ウザ後輩姉妹と、遊園地
遊園地デートの当日を迎えた。
クルミはちゃんと、この間買った服に身を包んでいる。
「きれいだよ、クルミちゃん」
「ありがとうございます」
誠太郎に褒められ、クルミが礼を言う。
「おい、リクト。お前からもなにか言ってやれよ」
肘をつつかれ、俺も「似合ってるよ」とつぶやく。
クルミは黙礼で答えた。
そっけないと思っていたら、目が泳いでいる。
俺ごときに褒められて、何を照れているのか。こっちまで顔が熱くなってくる。
この間のハプニングを思い出しちまったじゃねえか!
「だよねー、よく似合ってるねぇ。誰のチョイスなのぉ? メイド長さん?」
「いいえ。自分で選びました」
キリッとクルミが言うと、アンズ会長はニヤリと口角を上げる。
「うっそだぁ。あんたが選んだら寝間着、着ぐるみじゃん。恐竜の」
「ね……姉さん!」
アンズ会長によるまさかのカミングアウトにより、クルミのファッションセンスが暴露された。
とんだ災難である。
「ごめんごめん。リクトくん、妹ってこんな子なの。もらってくれる?」
「うおお、おっおっ」
突然の提案に、俺は口をパクパクとさせた。
「冗談だってば! まあ真に受けてもいいけど。クルミさえよければ」
会長が、クルミの方を向く。
うつむいて、俺と目線を合わせようとしなかった。
「あーん。困らせちゃったね。ごめんねー。気を取り直して、れっつごー」
アンズ会長はクルミの手を引き、遊園地へ進む。
俺と誠太郎は、二人の後に続く。
「うまいなー、会長」
コーヒーカップを回しながら、誠太郎はつぶやいた。
現在、俺は野郎二人でコーヒーカップをぐるぐる回るというシュールな状況にいる。
「何がだ? せっかくのデートだと言うのに、妹を優先しているじゃねえか」
「クルミちゃんを連れて行くって言った段階で、オレはこうなることは予測できたよ」
誠太郎はまったく気にしていない。むしろ楽しんでいた。
「どういう意味だ? わけわかんね」
俺には、誠太郎の言葉の意味がよく分からない。
「おそらく、今回の主役はクルミちゃんだ。オレたちはついでだろう」
「妹だけを連れて行きたいが、何を話していいか分からない」と、誠太郎は相談を受けていたという。
誠太郎と二人きりも、妹をないがしろにしているようで気が引ける。
「だから、デートの体で自然に妹と二人きりになろうという魂胆だよ。オレたちはダシにされたってこと」
確かに、会長が妹をかばう形になっていた。
「誠太郎の性格だろ。他の男が会長のカレシだったら、とっくにキレてる」
「会長の意図に乗っかってるお前も、たいてい優しいよ」
デート代が全額向こう持ちなのも、そのせいだろう。
お詫びだ。
気を使い過ぎだっての。
「まったく、ぶきっちょな会長だこって」
「でもさ、そういうところが好きなんだ。だから、ついてきた」
誠太郎と会長は、俺が見ても素敵なカップルだと思う。
求めているものが同じだ。
俺とクルミは、どうだろう。
そこまで気が回るだろうか。
それとも、むしろ気を回さないでのびのびと遊ぶ?
結局、答えは出ない。
コーヒーカップのようにぐるぐると回るだけ。
クルミが、チラチラとこちらを見た。困った顔になっている。
「むしろ俺は、気を使われる方が辛いかな」
「お前なら、そう言うだろうなぁ」
時間が来て、遊具を降りる。
誠太郎が、アンズ会長と話し合う。
「アンズ会長から提案だとよ。やっぱ男女ペアでつるもうぜ、って」
試練は、唐突に訪れた。
「さっすがクルミちゃんでさ、アンズ会長の思惑を読んでた」
聞けば、秒で感づいたらしい。さすが姉妹というところか。
「『自分は大丈夫だから、デート楽しんでこい』だってさ」
「待てよ。となると斎藤妹は、俺と二人きりになるんだぞ?」
「向こうがいいって言ってるから、付き添ってあげてくれないか?」
ならば、やむをえまい。
「きっちりボディガードするから、楽しんできな」
「ありがとな、リクト」
最後に、アンズ会長から釘を刺される。
「いい子だから、キズつけちゃダメだから!」
「つけませんっ。いいから行ってこいよ」
二人は手を振って、パイレーツへ向かう。
突然、腕に心地よい温もりが。
「えっへっへっ。ついにこのときが来ましたね。覚悟してくださいね、先輩」
「悪者のセリフみたいだぞ、それ」
ちょうど、すぐとなりでヒーローショーをやっている。
「お前さ、こうなりたかっただけだろ?」
「当たり前ッスよ! なにが悲しくてカレシほっぽりだして姉妹でイチャイチャしないといけないんスか?」
「そうは言っても。姉妹で積もる話もあるだろ」
「お気遣い無用って言ってやったッス。あたしたち、基本的に仲はいいので」
しかし、俺たちの仲が気づかれる可能性は、跳ね上がった。
隠し通せるのか?
「二人は楽しそうッスよ」
目の前で親しげに語り合う二人は、絵になるほどにお似合いだ。
「行くッスよ。ここでついていかないと、余計に怪しまれるッス」
「待てって!」
クルミは俺の袖を引っ張る。手を繋ぐギリギリで。
だから、指だけ絡ませる。
クルミの頬が、少しだけ赤くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます