第6話 青春予報は早くも大荒れ模様

「やはり理解に苦しむか。よかろう。

つまり、

カメラを通して写す

光景、情景、女子にこそカメラの神様はやどりけり。」


「いきなり古語出てきたけど。

でもなるほど・・・

その場の光景、情景、そして、あれ、最後なんて言ったっけ?」


「なぬ、最後が一番重要なのだぞ。

いいか、忘れるな、二度は言わんからな。」


「ああ、すでに二度目になるが、

もう一度最後をキメ顔で頼む」



「カメラの神様は」



「カメラの神様は?」





「女子にやどりけり」(キメ顔)




「・・・」



孝也がその言葉を発した瞬間、

女子たちからの変態を見るような視線が

レーザービームとなって

絶え間なくこちらに注がれてきていることを隣でひしひしと感じていた。

その視線の矛先は無論、俺にもだった。



「どうした太郎氏、顔色が悪いぞ」


「ああ、

お前の話を聞き逃した上に

聞き返すリスクの重みを理解していなかったことに後悔してるんだ。」


「戯言を、面白き男よ太郎氏は」


「そりゃどうも」


調子に乗り出した孝也は

誰にも止めることはできないのかもしれない。

いや、できない。


孝也と共犯になってしまった俺に、

この先の青春は青春のままでいられるのだろうか。

危機感は強まり、望みは弱まるばかりだった。


しかし、女子から一線を置かれている俺たちに


「なんか楽しそうだね。何の話してるの?」


と何の躊躇いもなく話しかけてくる駿は

稀に見るお人好しか変わり者なのだろう。

てか俺の周りは変態と変わり者しかいねぇじゃねぇーか!!!


どうやら俺の青春予報は大荒れ模様のようだ。




太郎の中で変態と変わり者な

孝也と駿が少しうらやましく思え始めていた。



俺は昔からそうだった。


自分のことは自分でする。

他人に迷惑をかけない。

幼少期の頃からそう教わり続け、

無意識にそう行動してきた。


友達は小学生の頃から塾に行って

予習復習をしていたが、俺は違う。


地域の図書館や公民館に行き、

辞書を片手に独り宿題と向き合っていた。


それから情報化社会が進み、

知らないことはネットとスマチョで手軽に入手できるようになった。


電子辞書ですらあまり見かけなくなってきたのだから、

愛用していた書籍の辞書はアナログ人間の最終兵器と言えるだろう。


今の俺は同じ高校生の中でも勉強も含め、

たいていのことは自分の力で解決できるし、

特に目立って迷惑もかけていない・・・はずだ。

ある意味世間が言うエリート候補と言えるのではないだろうか。


だが、どうだ。

自分のことは自分でと

他人に迷惑をかけないことばかり意識するあまり

気付けば関わりは希薄になり、友達は少なく、

いつだって周囲の自分に対する評価が第一優先されるようになっていた。


さっきも孝也の周囲を気にしない

己を貫く意見に対して理解しようと受け止めてやることができなかった。


それどころか真っ先に俺の脳は周囲の目線、

表情と言った反応に意識が逸れてしまった。

孝也の意見が正論であったかは置いといて

結局は孝也と話しているのに孝也と向き合えていなかったのだ。


俺の唯一の友である孝也と駿は変態と変わり者に相違ないが、

まっすぐ自分を持った誇らしい奴らだと俺は心から思っている。


俺もまっすぐ周囲の奴らの評価なんざ気にならない

自分を持った男になりたい。

そして二人の友と迷惑をかけ合える仲でありたい。


と想う五月一五日の今日この頃だ。





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