第38話 深層心理に秘められた真実

菊池の発言に

首を深く傾げる三人だったが、


「いや、ちょっと待てよ。

美名城先輩のカリスマ性とタロ氏がこの演出を

企画したということは話が別だろう。

仮にタロ氏を企画担当に美名城先輩が選んだとしても

それがこの演出をタロ氏が考えたとは限らない。」



孝也の話に菊池が


「そんなことは分かってるわ。

でもね、あの美名城先輩が理由もなく

タロちゃんを企画の担当に抜擢したなんてこともないと思うよ。」



「早い話がタロ氏に聞けばわかることだが、

駿氏はどう思ってるんだ?」



急なふりに駿は


「美名城先輩のカリスマ性ははっきりとは分からないけど、

俺は菊池さんの考えと同じだ。」


「なに!?」


武士の駿が将軍の孝也の意見と反したことに

孝也は驚くが、駿はさして反応せずに話を続けた。



「さっきステージ裏でタロちゃんと会った。」


「ステージ裏で?」

菊池の反応に


「うん」と菊池を見て駿は頷く。


「タロちゃんは僕を見て

親指を立ててグットサインと一緒に

ニコッと笑ってた。

結局何を話すわけでもなかったんだけど、

それでもタロちゃんのニコッとしたその時の顔は

何かをやり遂げようとしている気がしたんだ。」


駿の話に

「直接話して聞いたのなら分かるが、

いくら何でもグットサインと

笑った顔だけとは、いささか根拠が弱すぎないか。」

と孝也が的を得たツッコミを入れる。


駿は

「そうだ。根拠はない。ないけど、

きっとこの予感は合っている。」


いつもは一歩引いて客観的な立場にいる駿が

ここまで言い切る姿はみんなが驚いていた。

図書室での一件以来、駿に繋がれし侍という縛りが

少しずつ解けていく・・・


一方、ステージ裏で片付けに追われている

太郎は、自分のことでここまで話が大きくなっていることを知るよしもなかった。



駿は言わなかった。

ステージ裏で太郎に会った際に

美名城夏帆が言っていた

「今に分かることよ。タロちゃんがここいる本当の意味」の真意を。


なぜ言わなかったのか。

それは駿がある一つの真実に気付いたからだった。

それはこの企画を考えたのはきっと太郎だ!

ということではなく、

この疑惑が挙がって

駿以外に八千草と菊池も

同じ考えをしていたということ。

そして、孝也はそれを受け入れようとしないこと。


なぜなのか?


それは「対等」でないからだ。

将軍、武士、平民という階級制度を

友達という大前提の元で作ったことで

その制度を作った孝也は太郎を常に下に見てきた。

お調子者でぬけていた所のある太郎が

同じ土俵、しいては上になることは

これまでこの階級制度で保たれてきた

平穏な空気が壊れてしまうことを

孝也は心の奥深くで恐れていたのだった。


一つの真実・・・

孝也の深層心理に気付いた駿もまた、

心の奥深くで解決の糸口を探し続けるしかない。




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