第10話 こちら実況席、大荒れからの××模様

「うん、そうだよ。初めましてだよね?

八千草咲苗です。崎坂くんでしょ?」


「うん、初めまして、崎坂孝也です。」


孝也はすでに駿の女バージョンである

甘いマスクと甘いボイスを備えた八千草マジックの虜になっていた。



「いや、

そこで俺の名前出すのやめてくれるかな。

俺にも虜になってるみたいな誤解されかねない。」


「違うのか?」



「ははは、勘弁!」


珍しく駿が自分の意見を言った瞬間だった。

孝也の立場で考えると複雑だ。



「崎坂くんでしょ?」と自分の名前を

クラスのアイドルである八千草に呼んでもらえたことで、

孝也の顔に将軍の自信に満ちたオーラが戻ってきていた。

というよりも

自分の名前を覚えていてもらえたことが

この上なく嬉しかったのだろう。



そして八千草が

「そういえばさ、

さっきどうして崎坂くん、自分のこと将軍って言ってたの?」




実に鋭いツッコミです。

野球で例えるなら

インコース内角にズバッと

ストレートが決まった感じでしょうか。

こちら実況解説を務めさせていただきます、

平民こと太郎と侍こと駿でございます。

よろしくお願いします。

さぁ、自称将軍である孝也選手は

どうこのツッコミを切り抜けるのでしょうか?




孝也が口を開いた。



「それは、

将軍をやれる人が俺しかいなかったからなんだよ!!」



そうきたかーーーー



「え、どういう意味?」



「実は俺と若草駿、佐藤太郎の三人で

役職を決めて高校生活をしているんだ。

それは、ある意味で現代の生活に身を置きながらも

常に中身は江戸時代の立派な漢ってことなのさ。」


「何それ?

やっぱり面白いね、崎坂くん。

じゃあ、崎坂くんが将軍ってことは、若草くんと佐藤くんは?」



こちら実況席。

お、俺たちのことも

一応聞いてくれているぞ♪



「若草は侍だ」


「若草くんは侍かぁ~、かっこいいね。」


駿の謙遜した表情も束の間で、

顔はにんまりとニヤついている。


「将軍の方が立場は月と鼈、遥か上だけどね。」


孝也将軍強がりますね~~


「ちなみに佐藤は平民だ」


一気に実況席が歓喜、ではなく寒気と化した。



「え、平民?何だか佐藤くんだけ立場低いね。」


「まぁ、それぞれ部に相応ってことだろう。」


おいおい、どの口が言ってんだ。

お前が勝手に決めたんだろ孝也~。

こちら実況席大変荒れております。今一度落ち着くまで実況の方はお待ちください。



「そうなんだ。この役職は誰が企画したの?」


八千草の率直な質問の答えは無論、孝也である。


しかし、


「これ企画したの佐藤太郎だよ。」



平然と嘘を言ってのけた孝也に

よし、あいつを後でぶっ飛ばそう。絶対ぶっ飛ばす。

こちら実況席が寒気から殺気へとなっております。

誰も近づかないでくださいね。



「佐藤君が企画して、佐藤くんが平民なの?」


「そうなんだよ。

変わってるよな。身をわきまえているというか・・・」


「じゃあ、将軍の崎坂くんは

相当魅力的な才能があるんだね。」


「まぁ、自分ではそうは思わないけど

そういうことになるかもね。」




孝也、お前の才能は

他人を容易く犠牲にして成り上がろうとする強欲なところだ!!!

こちら実況席、もはや実況席ではありません。

○○現場と化しそうです。





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