第39話 三者三様ではない四者三様の見解

皆と意見が反してしまい、

太郎の真相が見えてこない状況に孝也は苛立ち始めていた。


この状況はどう考えてもおかしい。

なぜ将軍の俺が孤立しているんだ。

しかもその原因が平民のタロ氏とは、いかにも理に適っていない状況。

歴史上で一度でも平民一人のことで

話が大きくなり、将軍が孤立してしまうことなど

あっただろうか。否、一度たりともないはずだ。

いかにも許しがたし。



このとき、孝也の頭には

太郎をかばった美名城夏帆の存在がいた。



なぜ、俺じゃなくてタロ氏なんだ。


いかにも、いかにも許しがたし。



孝也は


ステージ裏へと走り出した。



駿らも驚いて孝也の後を追った。



ステージ裏では大型スクリーンを片付けるために、

上の留め具を外している太郎と下から指示を出す美名城がいた。


「そこを外したら次はこっちね!

あ、いや、待って、

やっぱりこっちが先で次はあっちかも・・・・」


「美名城先輩・・・

このままだとお昼食べないで

日が暮れちゃいますよ。」


「大丈夫よ。

日が暮れてたらお昼ご飯はないけど、

晩ご飯があるから!」


「やれやれ・・・

人遣いが荒いんだから・・・」



二人の自然なやりとりは

孝也を立ち止まらせるのに充分なものだった。



孝也を追った三人も足を止め、孝也と同じ光景を見ていた。


菊池、八千草には

美名城先輩が太郎を

後輩として可愛がっているように見え、


駿には

美名城先輩が太郎を

特別な存在として認めているように見え、


孝也には

太郎が美名城先輩に平民(後輩)の分際で

気に入られようと馴れ馴れしく接しているように見えていた。



拳を強く握りしめた孝也に


「勘違いしないようにね」

と菊池が囁いた。

そして菊池の方を振り向いた孝也に

「ほら、見てごらん」

と太郎を指さしした先に

太郎の元に集まる同じ看板チームのメンバーがいた。


「おい、何手こずってんだよ!!」


「あ、すみません。

それが美名城先輩が、ってあれ?いない。」


「何が美名城先輩だ?人のせいにすんな!!」


「すみません!おかしいな・・・」



「ほらね。タロちゃんは看板チームの一員として頑張ってる。

美名城先輩はタロちゃんを一人の後輩として可愛がってるだけよ!」

孝也に自身の見解を諭した菊池だった。



菊池の言葉は孝也の心を和らげつつも


「将軍の俺ではなく、

なぜ平民で裏方のタロ氏に・・・」

太郎のもとに人が集まっていく姿に孝也は嫉妬していた。


この時、駿は

太郎のもとに人が集まっている姿を

嫉妬ではなく、客観的に分析していた。


「菊池さんの言う通り、勘違いしてはいけない。

タロちゃんは、ただの裏方にして、裏方にあらず。」


「どうしたの駿。

さっきもそうだったけど、

少しタロちゃんのことになると、らしくないんじゃない。」


菊池が駿の言動に反応すると


「かもね・・・」



クールな駿は、

孝也とはまた違った意味で太郎から

目が離せなくなっていた。

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