第79話 欺けない瞳

そう、そのまさかである。


太郎は

暑さに耐えられず保健室を訪れていた。



「あの~妹尾先生」


「あら、どうしたの佐藤君」


「どうやら熱中症みたいで

氷もらえませんか?」


「え?大丈夫?

頭クラクラするとかかな?」


「クラクラは体育祭が始まる前からしています」


「あら、それは氷だけじゃなくて

ここで休んでいきなさい」


「いや、それは大丈夫です。

とりあえず氷だけもらえれば」



すると保健室で

妹尾先生と世間話をしていた事務の坂本さんは

長年の経験から見抜いていた。


「佐藤君っていったっけ?

あなた、それ、仮病でしょ。」


「いやいやいやいや、何ですか急に!?まさか~」


坂本さんをじっと見つめる太郎


坂本さんの瞳が太郎に訴えかけている。

太郎にとって気まずい気まずい雰囲気が流れていく・・・



坂本さんは


「本当に熱中症の人はそんなに

慌てるほど元気も出ないものよ。」


「な、な、なんですと??」


坂本さんの瞳をじっと見つめる・・・

そして気付く!

やばい人がいる!!!


優しい妹尾先生は

「そんな、まさかね。辛いんだよね?」

と心配してくれていた。


しかし、事務の坂本さんを欺くことはできない。

目が合って、瞳の声を聞いて

そう感じてしまった太郎は正直に


「妹尾先生、ごめんなさい。

ただ、暑いのが苦手なのは確かです。」


と熱中症ではないことを認め両手を上げると

坂本さんがある意外な提案をする。



「やっと正直になったわね。もう両手を下ろしていいわよ。

まぁ、あなたみたいなどうしようもないボーイは

嫌いではないから人生の先輩として知恵を貸してあげましょ。」


「どうしようもないボーイ?」

自分を指さして聞いた太郎。


それに坂本さんは迷いなく頷いた。

そして

「妹尾先生、マスク一枚くれる?」




結果、

太郎はマスクを妹尾先生からもらい、

サングラス、麦わら帽子、作業着を

坂本さんから借りて変身し、

堂々とテント下で休んでいるのだった。



八千草の違和感は正しかった。



そして真実に考察が行き届いた駿は

テント下でのまさかな光景にも

なぜか落ち着いていられた。



「タロちゃん、すごい!!

タロちゃんは僕のことを

よく褒めてくれるけど、

僕がもし審査員だったら

体育祭のMVPは間違いなくタロちゃんだよ(笑)」



なぜか太郎にことごとく関心させられる駿だった。




「どうしてあんな大胆なことを

佐藤君に伝えたんですか?」


妹尾先生が坂本さんに尋ねると


「彼がどれだけ肝の据わった者か試したのよ。

でもまさか五十歳差の私に変身するだなんてほんと驚きよ!!!」


「本当ですね!!」



保健室に笑いを提供した太郎だった。



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