ウザ後輩の、ちょいエロなごほうび

[いやいやいや、ご無理なさらず! 先輩のオカズにされるのはやぶさかではありませんが!]


[し・ま・せん!]


 マジでやらねえから。



[ごめんなさい。なんか催促してしまったみたいッス]

[どうってことねえよ。弁当に包んでるから、ついでで作るよ。どうせ、いつも作りすぎて余るんだ。食べてくれ]


 正直な感想だ。やはり慣れない食生活を強いているためか、妹はよく残す。 頑張って食べてくれるのだが。


 両親も、食事が必要なくなることが多い。同じ品目が続くと妹を困らせるだけだ。余らせても仕方ない。


 そう説明すると、クルミからまたメッセが返ってきた。

[……なら仕方ないですね。食べて差し上げるッス]

 ドヤ顔の写真付き、超・上から目線で。[いいから服を着ろ。風邪なんかひいたら、弁当どころじゃなくなるぞ]




[わかったッス。今から、着替えるッス]



 こいつ、今なんて言った?[おい、ちょっと待て]

 返信こず。


 次に送られてきたのは、数秒の動画だった。足下しか映っていない。映像の中で、クルミがバスタオルを落とす。カメラがクルミを、足から順になめ回す。


[お弁当のお礼、先払いです]



 なにをやってるんだコイツは!




 バスタオルが、クルミの足元にストンと落ちる。



「おいおいおい!」


 俺が慌てていると、クルミの全身像が。


[へっへーん。残念でしたー。安心して下さい。キャミとショートパンツをちゃんとはいてまーす]


 最初から、肩紐のないキャミソールと短パン姿だったのだ。このやろう、ビックリさせやがって。


[ゴハンできたっぽいんで切ります。お弁当楽しみにしてまーす]


 メッセが切れた。


 ようやく嵐が過ぎ去り、スマホ片手に調理を再開する。


「えっ」




 こいつ……ブラしてねえ! 

 教えてやらないと!





「まったく、あのやろう」

「どのやろう?」


 ニョキッとチヒロの頭が、俺の肩から覗き込んできた。


 メッセアプリを閉じた後でよかったぜ。

 あやうく、危険な動画を見られるところだった。


「うわ! チヒロ!」

「お風呂上がったよ」

 こちらもバスタオル一枚という姿である。

 前門の全裸クルミ、後門の全裸チヒロとは。


「服を着てなさいっ。それまでメシはなしだ。ったく、髪も濡れたままじゃねえか」


「はーい」

 返事の後、ピンクのパジャマを着てチヒロが戻ってきた。

 

 


 筑前煮ができるまで、もうちょっとかかる。


「じゃあ、火を見ておいてくれ。風呂入ってくる」

「はーい」

 筑前煮を任せ、俺は風呂に入ろうと脱衣所へ。


[せせせ先輩!]

 慌てた様子で、クルミからメッセが。


[その動画削除してください。見返したら、その透けてまして!]


「ブウウーッ!」

 言わなくてもいいことを! せっかく忘れようとしていたのに!


「お兄ちゃんどうしたの? どこか打った?」

 俺の絶叫に反応し、チヒロが脱衣所に来てしまった。


「いいからいいから。大丈夫だ。いい子だから鍋を見ていてくれ」


「はーい」


 どうにか、チヒロをキッチンへ戻すことには成功したか。


[とっくに消したわ! さっさとメシを食ってろ! 俺はフロで忙しいんだ!]

[あっ、ふーん]


 なぜそこで察する?


[承知しました。スッキリなさってください]


 クルミのあられもない姿が常時浮かんできて、ちっともリラックスできない。

 行水レベルで済ませ、風呂から上がった。


 入浴後、俺は妹と食卓を囲む。献立は筑前煮、刻んだ高菜の漬物、プチトマトのサラダ、スーパー惣菜のコロッケだ。


「いただきます」


 オレの炊いた椎茸を食べ、チヒロは微妙な顔をする。これでも食べてくれている方だが。


「やけに食いっぷりがいいな。いつもは少しかじる程度なのに?」 


「今日は、残さず食べないといけない気がして」

 なぜだろう。チヒロの眼差しが痛い。


「お兄ちゃん?」

「ん、どうしたチヒロ?」



「なんかいいことあった?」



 子芋が、別の所に入りかけた。ちゃんと細かく切ったのに。



「どどど、どうして、そう思うんだ?」


 気にするコトなんてなにもないはず。なのに、俺は動揺を隠せない。


「おにいちゃんがメッセアプリをしながら料理なんて、珍しい。いつもは行儀が悪いぞって怒るのに」


「あ、イイ感じの料理アプリを起動していたんだ。それを見ながら作ってたんだよ。少し味が違うだろ?」


 味を変えたのは事実だ。やや洋風っぽくしている。


 ムダにこだわって和に寄せたところで、チヒロが食わなければ意味がない。

 そこを間違えてはいけなかった。

 

 俺はチヒロに和食を食わせたいんじゃはない。

 チヒロの好き嫌いをなくしたいのだ。


「うん。白いごはんに合う」

 チヒロにしては、進んでいる方だ。 


「ごちそうさま」

 チヒロは頑張ったが、結局は残している。


 根菜は大丈夫そう。ただ、キノコ類はまだダメっぽいな。


 しっかり食べさせるなら、クラムチャウダーとかの方がいいかも知れない。パンにつけて食べてもらうか。


「筑前煮、弁当に入れるけど、いいよな?」

「うん。おいしかった」


 よかった。量が多すぎただけらしい。


 両親の分を別の鍋へ小分けし、弁当用にも取っておく。 


 そういえば、妹の弁当箱が余っていたな。


 クルミの分はそれに包んでやろう。

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