ウザ後輩と、ハプニング

「ド定番ッスが、これでどうッス?」


 白のブラウスがみずみずしい。

 ブルーのロングスカートが、夏らしさを演出する。


「いいな。これで決まりだな」


 決定しかけた途端、クルミが待ったをかけた。


「ちょい待ってほしいッス。こっちも試すッス」


 再びカーテンが閉まる。

 すぐに開き、今度はミニスカートのクルミが現れた。

 落ち着きがありつつ、大胆というコーデである。


「こっちのミニも、よくないッスか?」

 クルッと、クルミが一回転した。

 ミニスカートが、際どいラインでふんわりと広がる。


 いい。控えめに言っても最高だ。足が長くて肉付きのいいクルミに合う。


「当日は、ロングがいい」


 ウザいモードのクルミなら断然、活動的なミニだ。

 が、おとなしい状態なら、ロングがいいかも。

 男子の目線を退けたい気持ちもある。


「安牌を取ってきたッスねー。承知したッス。これで行くッス」


 不敵な笑みを浮かべながら、クルミはロングを直す。結局、ミニを選んだ。


「なんでだ?」


 連れてきておいて、俺の意見は聞いてないと?


「変化が大事なんスよ。いつまでも無難な女子じゃねーんスよ。あたしは」


 クルミの表情が、挑発的な笑みに。


「色合いは褒めてもらえたので、あとは自分が着たいモノで決めていくッス」


「オレ、いらねえじゃん」


 頬が上気しているところから、クルミにとっても挑戦なんだと思わされた。


「いや、見て欲しい事があるッス」


 唐突に、クルミが背中を向く。何をするのかと思ったら、前にかがんだ。


「先輩っ。あたしの背中、透けてないッスか?」


 俺は、視線をそらす。

「じ、自分で鏡を見たら済む話だろ!」


「汗かいたら分かんないじゃないッスかー。背中を見てる余裕なんてないし」

「透けてたからって、俺はどうすればいいんだよ⁉」

「確認だけしてくれたらイイッス。透けない下着を買ってくるだけッスから」

「なおさら、俺はいらねーだろーがっ!」


 まったく、この後輩は人をおちょくるのが好きだな。


 キャッキャと笑いながら、クルミは下着コーナーへ。

「いえーい。キャミをゲットしてきたッス」

 そんな報告は、いらないから!


「じゃあ、お会計に……!」

 なぜか、俺は腕を引っ張られた。クルミと一緒に更衣室へ。カーテンが乱暴に閉められた。クルミの手には、いつの間にか自分の靴が。



「おい、ちょ!」

 あろうことか、クルミが俺に足を絡ませる形でしがみつく。

「何があった?」

「クラスメイトッスよ!」


 よく耳を澄ませると、JKたちの笑い声が聞こえてきた。


「あいつらって、どんな感じなんだ?」

「親しくはないッス。でも、敵対しているわけでもないッスから」


 別に聞きたい話題ではない。けれども、俺はとにかく話題をそらしたかった。クルミと抱き合ったいるという事実から、目を背けようと。でないと、理性を保つ自信がなかった。


 肌が密着していて暑い。しかし、俺の体温が上がっているのは、密着しているからではなかった。心臓の音が、クルミに聞かれていなければいいが。


 こんなラッキースケベが、待ち構えていたなんて。


「学校ではお前って、どんな感じなんだ?」

「普通ッスよ。特に敵も味方も作ってないッス」


 それはそれで、どうなんだろうな。


 どうやら、この子たちは水着を買いに来たようだ。


 カーテンの向こうを眺めながら、クルミは緊張した顔になる。


 クルミと視線が合う。顔が近すぎる。吐息が顔にあたって、俺は参ってしまいそうになった。


「もうちょっとのガマンッス。うわ!」


 白い太ももが、俺の手からずり落ちる。かろうじて、カーテンの隙間までは落ちなかったらしい。汗でスベったのだ。あれほどロングスカートにしろと言ったのに! 


 まずい。このままでは。


「ねえ、なにか変な声がしなかった?」

「ぜーんぜん?」


 どうやら、外のJKたちには、クルミの声だと判別できていないようだ。


 俺は、クルミを抱きかかえた。クルミがずり落ちないように。


「えっ先輩! 大胆すぎッス!」

「お前の足が見えたら、俺も終わるんだよ!」


 小声で、言い争いをした。


 吐息さえ掛かりそうな距離を強要され、俺はドキドキより苛立ちの方が勝る。


 クルミと密着を拒絶するわけじゃない。

 どうせくっつくなら、もっと健全な場で、と思っている。


 こんな不可抗力のような状態は、かわいそうだ。

 クルミだって、不本意だろう。


「悪いな。クルミ」

「あやまらないで欲しいッス、先輩」

 クルミの方も、限界が近いらしい。


 早く引っ込んでくれないだろうか。でないと、おかしくなりそうだ。



「ねえ。もうさ、他のところ行こ」

「そうだねー」


 ようやく、気配が消えた。目ぼしいものがないから、退散していったらしい。


 クルミは、ホッと胸をなでおろす。カーテンを少し開けて、外の様子を確認する。


「行ったみたいッスね」

 今のうちにと、クルミはレジへ飛び込んだ。


「大丈夫か?」

「先輩こそ、重かったッスよね」

「いや。まったく」


 平静を装っていると、クルミがニヤリと笑った。


「次に同じようなハプニングがあったら、ドキドキが止まらなくしてやるッス」


 もう結構ヤバイのだが。


「今日はありがとうッス。先輩」

「こちらこそ。服を選んでくれて、ありがとな」

「遊園地楽しみッス」

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