第14話 女子からは主導権を、先生からは暗黙のルールを

夏期講習が終わり、

孝也を筆頭にクラスの野郎共がここ一番の集中力を発揮する

体育祭の準備時間(タイム)がやってきた。


体育祭の準備では

『ダンスチーム』


『応援団チーム』


『看板チーム』  

の三グループに分かれる。


基本的に体育会系が

ダンスチームか応援団チームに入り、

文化系が看板チームという流れだ。

俺を含め、駿も孝也も帰宅部である。


当然の流れとして看板チームに行くと思われたが、

駿はその甘いマスクと身体能力を反して

本人の意思とは反してダンスチームの一員となった。


ダンス=イケメン・美女の集まり的な風潮は

世間のジャニーズやアイドルの存在が大きく影響している。

ダンス好きのブサ面からしてみればいい迷惑だ。


まぁ、俺は幸いにもダンス好きでも

目立ちたがり屋でもないから害はないが。

八千草さんはバトミントン部の体育会系であり、

無論、侍の嫁候補・・・いやいや嫁見習いであるため、

駿と同じダンスチームに入った。


一方孝也は、

孝也だけは俺と同じ看板チームと思っていたのだが、

あいつはあいつでブサ面ながらも強い、

いやいや、図太いハートの持ち主で

黒い学ランと赤い鉢巻を身にまとい、一年の応援団長としてやる気満々である。


応援団チームの応援団長とは

何だかんだで将軍といい、カリスマ性があるのが孝也の持ち味なのかもしれない。


結局、全員どころか、

俺一人だけが看板チームとなった。

やべぇ、暇を潰すためのしゃべれる奴がいねぇ・・・



看板チームには知的そうな女子たちと

大人しそうな草食系男子が集まっていた。


残念なことに男子の中に画力など芸術センスに

たけている者が一人としていなかったためか、

看板チームの主導権は女子が握った。


男子は主に荷物運びや看板製作に当たっての

準備物の用意など雑用をおしつけられていた。


俺も含めて体育祭への心意気が基本低めの

看板チームの男子たちは、雑用も言われるがままに

誰一人異を唱えることなく事は進んでいった。


夏期講習も体育祭の準備時間も

このまま順調に行くものだと思っていた。



夏休みを迎えてやっかいごとを引き起こさないよう

上手くやってきたはずの平穏な生活に


まさか、

亀裂が入ってしまうことになるとは

この時は誰も知るよしもない。



夏期講習で俺が居眠りに入ってしまう度に

授業を中断して叱っている時間がもったいないと、

廊下には丸椅子が常時設置された。


俺のみ、肩を三回叩かれたら

「廊下行き」という暗黙のサインが真千先生との間で生まれた。


正直気持ちよく寝ている際に

肩を三回叩かれただけでは起きるのは至難の業である。


よって三回肩を叩いても起きない、もしくは廊下に向かわない場合は

真千先生特製のハリセンで一発頭を叩かれることとなっている。


暴力はんたーい!!


無論孝也、駿、八千草の三人はそのことを知っている。



いつも俺が三回の肩たたきによるサインに気付かず、

ハリセンで叩かれるのを楽しみにしていることが


「今日の講習ヘルメットかぶっていったら?」


という発言から手に取るように汲み取れる。


そんなことをしてみろ。

真千先生という火に油を注ぐだけだ。



いや、待てよ、


それで椅子に座って寝られるならいいアイデアかもしれないが・・・。


夏期講習で寝ることを第一の目的としている俺の無能さは

俺自身が一番理解している。


だが、習慣はなかなか意思だけでは変えられない。


結局今日もいつもと同じタイミングで眠気が襲ってきた。



やばい、

やばい、やばい


もう無理だ・・・


どうせここで

抗っても数分後にはまた襲ってくる。

寝てしまえば楽になれる。

もう、

寝るしかない。



目をつむろうとした瞬間



普段は寝ていて

聞くことができなかった言葉を耳にする。




「もしかして寝てるの?」









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