第9話 天使のような可愛らしい声の持ち主

「孝也・・・いや、将軍殿!!」


「どうした・・・」


「自分でモテたいプライドだけは将軍って正気か?」


「太郎氏、やはりまだまだ平民であるな。

男たるもの、女子にモテたいという想いは誰でも持っておろう。

もし仮にもその想いがないというものは、


        断じて


     男では・・・ない 」



「そんな断言しなくても・・・

駿はあるのか、その想いとやらは」


「いや~、俺は・・・」


駿が口を開こうとすると孝也が



「当然であろう。駿氏はその想いを持っていながらも、

あえてスルーしているのである。その余裕こそが侍なのだ。」


そうだった・・・太郎は駿が侍であったことを忘れていた。

一方、苦笑いする駿を見て、

将軍と侍の絶対服従的な関係性を垣間見た気もしていた。



「将軍殿。飛び込み3人組では、勝敗どころか、

歴史に汚点まで残す形となってしまいます。

何かセンスを感じる強そうな名前が必要じゃないですかね。」


と佐藤太郎、平民は言った。


現代でなければ、

現実的に平民が将軍様に直々ものを申すなど

言語道断

処せられていたに違いない。

孝也は真剣に将軍殿をやっている。


気付けばいろいろと面倒なことになるが、

気付かない頭の緩い将軍殿で良かったと俺、平民は思った。


ちなみに侍の駿は、

孝也に俺が申している姿をニヤニヤして見ていた。

さっきまで苦笑いしていた奴がニヤニヤしているということは、

こいつもこいつで思うところがありながら、将軍に告げ口しなかったのだろう。

忠実さのかけらもない奴である。

平民的には都合がいいが、

何を企んでいるのか読めないのも事実だ。



「そうだな~

何かいい名前ないかな~~」


飛び込み三人組に代わる

ネーミングを考えている孝也に




「うん?・・・

名前?何の名前?」



「ほう、将軍の儂に向かって

背後からもの申してくるとは、無礼者。一体何奴じゃ?」



「うん?将軍?

誰が? 無礼者? 私が?」


混乱している様子の無礼者を

太郎と駿は教室の窓から見てただただ冷や汗をかいていた。


頼むから気付いてくれ孝也。


今やお前は将軍ではない。

高校一年三組の崎坂孝也だ。

だが、将軍モードに入った孝也は、


「ああ、そなたが無礼者である。表に来い。」

と背中越しに役者ゾーンに入っている模様


「無礼者っておかしい(笑)」


爆笑する無礼者に


「何がおかしい!」

と強めの口調で言う孝也



会話が続くたびに太郎と駿の冷や汗は止まらない。



「確かに後ろから話しかけたのは失礼だったと思うよ。

そこはごめんね。でも、今どき無礼者って言うの聞かないし、

言われたのも初めてだったから、つい面白くて話し続けちゃった。

ずっと後ろから話しかけててごめんね。崎坂将軍♪」


孝也はこの時、太郎や駿にはない

可愛らしい声に疑問を抱き始めていた。


待てよ、もしかしたらこの声は、女子ではないか。

いや、そうだ。

では一体この天使のような可愛らしい声の持ち主は・・・



孝也が振り返ると

目の前に現れたのは、

我が一年三組誇る

小柄でポニーテールがお似合いの可愛い系美女の 八千草 咲苗 だった。


俺と駿は孝也が顔を真っ赤にして即座に下を向く姿を

手で口元をおさえて笑いをこらえながら覗き見していた。




「な、な、な、なんと、八千草さんだったか!?」

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