第49話 魅惑な彼女の深まっていく謎

「ところで何があったんですか?

もしかして仕事上のこととかですか?」


「あら、あなたは本当に察しがいいのね」


「いや、たまたまですよ」


「さっき言った不死の薬が完成したのよ」


「え?いや、だから、その・・・」


「私、天才科学者だから。ふふ。

でも完成したら、

私の上司がそれは世間に出してはいけないって言うの。」


「どうしてですか?」


「察しのいいあなたなら分かってるはずよ。

それが世間にどれほどの影響を及ぼすか。」


「でも、完成したってことは、誰か、

誰か死ぬはずだった人が生きているとかあるんですか?」


「それも秘密よ。

でも私はこの世に出してはいけないものを作ってしまったみたい。」


「なぜ、なぜ不死の薬を作ったんですか?

世間に対する影響も、リスクも、

あなたの上司が止めることも分かっていたはずです。」


秘密が多すぎる。不死の薬が完成だなんて

茶番にもほどがある。酒の席だから仕方ないか。

仕方・・・ないか・・・

まさか・・・

海夏は心のどこかで

半信半疑だった想いが少しずつ薄れていることを感じていた。

まさか、本当の・・・話?

いやいや、そんなまさか・・・な。



「分かっていても・・・

そう、分かっていたとしても

私は自分の使命に従ったまで。」


「自分の使命?」


「そう。あなたもいずれ分かるわ。

人の使命なんてのはね、

突然、何の前触れもなくやってくるものなのよ。

だから私は正式な科学者としてではなく、

元科学者として、そして母としての使命を果たしたのよ。」


「え?

元科学者?

母として?結婚してるんですか?」


「ごめんなさい、言ってなかったわね。

でも、旦那はいないの。

それについ一年前までは

東京で科学者として働いていたんだけど、

このことで私は職場を離れて、

今はひっそりとした所で私の使命に従って仕事をしているわ。

もちろん稼ぎがないとやっていけないから

前にいた研究所から依頼を受けて

その分で食いつないでるって感じね。」


「生活、大丈夫なんですか?」


「ええ、ノープロブレムよ♪」



夏海は話の展開についていけていなかった。


結婚していたということ

そして母であるということ


今は元科学者ということ

そして不死の薬を作っているということ


どれも確かなことは一つもない。

だが、初対面の自分にわざわざ嘘の話をするとも思えない。


夏海の中で彼女の謎が深まっていく。


気になってしまった彼女は

謎めいた、魅惑な彼女



酔いは覚めてきている。

俺が彼女の話を飲み込むためには

もっと確信に迫っていくしかない。

よしっ


「あの・・・」



「あ、そろそろ私、帰るわね」




「・・・え?」






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