第13話 女王ティーチャーvs平民魂

というわけで

話が少し逸れてしまったが、

孝也が言う戦の一つ「夏期講習」が始まった。


孝也の目的が

夏期講習そのものにないということは聡明明白である。


だが夏期講習に出ななければ、

外ではセミの ミーンミーンミーン 

と言う風物詩、否、永遠に続く騒音とともに、

蒸し暑い環境が無条件で完備されている。


夏期講習の室内と言うと、

クーラーガンガンで

地球温暖化を促進させてしまっている

という罪悪感と隣り合わせとともに、

教師の安らかな子守歌によって快適に涼みながら過ごせる

天国のような環境もまた無条件で完備されているのだ。



間違いない。



夏期講習は

我々高校生にとって安息の地(天国)である。



そんなことを思って

夏期講習に参加していた俺は

一番前の席で

いつの間にか夢の中へと吸い込まれ、

いつの間にか地獄へと突き落とされるのであった。



「初日から私の授業でしかも一番前の席で

ぶつぶつ寝言を言いながら寝てるのはどこのかな?」



スヤスヤ・・・



「どうやらあなたみたいのには

涼しい場所よりも少々暑めの場所の方がよさそうね。

セミの鳴き声でも聞きながら廊下で立ってなさい。」




海満高校で一番恐れられている

女教師であり、空手初段の実力を持つ真千凪子(なぎこ)先生。


凛とした姿勢で常に規律を重んじ

自分にも他人にも人一倍厳しいことで有名だ。



見た目は黒髪をゴムで束ねているシンプルなヘアースタイルだが、

どこか可憐で色っぽく実に美人だというのだが・・・



皮肉にもドⅯな奴らからは

『女王ティーチャー』

というあだ名でとても評判が高い。



俺はドⅯではないのだが、よく標的にされる。


現代において廊下で立たせると言うことは

立派な体罰ですよ?

なんて反抗したら許してもらえるどころか

余計にきつい罰が課せられるのは目に見えている。



だから俺はいつも一ミリも反抗せず

こころよく罰を受け入れているのだ。(ワハハ)



って、他にも寝ている奴はたくさんいるのに

いつも席が一番前だとか、たまたま目についたとかで

罰を受ける標的にされているのはなぜだろうか。



え、

何なに?


気にいられてるって?



冗談じゃない。

美人だからって何でもかんでも許されると思うな。

よし、覚悟を決めて最初で最後の反抗をしてやるぞ。

下剋上だ。平民魂をなめんなよ。いくぞーー必殺!!



〔廊下で立って寝る〕



気付けば

廊下で丸椅子の上に立たされていた。


眠気を吹っ飛ばすにも他のやり方があるだろ。

あ、痛ぇ!

また足が攣った。


なんで夏休みにちょっと

瞑想(居眠り)しただけで

こんな痛い思いしなきゃならないんだ。

仏の心は真千先生にはないのか?

この講習が終わったら文句の一つでも絶対言ってやる。


俺は臨戦態勢に入った。



『キーンコーンカーンコーン』



よし、

まずは丸椅子から降りて・・・ってまた攣った。


為すすべもなく真千先生に敗れさる俺の姿は

実に滑稽な姿だったらしい。

その証拠に駿と孝也は

腹を抱えて俺、本人を目の前にして爆笑している。

八千草さんは笑わなかったが、


「丸椅子の上でずっと立ってるなんてすごい安定感だね」


とフォローしたつもりなのだろうが、下手くそすぎだ。



初日の夏期講習・・・俺の完敗に終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る