第40話 リスの口から白い歯が見えたとき

ステージ裏の片付けを終えた太郎は

孝也らと合流した。


「あれ、タロちゃん、美名城先輩はいいの?」

少し前の会話の中で、美名城とお昼の話を

していたことを聞いていた菊池が聞くと


太郎の表情が少し歪んだ。


「そ、それが・・・」


太郎が話し出すと、

太郎の背後から突如顔を出す美名城がそこにいた。


驚いた菊池と八千草、駿は

「きゃー!!!」

と大きな声を出し、

それに美名城は

「いや、ちょっと背後霊じゃないんだから」

とすかさずツッコミを入れた。


そのとき、大きな声は出さなかった孝也も

数秒間心臓の鼓動は驚きで停止していた。



「まったく、あなたたちは先輩を何だと思ったのよ!」

口をリスのように膨らませる美名城に

「いや、そのタロちゃんの背後霊かと・・・」

と素直に答える菊池は笑っていた。


「先輩を背後霊とは

図書室での盗み聞きといい

ほんとにあなたたちはいい度胸をしているわ!」


「すみません・・・」


笑いながらも謝る菊池を見て


「まぁ、あなたたちはほんとに可愛い後輩だから

このタロちゃんに免じて許してあげましょう」

とリスのように膨らませていた口も

すっかり白い歯を見せる笑顔に戻っていた。


「ところでどうして美名城先輩がこちらに?」

駿の質問に


「ところでみんなはお昼食べた?」


駿の質問に質問返しする美名城に皆、

内心で驚きながらも

「いえ、まだです」

と首を横に振って答えた。


美名城は

「そっか」

と一言だけ答えると続けて


「あ、さっきの質問だけど、決まってるじゃない。

あなたたちとランチに行くためよ。」


再び白い歯を見せた笑顔は

本日のランチメンバーが太郎とともに

新たに一人加わる瞬間でもあった。





「ここは?」


自転車のブレーキを握りしめ、

あるお店の前で立ち止まった孝也が

この言葉を発するまで少しの時間を遡る。



美名城が太郎とともに

お昼に行くこととなったが、

学食に向かおうとした菊池らに


「みんな、ほら」

と駐輪場を指さしして、


先輩命令で

自転車に乗ることになった五人は

美名城の後をついて行く。


美名城はと言うと

太郎のリアキャリアに

「よいしょ!」と乗り、

「しゅぱーつ♪」と出発の合図を出した。


菊池が

「あの、どこに行くんですか?」

と尋ねると

「それはついてからのお楽しみ♪」

とじらしていた。



学校を出発して

海沿いの道を自転車で漕ぐこと十五分



ついたのは

海が目の前にある

外観は真っ赤のサーフィンボードに

ヨットの帆が飾られた

いかにも海人が経営していそうなお店。



「ここは?」


「美名城先輩イチオシの店よ」


孝也や菊池らにとってクールビューティーで近寄りがたい

美名城のイメージは、言動とともに柔和されつつあった。


「イチオシの店・・・」

孝也は、美名城のイチオシの店に興味津々だった。


「なんかすごい個性的なお店ですね」

美名城のイチオシの店に

菊池だけでなく、駿と八千草、そして興味津々の

孝也らは派手な外観に目を奪われていた。


すると美名城は笑いながら

「確かに個性的よね。

さぁ、外から見てばかりいないで中に入りましょ♪」


「あ、はい」

美名城の後について入っていくと、

店内は多くの人で賑わっていた。



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