第50話 その名を聞くまで

「・・・え?」


「ずいぶん長居しちゃったしね。

お酒までいただいちゃって。」


「いやいや、

その、まだ、お姉さんに何があったのか聞いてないですから」


「あ、その件ね、

あなたになら聞いてもらおうかなって

思ってけど、色々話せたからすっきりしちゃった。

私のことばかりでごめんね。」


「あ、いえ」


「だから最後にあなたの話を聞く前に

あなたの話をさせてもらうわね」


「え・・・」


「あなたは自分で朝早くから魚を獲って

夜遅くまでお店を開いてる。すべて自分だけでやってる

みたいだけど、それはやめた方がいいわ。」


「え、なぜですか?

お姉さんだって、」


夏海が彼女のことを話そうとすると


「私は普通じゃないからね。

でもあなたは私みたいになってはいけないわ。

あなたはこんなに美味しいおつまみも作れるんだし、

何より、聞き上手じゃない。」


「あ、ありがとうございます」


「あなた自身の使命と

しっかり向き合いなさい。

失ってからでは遅いのよ。」


「失ってからでは・・・遅い・・・・」




「あの、ここでずっとやってますので、

是非、また来てください。閉店営業行いますので。」


「そうね、またここには来る気がするわ。

そのときはおいしいあなたの海鮮料理をいただくわね。

今日は閉店営業ありがとうございました。またね。」



「また・・ね」




夏海は最後に必ず聞こうとしていた名前を

聞き忘れたことにその翌日に気付く。


名前を聞き忘れるほどに

この閉店営業は夢のような、

幻のような、

もう二度と訪れることのないような時間だった・・・


幻だったのは時間だったのか、

それとも彼女だったのか、

夏海は魅惑な彼女が言った

自身の使命と向き合って

海満のカフェを営業する。



いつでも閉店営業ができるように



彼女の名を聞くそのときまで



「と、いうことなんだ」


夏海の話に


「なんか、すごい話というか、

それが一日の数時間の出来事とは思えないですね」


菊池に続いて孝也が


「いや、ほんとに。

彼女は本当に科学者なのか

不死の薬を本当に作っているのか

今も分からないんですよね?」


「そうだな。

今もあれから何も定かにはなっていない。

どこで何をしているのか。

このSNSが発達した情報化社会でも

確かめようがない。」


孝也が

「名前の一つでも分かれば変わってくるんですけどね。

それに顔を見たのも店長だけですからね。

手がかりが、女性と元科学者と不死の薬、

そして母親・・・あれ、以外と情報ある?

もしかして・・・見つけられる??」


カメラオタクであると同時に

五人の中ではインターネットに関する

情報処理能力を高く併せ持つ孝也。


駿と太郎はそのことを知っていて

孝也の情報処理能力を持ってすれば・・・



しかし、



「俺も分かっている情報で色々と調べていた時期もあった。

それこそ君みたいな

情報処理能力の高い友人にも協力を得たが、

手がかり一つ見つからなかった。」



すると孝也は、

「結局は、最後に彼女が言った通り

この店に専念することにしたんですよね。」


「ああ、店に専念したことで

これだけ多くの人たちが集まってくれている。」


「なら、せめて

今のきっかけを作ってくれた

感謝の気持ちだけでも伝えた方がいいと思います。

どうか諦めないでください。俺も全力を尽くしてみますので。」



「ありがとう」


孝也を笑顔で見つめる夏海。


そしてまともなことを言った孝也を

驚きの目で見つめる他の四人。




すると菊池が突拍子のないことを発した。



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