝罪はいいよ」

 誠太郎は笑って許す。


「むーう、許しませんっ!」

 だが、アンズ会長は頬をプクーっと膨らませたまま、首を横に振った。


「悪かった。アンタから妹を取ったんだしな」

「ん? そこに怒ってるわけじゃないよ?」


「そうなのか?」

 俺は困惑する。


 てっきり、付き合うのはダメと言われると思っていたので。


「リクトくんなら、ちゃんとクルミを幸せにしてくるって思ってます。だから、二人の交際自体には、反対じゃありませんっ」


「じゃあ、何怒ってるの?」

 誠太郎が問いかける。


「お姉ちゃんは、ウソをつかれていたことに怒ってます! もうプンプンだよ!」


 怒っている理由は、俺たちが正直に話さなかったことについてだった。


「それは、ごめんなさい」

「悪かったよ。会長」


 二人して謝罪するが、会長の怒りは収まらない。


「もう! 二人が付き合ってるって知ってたら、もっと色々計画したのに! 別荘借り切って夏休みデートとか!」


「あの、そういうことをされると気を遣うから、黙っていたんですけど……」

 会長の憤慨っぷりに、クルミも反論する。


「でもさあ、お姉ちゃんとしたら協力したいじゃん! 誠ちゃんにベッタリで寂しい思いをしてないかなーって!」


「いいんです! お二人はカップルなのですから、好きになさってください!」


 会長からすると姉心なのだろう。


 が、妹にも妹でやりたいことがあるようで、両者は譲らなかった。


「お姉さんは、いつもそうじゃないですか! 簡単に周囲を巻き込んで! だから言いたくなかったんです! 姉のペースに振り回されるから! そういうところは斉藤家と同じじゃないですか!」


「なによ、迷惑なの⁉」


 ヤバイスイッチが入ってしまったようだ。アンズ会長が声を荒らげる。


「お姉ちゃんは、みんなが楽しいかなって思って企画したのーっ!」

「あたしだって自分の力で先輩とデートしたんです! 姉さんは黙っててくださーい!」

「なにおーっ! 黙ってろって何よお⁉」


 言っていることはキツイが、コントみたいな微笑ましいケンカだ。とはいえ、これ以上いけない。


 こういう言い争いになるから、みんなに黙っていてくれって頼んできたんだな、クルミは。


「まあまあ二人共、ケンカはやめてくれ」 

「そうだよ。どっちも思い合っているのはわかるだろ?」


 俺と誠太郎で、仲裁に入る。


「要するにあれだよね。クルミちゃんはリクトと二人っきりになりたいんだ?」

 誠太郎が、二人から話を聞いた。


「そうですね」


 このメンバーで最も冷静なのは、誠太郎である。

 頭に血が上っていたクルミも、落ち着いてきた。


 クルミの言葉を聞き、アンズ会長が何かを言いかける。


 が、誠太郎は自分の口に人差し指を当てただけで、会長を黙らせた。


「それは、お姉さんが邪魔ってわけじゃない。お姉さんにも、ボクと静かに過ごして欲しいという気持ちからなんだよね?」


「はい。そうなんです」


 続いて、アンズ会長の方を向く。


「でもアンズちゃんは、みんなでダブルデートがしたいと。賑やかにしたいと」


「うん。みんな気心が知れているんだし」


 会長に悪気がない分、クルミも拒否しづらかったように思える。


「どっちが悪いってわけじゃ、ないじゃん」

「そうだね」


 どちらも思い合っているから、こういう悲劇を招くんだ。


「悪気がない分、こじらせちゃうよね」

「だな」


 しかし、そんな単純な話ではないらしい。


「言ってくれたら、お見合い話も断ったのに!」

「見合いって?」

「クルミちゃんに、お見合いの話が来たの。もう急に決めてきて!」


 また、アンズ会長は頬を膨らませた。


「動物園でクルミちゃんに助けてもらった子どもがいてね。その子の親が、ぜひともウチの子と会ってくれって」


 あのときか。


「動物園には、リクトくんと行ったの? なんでクルミちゃんが動物園にいたのか、わからなかったんだけど?」


「はい」と、クルミはうなずいた。


「お前、家族に知られていたのか。動物園に行ったこと」


「実は」

 言葉少なに、クルミは言う。


「そっかー。『一人になりたかった』って、家族には話してたよね?」

「そうでしたね」


 ハシビロコウを見に行きたいと、ごまかしたんだそうな。


「よく、そんなウソをつけたな」

「あたしは、家族に興味ありませんので。基本塩対応です」


 やけに淡白な家族関係だ。 


「俺たち、二人連れだったんだが?」


「男の子は、付添の人がいるなんて思ってなかったよ?」

 アンズ会長が告げる。


 クルミと俺は別々で行動していたから、子どもは俺の存在に気づかなかったようだ。


「子どもが相手なのかい?」


 クルミのような相手なら、子どもは夢中になってしまうかもしれない。


「違うの。お兄さんと逢ってって」


 よその学校の生徒で、俺と同い年らしい。


 向こうも、その人物には話さず、勝手に見合いを決めてきたという。えらく強引な家庭のようだ。


「お前はどうするんだよ、クルミ?」



 クルミは何も答えず、走り去ってしまった。



「おい待てって、クルミ!」

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