第8話 孫子の兵法とともに
「否、俺たちの狙いである。
駿氏が述べた戦いとは
以下のことを狙いにとしたものである。」
太郎は孝也の発言の際に、
駿の方へと視線をやると
時々見せる愛想笑いをしていた。
おそらく駿の「戦だ」は
その場しのぎのものだったと俺は察した。
だが、孝也は駿に構わず説明を続ける。
「夏期講習は『守りの姿勢』
静かなるごと林のごとく
動かざるごと山のごとし
夏期講習が終わったらすぐさま『攻めの姿勢』
早きこと風のごとく
侵略すること火のごとし」
武田信玄の軍旗に掲げられる
孫子の兵法『風林火山』が
まさかここでこんな形で使われようとは、
命をかけていった将軍様方に合わせる顔がない。
ただ、半ば強引ではあるが
孫子の兵法を現代の実生活に結びつけようとは、
孝也の策略の才も捨てたものではないと不覚にも感心させられるものがあった。
孝也は俺たち三人組を
「海満騎馬隊三人組」と名付けた。
一度目の夏だろうと
二度目の夏だろうと
夏こそ勇猛果敢に挑み、
華々しく散ろうではないかと散ること前提に
名付けられた俺たち海満騎馬隊三人組は孝也将軍の指揮のもと、
高校初の夏休みを迎えるのである。
この先まだ二度は経験するであろう
夏休みを始めからアクセル全開で飛ばす必要があるのかという密かな問いは、
もはや逃げ腰、負け犬の考えとみなされる危険が
将軍の性格からしてあることから、
今は考えないようにしていた太郎と駿であった。
もう、なるようになれだ。
海満騎馬隊三人組、
略して飛び込み三人組(孝也案)の役職はこうである。
① 俺を通さずして誰に通す、モテたいというプライドだけは「将軍」・・・崎坂孝也
② 甘いマスクと甘いボイスで女イチコロ、だがクールにスルー「侍」・・・・若草駿
③ 四六時中空を眺める、戦闘力ゼロ、戦う気ゼロの超平和主義「平民」・・・佐藤太郎
以上頼りない三人衆
って誰もツッコまないけど、
略して飛び込み三人組って初耳ですけど?
飛び込みどこから出てきたんだ。騎馬隊か?
略すにしてもだね、
『海満』は海満高校の生徒として外せないし、
『騎馬隊』はビジュアル的にも一番おいしいところだろ。
てっきり語呂を合わせて
海満の『海』
騎馬隊の『馬』
三人組の『組』
とかで『海馬組』
とか新選組みたいな感じで
かっこよくするのかと思いきや。
飛び込みって
どちらかと言うと当たって砕けろ的な感じにしか受け取れないよ。
まぁ、名前のそもそもが華々しく散るだから意味的には同じなんだけど。
飛び込み三人組って、戦国時代だったら、
武器を持たない裸丸出しのお馬鹿さんが誤って
戦場の中心に迷ってきちゃうような飛び込んでくるような。
現代なら満員電車で女性専用車両におっさん一人が駆け込み乗車してくるような。
そんなもんだろ?
勘弁してくれ。
このままでは、俺たち三人組の名前からして
すでに夏の勝敗は決まっているぞ・・・・
あともう一つツッコミどころがある。
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