第18話 決行日

「小町、そういえば聞きたかったんだけど」


 俺は学校からの帰り道、小町に尋ねた。


「はい! 何でも聞いて下さい!」


 小町は元気よく笑った。

 

「その耳につけてるの何?」


 それは、小町が倒れた時たまたま見えた、ピンク色のイヤホンみたいな物体の事だ。


「こ、これですか? こ、これは」

「ん?」


 何故か小町はどもる。どうしたのだろうか。


「こ、これは、耳栓です」

「耳栓?」


 耳栓ってもっとコルクみたいな物ではないのだろうか。いや、もしかしたら、今はそういう耳栓があるのかもしれない。

 確かにコルクみたいな耳栓って、耳からはみ出してそうで、見た目悪いもんな。


「はい」


 とりあえず小町が耳につけている物の正体が分かったところで、今度はつけている理由が気になる。

 しかし、何故小町が耳栓をつけているのかは安易に想像できた。


「うるさいのか?」


 彼女は非常に耳が良い。大声を聞くと気分が悪くなるくらいである。


「そうです。うるさくて仕方がないのでつけてます。お風呂とか入った後はたまにつけ忘れちゃうんですけど……」

「なるほどね」


 そういえば、小町は大声を出されても気分が悪くならない時が多々あった。それは、耳栓で音をシャットダウンしていたからなのか。

 この前部室で気分を悪くしてしまったのは、恐らく耳栓をつけ忘れてしまったからなのだろう。

 そこで、新たな疑問が浮かんだ。


「耳栓だけでいいの?」


 彼女は聴覚以外にも、視覚、嗅覚、味覚、触覚が人より優れている。

 耳栓をする程、耳で苦労しているのに他の部位はいいのだろうか。


「うーんと、どういう事ですか?」

「あー、と」


 今のは俺の質問の仕方も悪かったが、何て言えば伝わるかが分からない。

 そこで、俺はジェスチャーを交えて小町に質問の内容を説明した。


「えぇ!?」


 すると、小町はびっくりした様子を見せて立ち止まった。

 腕に抱きつかれている俺も必然的に立ち止まってしまう。


「何で小町の悩み知ってるんですか!?」

「あ」


 あくまでもその情報は先輩の手紙で知った事である。

 小町から直々に言われたわけではない。

 さて、何と説明しようか。いや、どんな説明をしても小町は信じるし、ここは適当に。


「見てると分かるよ」

「えぇ!?」


 ほらね。


「そんな」


 小町は、顔を赤くして俺の腕に顔を埋めた。

 何か彼女を困らせることを言ってしまったか?


「小町の悩みバレバレだったなんて、は、恥ずかしいです」


 恥ずかしい? 何故。


「何で恥ずかしいの?」

「うぅー、だって、あんまり人に知られたくないからぁ」


 小町は本当に恥ずかしいのか、中々顔を上げない。

 知られたくない秘密というやつだろうか。

 いつも彼女は知りたい側だから、自分を知られる事に慣れていないのかもしれない。

 だとしたら、これも彼女を変えるための材料になるかもしれない。

 そう思って、深く掘り下げてやろうとしたが、小町が何だかかわいそうに見えてきて、やめた。

 また今度でも良いだろう。

 俺は、そんな事を考えながら小町を家まで送った。

 

  ・

  ・

  ・


 二週間後。

 俺は小町と共に部室にいた。

 これから、彼女の暴走を止めさせるきっかけを作る。

 この二週間も大変だった。

 小町に振り回され続け、いつの間にか七月に突入していた。

 ただ、何もせず過ごしていたわけではない。

 上代兄妹利用して、この日のために色々と準備をしてきた。

 俺と小町はテーブルを前に隣同士で座っている。

 テーブルの上には写真とカメラが置いてあるが、小町はそんな物に興味はないようで、俺に顔を擦り付けて甘えていた。

 部室の鍵は閉めてある。いつ乱入者が入ってくるか分からないからだ。

 ちなみに、西井美咲も部室内にいる。

 事情を知っているからという理由で、半ば強制的に入ってこられた。

 まぁ、別に聞かれても今更なので、良いという事にした。


「さぁ、小町。よく聞いてくれ」

「はい! 何でしょうか!」


 小町は自分に何か頼んでくれるのかと言わんばかりの期待の目をしている。

 今から、見るものを小町がどう受け止めるかだが、それでも彼女だったら分かってくれるだろう。


「今からカメラでビデオを見せるから、それでどう思ったか教えてほしい」

「ビデオ? 分かりました!」

「うん、良い返事」

「でへ」


 俺は早速テーブルのデジタルカメラを手に取り起動した。

 そして、二週間前から上代部長に撮ってもらっていたビデオを探した。

 まさか上代部長が、協力してくれるとは思わなかったが、「フってしまった借りを返す」との事だったので、まさに人間万事塞翁が馬である。

 このデジタルカメラも上代部長のだ。やっぱり根はいい人なのは間違いない。


「あった」


 俺は最初のビデオを見つけて、その状態を維持して小町に渡した。


「再生ボタン分かる?」

「これですか?」

「そう。じゃあ見てちょうだい」

「はい!」


 小町は元気に返事して、再生ボタンを押した。

 

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