ウザ後輩と、暴れ太鼓
昔懐かしいシューティングの筐体も並ぶ。おお、あれはもう撤去された九〇年代を代表するゲームではないか。俺は世代ではないが、移植版は持ってる。
「何をチラチラ見てるんスか?」
「いや。別に」
ここには用がない。
一人で遊ぶのはいつでもできる。
今日はデートだ。
クルミをないがしろにはできん。
「あれどうっすか?」
クルミが、とあるガンシューティングの筐体を指さす。
ファンシーなぬいぐるみ型クリーチャーを撃って改心させるという、子供向けのガンシューだ。
銃も本格的な形状ではなく、光線銃のような形である。
「いいのか?」
「的抜きが凡退でしたからね。ここらで面目躍如ってことで」
「おお。見てろよ」
二人プレイで三〇〇円だ。
コインを入れて、ゲームをスタートする。
「えいえい」
クルミが引き金を引く。的抜き同様、ターゲットにヒットしない。壁や虚空を撃っている。
「おっおっ、当たったッス!」
星型の弾丸が、ぬいぐるみにヒットして、敵が目を回す。
「追撃追撃。まだ生きてるぞ、そいつ!」
「えっ?」
クルミが横を向いた途端、モンスターが息を吹き返す。正拳突きが飛んできて、クルミのライフが減少した。
「あーん! やられたッス」
「カタキは取る!」
俺が敵をひるませ、クルミにとどめを刺させる。
ひたすらサポートに徹し、クルミにがんばってもらった。
「先輩、やればできるじゃないッスかー」
「お前がズンズン進み過ぎなんだよ!」
言い争いをしつつ、順調に進めていく。
息が合っているのか、合っていないのか。
「うおお、なんかデカイパンダが出てきたッス! 持って帰りましょう!」
「ボスだよ!」
可愛らしい顔をしたパンダの両手から、長い爪が飛び出てきた。
クルミをかばうように銃を発射して、ボスの動きを止める。
「わーわー、来るな来るなッス!」
画面を見ないで、クルミはひたすらトリガーを引き続けた。
「俺に向けて撃ってるから!」
長い戦いのあと、俺たちはようやくボスのでかいぬいぐるみをやっつけた。
「よっしゃ、やったッス。一面クリアッスよ!」
「一面で終わりだけどな」
「えーっ」
練習ステージだったからな。
ガチのステージに行くなら、もっと難しくなる。
さらに金もいるだろう。
「まだゴハンには時間あるッス。どうします」
「じゃあ、ああいうのはどうだ?」
二人で遊ぶとしたら、太鼓のリズムゲームくらいか。
あまり曲も知らない。リズムゲーム自体、得意ではないが。
「お、好きな曲があるッス。遊んでみたいッスね」
「よし、決まりだ」
三〇〇円払ったら、失敗しても続けられるようだ。
このシステムは嬉しいな。
「行くッスよ」
「よし。肩も温まってるから、負けねえ」
お互い初心者なので、難易度はノーマルだ。
「どの曲にする?」
「これがイイッス」
簡単な曲をチョイスする。
曲が始まった。アイドルグループのメジャーな曲である。
「ドン、ドン、ドンと」
ゲームをうまくプレイしようというより、楽しく叩こうという雰囲気が。
エンジョイ勢と遊ぶのって、いつ以来だろう。
「いや、楽しいッスね」
一曲目が終わり、クルミはニコニコ顔に。
「ちょっと難し目の曲もやってみましょーよー」
「おう」
二曲目は、ややテンポが速い曲を選んだ。
「初めてにしては、上出来だな」
「でしょーっ? この適応力、惚れ直したッショ?」
これ以上ないドヤ顔で、クルミはニヤニヤ笑う。
「でも先輩も上手ッスね」
「よく妹とやったからなー」
「そうなんスか?」
「最近は、ごぶさただが」
妹とも、よく対戦格闘などで遊んでいた。
が、あいつは加減を知らない。
俺が受験勉強でヒーヒー言っている間に、やたらとゲームの腕を磨いた。
そのせいで、差をつけられてしまっている。
今では俺が接待プレイされる始末で、兄の面子は崩壊した。
そんな妹は、中学でアナログゲームの研究部をしている。
「ふーん」
妹を話題にした途端、なぜかクルミは不機嫌に。
「ほほーお、でしたら、妹さんのスコアを塗り替えてやるッス」
なんか、変なスイッチが入ったぞ?
「妹さんの得意な曲は?」
「これだな」
世界でも活躍している日本のヘビメタバンド、その代表曲だ。
ゲームオリジナル曲ではない版権曲の中で、もっとも難易度が高い。
「すごいッスか?」
「難易度ノーマルだが、フルコンボしたな」
ゲームをプレイする時の妹は、何と戦っているのか分からん顔になる。
俺は怖くて、もう妹とはプレイできない。
「知ってる曲ッス! 挑戦するッス!」
「どうなっても知らんぞ」
こいつも、何と戦っているのだろう?
最高難易度曲を選ぶ。
「あー、もうわかりません!」
「なんだこの譜面! 小豆洗いみたいに流れていくぞ!」
タイミングよくたたけない。曲は知っているのに,もどかしかった。
こんな曲を、妹は普通にクリアするのだ。
本日最低点を叩き出し、ゲームオーバーに。
「妹さん、人間じゃないッス」
目一杯に太鼓を叩いたせいか、クルミの手がプルプル震えている。
「め、メシに行くか……」
疲労困憊し、さすがに腹が減った。
俺たちは、フードコートへ向かう。
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