第15話 お仕置きを受ける相手
真千先生の低音の声が聞こえてきた。
ああ、そうだとも。
俺は今、寝ようとしている。
抗ったところ
結局のところ
眠たいままでは、講習の内容も頭に入ってこないんだ。
いや、
そもそもクーラーをかけて
ちょうどいい快適さ+夏休み中
という眠気を引き起こす
ジャブ&ストレートが俺をKOさせているだけなんだ。
KOされても起き上がれなんて文化系の俺には合わない。
言い訳はいくらでも思いつくが、
講習中の居眠りを真千先生相手に論破できる理由は、
残念ながら俺の力を持ってしても見つけ出すことができない。
仕方ない、降参だ。
まだ肩を三回叩かれていないが起きるとしよう。
眠そうな表情いっぱいに顔を上げるとそこに真千先生はいなかった。
「ん?」
首をかしげると
左隣にかすかに真千先生の姿が視界の中に入った。
真千先生はどうやら俺ではない誰かに話しかけている。
隣を振り向くと
少し離れた同じ列に女子がいる。
その女子は俺の方に体を向けているが視線はもう少し下だ。
俺も彼女同様に視線を下げると、
なんとそこにはいつもの俺が・・・
いや、
講習中にも関わらず
俺を差し置いてうつ伏せでスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている者がいた。
「ウソダロ・・・」
俺を差し置いて、
よりによって真千先生の講習で寝ているのは、
サーフィンを特技とする
ちょっと色黒でショートヘアーが可愛い
我がクラスが誇るかっこいい系美女
菊池 華であった。
何事にも全力といった印象があった
菊池さんが講習中に寝ているというのは珍しい。
どれくらい珍しいかというと
夏だけど雪が降ってくるんじゃないかと
周囲に外の景色を確認させるくらいの珍しさなのだ。
いつも講習後に
「明日の講習は真面目に受けなよ」
とどうしようもない俺に
注意してくれる真面目な子だ。
どうしたのだろうか?
夏はサーファーにとって
いわば特訓の季節である。
サーフィンの特訓で疲れているのだろうか?
菊池さんは確か駿と同じダンスチームだ。
講習後にダンスチームの練習もあるのだから
講習中くらいはゆっくり休んでもいいよ
と俺なんかは思うが、
それを許してやるほど真千先生はお人好しではない。
始めは驚いていた真千先生にも
少しずつ曇りの表情が見え始めていた。
このままでは菊池さんが俺と
同じ目には合わないにしても、怒られることは十中八九間違いない。
珍しいんだから許してやってほしい・・・
と言っても半端な妥協が通用する相手ではないし、
俺がいきなり大声を出して華さんを起こしたとしても、
周りにとっては授業妨害でしかない。
俺にとっては
頭のいかれた奴+真千先生からの想像もつかないペナルティ
がおしつけられるだろう。ハイリスクローリターンというわけだ。
さてどうしたものか。
俺の頭で思いつく打開策は・・・
あれしかない。
「キーンコーンカーンコーン」
今日の夏期講習の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
俺はいつものように丸椅子から降りる。
真千先生からは
これまでより強めのお仕置きを受けるだろう。
講習室をあとにするみんなとは逆に苦笑いをして室内へ入っていく。
丸椅子を所定の位置に片づけると駿と孝也が側に来て
「教室で待ってる」
と一言残して講習室を後にしていった。
真千先生が腕組みして教壇で待っている。
普通こういう時はうつむきで反省している風に行くのが筋なのかもしれない。
だが、今日は何故だか少し清々しい。
真千先生の鋭い眼光を真っ向から受け止め、
近くに寄ると、真千先生が口火を切った。
「ねぇ、どうして?」
これまでにないくらいに低音の声だった。
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