ウザ後輩と、ラーメン

 フードコートは、買い物客で賑わっていた。

 お目当てのラーメン屋へ。


「本当に、この安いラーメンでいいのか?」


 少し行った先に、行列のできるラーメン屋がある。グルメサイトでも最高得点を叩き出すほどだ。味は保証できるに違いない。


 が、クルミはフードコートのラーメンがいいという。


 しかも、ここはチェーン店だ。どこでも食える。俺たちの地元でも。


「安いラーメンがいいんッスよ。アイスも付くし」


 アイスとセットでも五〇〇円と、超お値打ちである。


「腹とか痛くならないか?」


 熱いと冷たいでは、食い合わせに難があると思うのだが?


 チチチと、クルミは指を左右に振る。偉そうに。

「何を言ってるんスかー? 向かいのハンバーガーなんて、熱々のポテトに冷たいシェイクが付いてるんスよ。どうってことないッス」


 的確な指摘だ。

 隣のドーナツ屋も、飲茶とシューアイスを売ってる。

 どこも似たようなもんだな。


「ミニラーメンと、炊き込みごはん、カップアイスのセットください」

 元気よく、クルミがオーダーした。

「アイスのソースはいかがいたしましょうか?」

「えーっと、イチゴで」


 俺も同じセットを頼み、席につく。


  幸いなことに、まだフードコートは空いている。気が早いのか混雑を避けたのか、先に食べている家族連れがチラホラいる程度だ。


「おっ、来たぜ」

 

 料理ができたと、呼び出しベルが鳴る。さすがチェーン店だ。早い。


「いただきまーす! うーん、おいしいッス! たまに食べたくなるんスよ、こういうの!」

 ズルズルと、クルミは下品にラーメンをすする。


 これでデートとのたまうのだから、コイツの腹の内が分からない。


「俺もいただきます」

 麺とスープを、同時にいただく。


「うん、たしかにうまい」

「本格的な味とは違うんでしょうけど、優しい味ッス」


 ガチのラーメン屋だと、味の暴力で殴られた感じがする。


 その点、チェーン店のラーメンは約束された安定性を持つ。求めている味に包まれるイメージだ。


 たまには、安いラーメンを食うのもいいものだな。



「こういったラーメン食べたの、久しぶりかもッス」

 炊き込みごはんにも、クルミは箸をつける。

「うーんっ、炊き込みごはんもサイコーッスね。ラーメンのスープが、汁物としての顔を覗かせるッス」

 クルミは、ごはんを口に入れては、レンゲでスープを飲む。


「普段、どういうの食ってるの?」

「外で食べるときは贅沢するッスね。回らないお寿司とか、柔らかいお肉とか。あたしはステーキなら硬いのが好きッス」


 柔らかい肉を好むのは、日本人だけだそう。


「お前の普段の生活なんて、想像もつかん」

「お金持ちって言っても、みんなとそんなに変わらないッスけどね」


 服にも食べるものにも、あまり金をかけないらしい。


「コンビニのおにぎりとか食うのか?」

「食うッスよ。おうちで防災訓練をするときとか。さすがに贅沢を言ってられないッス」

「おうちで防災訓練すること自体が、普通じゃねえよ。自治体が『やりましょう』っつっても、そんなに集まらねえんだぞ」


 家族の防災意識が高いのは、いいことだが。


「おにぎりの具は、何が好きなんだ?」

「昆布ッス」

「おばあちゃんの舌だな」


 てっきり、ツナマヨがくると思ったが。


「でもでも、塩だけってのも、他の料理に合うので好きッスね。最近の非常食って、おいしいッスからおかずになるッス」

「うん、おばあちゃんだ」


 クルミが、ジト目になる。

「それはディスってるッスか?」


「ほめてんだよ。コンビニ飯に偏見がないのはいいからな」


 近頃のコンビニフードは、神経質なほど健康面に配慮している。


「とはいっても、贅沢なものは食べてるだろ?」


「どうでしょうねえ」と、クルミは首を傾げた。

「少なくとも、あたしのところは普通ッス。ただ、この手のジャンク系は食べたくても食べさせてもらえません。栄養が偏るからって」


 金銭感覚はまともな分、過剰に口うるさいらしい。


「あたしだってねー、たまには体に悪いものを食べたいときだってあるんスよ! インスタントラーメンとか、カップラーメンとか!」

 

 なんか、アンズ会長と同じようなことを言い出したぞ。

 あいつも二言目には「ラーメン食べたい!」と叫ぶし。誠太郎が渋々連れて行くのだ。


「ことごとくラーメン限定だな」


「だってラーメン出ないんスもん! おウドンとおソバはいいんスよ! でもラーメンは脂肪分が多いからって! 自分は天そば食ってるのにッスよ! なんで天ぷらはいいんスかって聞いたら、『これは野菜だからノーカン』とかぬかしやがるッス!」


 まるで親の仇かのように、クルミはラーメンを豪快にすすった。


 確かに矛盾しているな。おにぎりは許されるのに、カップ麺はアウトとか。


「肉もハンバーガーとかダメって言うし」


 ツラそうだ。気軽に加工肉を食えない環境ってのは、地味に痛い。


「お腹に余裕があれば、食べたいッス」

「でも、アイスは食うと」

「加工食品がダメって感覚だそうッスよ。基準がおかしいッス」


 なるほど、昆布のおにぎりが好きってのも、「それしか食わせてもらってない」可能性がある。

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