第26話 ケンカだよね

 何だろう?

 ここは、トイレ?

 みんなおしっこしたかったのかな?


「じゃあ、先に入ってくれる?」


 おトイレに? でも、小町おしっこ別にしたくないしなぁ。


「小町、ここで待ってるから、おしっこしてきていいよ!」

「いいから入りなって!」

「わわ!?」


 もう、麻里奈ちゃん、押さないでよぉ!


「美海花、外見張っといて」

「オッケー」

「あれ?美海花ちゃんはおしっこしないの?」

「あ? しねぇよ」

「そうなんだ! じゃあ、小町もしないから一緒に行く!」

「あんたは、こっちっ!」

「ぎゃ!?」


 いてて。急に引っ張るなんてひどいよ、実稲ちゃん。

 小町、転んじゃったよ? 

 トイレの床、汚いのに。


「あんた、これなんて書いたの?」

 

 それ? 小町があげた手紙だけど。

 そりゃ、もちろん!


「みんなの良いところを頑張って書いたよ!」

「へー。キモッ」

「え?」


 小町の見間違いかな?

 今、実稲ちゃんが手紙を破ったような。

 聞き間違いもしたかも。キモッて聞こえたし。

 違うよね、全部間違いだよね! 

 だって仲直りしたもん!

 目を瞑ればきっと、きっと……。


「あれ?」

 

 この床に散らばってるのって、小町の手紙?


「あんたさ、本気であたし達があんたの事好きになったと思ってたの?」

「え」


 それは、だって。

 謝ったら、いいよって。


「う、うん! もちろんだよ!」

「だからそれがキモいって言ってんのっ!!」

「ひ!?」


 なんで、実稲ちゃん怒ってるの。

 小町、また人に嫌な事した?


「麻里奈ちゃん、友達じゃないの?」

「え。あれ、言わなかったっけ? あんたの事嫌いだって」

「で、でも」

「あんなの嘘に決まってんじゃん!! やば!! 頭おかしすぎでしょ!!」


 嘘なの?

 今度遊ぼって言ったのも、嘘なの?

 小町、頭おかしかった?


「てか、あたし達、謎に謝られただけ。で、何って感じ」


 実稲ちゃん?


「こんな女、ただ顔が良くてエロいだけじゃん。中身キモキモ。それなのにさ、ゆうくんはなびいちゃってさ。まじ意味わかんない」

「ゆうくん?」


 ゆうくんって、ミサちゃんの弟じゃ。

 待って。そういえば、オリーちゃんの妹の名前って。


「まじ、意味分かんない。あー! もう! ムカつく!!」

「うわっ!?」


 そんなに蹴ったらトイレのドア壊れちゃう! ダメだよ!


「みね、ちょっと押さえといて」

「何、やっちゃうの? ウケる」


 実稲ちゃん? 何で近づくの? 


「動かないでよーってな」

「ちょ、ちょっと!?」


 何で羽交い締めなんかするの!?

 な、何する気なの!?


「や、やだ!」

「あ、暴れんなって! 言ってんだろ!」

「ぐぇ」


 く、苦しい。

 

「みね? それマジで逝くやつだからやめときな?」

「だってこいつ力半端ねーもん! 油断しなくても持ってかれる!」

「うぐげぇ……」

「は、タコみたいに赤くなってんのヤバ。でも、まだちょっと可愛いわ。うざ」

「マリー? 早くやっちゃいなって」


 小町、死んじゃうの? 

 殺されちゃうの?

 やだ。やだ。やだやだやだやだやだやだやだ!!

 死にたくない!!


「この光景も見てておもろくてさ。あっは! 泣いてやがんの! キッショ! でも、そろそろやめた方がいいかも。じゃないと、うちらムショ行きだわ」

「りょ」

「んはっ!! はぁ、はぁ、はぁ」


 し、しぬ。しぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬ……。


「マジ押さえといてよ?」


 しぬしぬしぬし、え?

