第4話 守るため

「さて、どうしたものか」


 俺は一つの机を小町とシェアしながら、考えていた。

 

「ふう、重かったぁ」


 小町は制服の上着を脱ぎ、ブラウス姿になると、低い身長の割に大きすぎる胸を机に

 胸が大きすぎると肩を凝るというし、彼女も大変なんだろう。

 ちなみに先輩は大胸筋なのか、乳房なのか分からないくらいちい……これ以上言うと、怒られそうだ。


「あんまりスペース取るなよ?」


 彼女とは机を共有しているため、あまり胸を置かれると俺の手が何かの拍子に触れてしまう可能性がある。

 そんな事態は回避したい。

 彼女は先輩の大切な人なのだから。


「へ? 何のですか?」

「え、何のって」


 それだよ。と胸を指差すほど俺も羞恥心がない訳ではない。


「……何でもない」

「ふん?」


 まぁ、そんな事はどうでもいいのだ。

 とにかく今はあの部室がないため、前まであそこに足を運んでくれていた生徒が来てくれない。

 となると新しいカウンセリングルームが必要なのだが、この階段下では来てくれる生徒も来ないというものだ。

 声がこもって、外に漏れにくいという利点はあるが、物事には適所というものがある。

 ここじゃどうも、雰囲気が出ない。

 リラックスした空間を作り出さなければ、悩みというものはあまり打ち明けられないものである。

 その点、あの部室は先輩の魔改造のおかげか妙にリラックスできる部屋だった。

 

「階段下じゃ、誰も来てくれないかな?」


 俺は意見を聞こうと、小町に尋ねた。


「先輩がやりたいなら、どこでもいいと思います!」

「そう? じゃあ、やれる事はやってみるか」


 先輩が作り出したカウンセリング部によって救われた生徒もたくさんいるだろう。

 先輩と同じとまではいかなくとも、俺が先輩のように悩みを聞いて人の手助けしていかなければ。

 とりあえず、カウンセリング部が消滅しないためにも実績が必要だ。あと、信用できる部員の確保。最終的には公式な部活として認可される事が目標である。


「そういえば、本当にカウンセリング部でいいの? 成り行きで決めちゃったみたいだけど」

「遊べないのは残念だけど、お姉ちゃんに先輩の言う事聞けって言われてるので」

「え」


 知らない内に彼女にこの部活に入る事を強制していたのだろうか。

 それは申し訳ない。


「だったら、先輩の側にいた方がいいかなと思って」

「そ、そうなの」


 そういうことか。

 いや、待て待て。それって結局強制してるのと変わらないじゃん。


「や、やっぱり無理してない?」

「無理? 何でですか?」


 小町は無垢な顔で首を傾げた。


「いや、だって遊べないよ? 他の部活で体動かしたくない?」

「……確かに!」

「じゃ、じゃあ早速部活動見学に……」

「小町、鬼ごっこ部に入りたいです!」

「鬼ごっこ部はありません」

「えぇ!?」


 鬼ごっこか。

 先ほどと入りたい部活が変わっているが、まぁ、子供なんてそんなものだろう。

 鬼ごっこに近いといえば、陸上部か?


「鬼ごっこ部はないけど、陸上部だったらあるよ」

「陸上部……いいです」


 あれ? 何故かお気に召さなかったようである。


「な、何で?」


 まさか、陸上部にトラウマがあるのだろうか。


「だって」


 だって?


「追いかけっこしないんですもん! 走るだけなんてつまんない!」

「……そっか」


 もしかしてと思ったが、そんな事なくてよかった。

 

「じゃあ、どうしよっか」

「もうめんどくさいから、先輩と同じでいいです!」

「……分かった」


 なんだか何を言ってもこの答えに行き着きそうなので、俺は細かい事を考えるのをやめた。


「じゃあ、今日はここで人を待ちます」

「えー、それだけですか?」

「……じゃあ、待ってる間はゲームでもしてようか」


 俺は、スマホに入れていた、オフラインゲームを起動して小町に渡した。

 これからは、彼女が飽きないようにカードゲームも持ってこよう。

 はぁ……。

 賑やかになりそうだ……。


 ・

 ・

 ・


 一日目。

 昨日は結局、階段下には誰も来なかった。

 そのため宣伝が必要と考えた俺は、ポスターを作成することにした。

 場所は小町のクラスの教室。

 彼女の机で作業をしていた。


「小町、絵描ける?」

「はい! お絵描きはたまにやってます!」

「そう。じゃあここに楽しい感じでお願いできるかな?」

「はい!」


 小町は、元気に返事をしてマーカーペンを手に取った。

 勢いよくペンを走らせる小町。

 途中経過を見ているが、今の所ハートしか描いていない。

 これから絵が化ける事を祈ろう。

 そして数分後、小町はペンを置いた。


「出来ました!」

「これは……」


 あるだけの色を全て使ったたくさんのハートとその下に描かれた二人の人。

 何故かどちらも片足を上げて、ウィンクしている。そして、目が縦だ。


「これが先輩で、これが小町! どうですか!?」


 小町にとってこれは力作らしい。

 確かに、A4サイズの紙によく詰め込んだと思う。

 決してうまいとは言えないが、頑張って描いたんだろう。

 この努力、無下には出来まい。


「うん、いいんじゃないかな?」

「本当ですか!? やったぁっ!!」


 小町はそんなに嬉しかったのか、ぴょんと跳ねて腕を突き上げた。

 

「じゃあ、これを掲示板に貼って、あとは人を待とう」

「はい!」


 二日目。

 来た生徒、ゼロ。


「来ませんねぇ」

「まぁ、掲示板にポスター貼っただけだからね。他のところにも貼ってみよっか。描ける?」

「はい!」


 三日目。

 来た生徒、ゼロ。

 

「ポスター増やそっか」


 四日目。

 来た生徒、ゼロ。


「ポスター……」


 五日目。

 来た生徒、ゼロ。


「ポ……」

 

 N日目。


「来ない……!」


 おかしい。新規の生徒は来にくいとしても、古参が来ないのはおかしい。

 先輩の代からいた、定期的に来る人も何故か来ない。

 なぜだ? やはり、先輩がいた事は大きかったか。

 俺だけとなったカウンセリング部には誰も来ないってか!

 くそ、計算外だ!

 このままでは、カウンセリング部が消えてしまう。精神的にも、物理的にも。

 こうなったら手段は選んでいられないか……?

 何か、策はないか?

 

「先輩?」


 机で頭を抱える俺を心配したのか、小町が声をかけてきた。

 ふと頭に良からぬ事が思い浮かんだ。

 美少女。

 宣伝。

 ……これか?


「小町、頼みがあるんだけど」

「はい?」


 俺は考えついた事を実行するべく、小町にある事を頼んだ。

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