ウザい後輩の、ファッションショー

 食べ終えた俺たちは、洋服売り場へ。


 だが、ここへ来てとんでもないやつと鉢合わせた。

 女子の制服を来た大女が、男子の「大きいサイズ」コーナーで洋服を物色している。腕なんて、成人男性の足くらい太い。


「よりにもよって、鹿島かしまさんかよ」

「あの方がッスか!」


 我が二年が誇る秀才で、最強の図書委員長と呼び声の高い鹿島 スミレさんだ。


「おい、クルミ、ちょっと隠れてろ。話しかけられるとヤバイ」


 俺と鹿島さんは、クラスメイトなのだ。


「おう、ダン氏。ごきげんよう」

 鹿島さんが、こちらに気づいた。


「壇氏も、このキャラコラボTをご所望でござるか?」


 手に持っているのは、ゲームキャラがプリントされたTシャツである。自身がゲームキャラのような設定をしているが。


「いや。ちょっとよそ行きの服を」


「ほほお。いやはや、オシャレは大切でござるよ」

 豪快に、鹿島さんは笑う。


「実はこれ、デート着なのでござる」


「鹿島さんにカレシってマジかよ。やるじゃん!」

 まるで旧友のように、俺は鹿島さんのことを喜んだ。


 いいヤツだもんな、この子。


「イベントで知り合った男性と、意気投合してな。おそろいの洋服などを色々と物色していたのでござる」

「ペアルックか、健気じゃん」


「うむ。かたじけない」

 失礼な言い方だが、鹿島さんにも乙女なところがあるんだな。



「では、壇氏、拙者はこれにて」

「おう。気をつけてな」

「ぬはは、拙者を誰だと心得ておる?」

「そ、そうでしたね」


 家が空手道場を運営していて、黒帯の実力者である。

 なのに図書委員という変わり者だ。

 理由を聞くと、「学生レベルのスポーツ部なんて、入る気すら沸かん」とのこと。

 殺人拳でも習っているのではなかろうか。


「では、また学校で」


「うむ」

 ごきげんな顔で、鹿島さんは去っていった。


「えらい、キャラの濃い人ッスね」

「悪いやつじゃないんだ」

「オススメTシャツ買うっす?」


「買いま……せん!」

 俺は、キッパリと否定する。


 気を取り直して、服選びに。 


「先輩大きいから、何着ても似合うッスね。かっこいいッス」


 俺に、イケメンという自覚はない。多分お世辞だろう。


「これでいいよな でも、俺からでよかったのか?」


 クルミがいいと言った服を、俺が先に選んだ。クルミを待たせたことになる。


「先輩が試着している間に、吟味していたッス」



 言っているクルミの両手には、たしかに洋服一式が。結構数も多い。


「普通、逆だろ」


 女が試着している間に、男が適当に見繕うシーンなら分かるが。


「時間かかりすぎるッス。女の買い物って長いよねって、思われたら終わりッス」

「それも醍醐味だと思うがね」

「でもイヤッスよね?」


 正直に言うと。


「なるべく時間は有効活用したい」


「そんな先輩の性格を鑑みて、この作戦を取ったッス」


 気遣いの鬼だな。


「じゃあ、試着してくるッス」

「敬礼はいいよ。普通に行け」


 カーテンの奥に消えていく。


「脱いだタイミングで開けるので、入るッス」

「なんでだよ⁉」

「ラッキースケベってやつッス!」


 それは「入らざるを得ない状況」になって、初めて成立するからな!


「アホか! 入らんからな!」

「えー、つまんないッスよ。盛り上がりましょう!」

「いいっつーの!」


 俺は念を押して、店の外にある休息用ソファへ腰掛けた。はあ、相手をするだけで疲れる。気遣いはうれしいが、クルミ自体がウザ絡みしてくるから大変だ。


「終わったッス!」

 やけに大声で、クルミが声をかけてくる。


「ちゃんと着たよな?」

「はい! バッチリッス」


 カーテンが開く。ちゃんと服を着たクルミが立っていた。


 水玉ブラウスの上に、チェックの入ったグレーのジャケットを着ている。下も同色のキュロットスカートだ。頭には、漫画家のような帽子を被る。


 しっくりするほど、ぴったりだが。


「遊園地って感じじゃないな。美術館めぐりならそれかも」


 アトラクションを巡るわけだから、動きやすい服装がいいだろう。


「なるほど。ではー、こっち!」


 マジシャンのような早変わりで、クルミが着替え終えた。それもそのはず。今度はTシャツワンピース姿だ。


「バッチシじゃないッスか?」


 お世辞抜きで、似合っている。

 とはいえ、デート着かと言われると悩む。部屋着だよな。


「一気に、ガキっぽく寄せたな」

「厳しいッスねー」


 俺の発言に、ガックリとクルミは肩を落とす。

 やる気満々で登場した分、ダメージが大きかったようだ。


「エッチっぽいから、好きかなーと思ったんスが」

「リラックスしすぎだな。だらしなく見える」


 部屋着なら、これでいいだろうけど。


「そのだらしなさがクセになったりしないッス?」


「いんや」と、俺は首を振った。


「そこまでッスか」

「妹が学校休みの日に、そんな格好になるんだよ」


 この格好で、妹はソファで携帯ゲームに勤しんでいる。

 要は、見慣れているのだ。

 透け防止の柄がマンガ絵というのも、マイナスかも知れない。


「そっかー。妹さんで慣れてるなら、着替えざるを得ないッスね」

「んだよ、その対抗意識」


 またしても、カーテンが閉まる。

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