 何を? するの?


「はーい雌豚の脱衣ショーでーす」

「え!? だ、だめ! えっちなの! 小町にはまだ早いの!」

「暴れんな!」

「ぐうぅ」


 これ、やだぁ。


「うるせーヤリマン。あ、みね? もうちょっと腕上げれる?」

「おけ」


 死にたくないぃ。

 脱がさないでぇぇ。


「よし」


 うぅぅぅぅ、め、目の前が。 


「はーい、ごかいちょー。うわでっか!? ヤバ、こんなのぶら下げてんの? 逆にキモいわ」


 く、暗く。


「てか、あんた痩せたよね。前までデブだったのに。あーし知ってんだわ。脂肪が隠れ見えてたの」


 なって。


「そんなに男に媚びたいの? マジ調子乗んなよっ!!」

「あたし、退けるからさ、カメラで撮ってよ」

「おけ。じゃあスマホ……」


 き、た。


「うお!?」


 死にたくない死にたくない。


「ヤバ!? こいつおかしくなった!!」

「ちょ、ちょっとやばくね!? 白目剥いてるって!!」


 死にたくない死にたくない!


「首閉めてんのに動くって、おかしいだろ。ほんとに人間かよ?」

「マリー!!呑気に眺めんな!! マジやばい! 押さえきれないって!」


 やだやだやだやだやだやだやだ!!


「大丈夫だって、すぐおちるって。こんだけ元気あるし、多少絞めてても死なないっしょ!」

「うぅぅ!!」

「マリー!!」

「は?」


 やめて。


「……イッタ。はぁ? 殴られたんですけど。はぁ? 殴られたんですけど!?」

「マリー!? 大丈夫!?」

「ふぅう! はぁ! ふうぅうぅ!! はぁ!! はぁ、はぁはぁ」


 や、やめてくれた。

 クラクラする。

 気持ち悪い、吐きそう。


「お前!! マジ死ねよ!!」

「ぶっ!!」


 うううううううううううう!?

 痛い痛い痛い!!

 

「ちょ!? どしたん!! 何でマリー羽交い締めしとんの!?」

「美海花! マリーが殴られて、ぼーそーちゅー!!」

「まじか。そっちは?」

「分かんない。いいとこに入ったのかも。座り込んでるし」


 アァァァ!! 頭が、焼ける!!

 助けて!! 痛いよぉっ!!


「マジ死ねよ!! 死ね! 死ね!!」

「マリー落ち着きなって! これ以上怪我させたらヤバいから!」


 いだいぃ、いだいよぉ!

 先輩、お姉ちゃん、おばあちゃん、おじいちゃん、まま、パパ、ミs。


  ・

  ・

  ・


 ん? 何だろ、お腹が冷えてる。


「あれ? 小町、何でこんな所で寝てるの?」


 ここって、トイレ、だよね。


「いっ!?」


 頭キーンてした。

 ほっぺたから頭に痛みが、キーンて。


「ウェ!? 何で小町の制服脱ぎかけ!?」


 は、恥ずかしい!!

 えっちなのは、小町にはまだ早いのに!!


「これでよし、と」


 お腹下しちゃうかも。

 それにしても、トイレの床に寝てたなんて、汚いなぁ。

 帰ったらお洗濯しなくちゃ。


「ん? 何これ」


 紙がいっぱいばら撒いてある。

 ビリビリだ。

 何だろ。紙吹雪?


「どれどれ」


 これ、実稲って書いてある。

 こっちは、小町?


「あ」


 思い出した。

 小町、みんなとケンカしちゃったんだった。


「よいしょ」


 帰ろ。

 ケンカしちゃっただけだし、また仲良くなれるよね!

 

「うわぁ、ほっぺた腫れてる」


 でも、何でだろう。


「泣いちゃダメだよ、小町。我慢我慢」


 明日は。


「泣いちゃ、ダメ、だよぉ……!」


 学校行きたくないな。

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