ニ睡目
僕の家は、そういえばいつも全てが寝静まったかのように静かだった。
母はほぼ毎日会社漬けで、僕が寝た後に帰り、起きる前に家を出る。
正直どこで働いてるのかも知らないし、なんの仕事をしているのかも分からない。
会ったこともない父親は自分の夢を叶えるため、僕が生まれたその日にどこかへ冒険に出かけたらしい。
残念ながら彼にとって息子を育てることは生きがいにはならなかったみたいだ。
唯一家にずっといる祖父は昔から難聴。
聞こえないから話すことが次第に嫌になったみたいで、今ではすっかり無口だ。
「本当はテレビの音なんて全然聞こえていないはずなのに、見え張ってるのか1日中大音量で見てるんですよ!」
たまに利用する介護施設のヘルパーさんが、この前母に言っていた。
「何回注意しても全然耳を貸してくれなくて…。お爺さまは結構なお年なのに頑固で、肝が座ってらっしゃいますね」
いやいや、難聴なんだから貸す耳なんてあるわけない。
これが褒め言葉だとしたら、随分とひねくれた泥道を経由してきてるものだ。
「知らない」
「分からない」
「らしい」
「みたいで」
生涯切るにも切れない縁で繋がってるはずの家族について言えることの多くが、この上なく曖昧で不確実。
それなのに深く知ろうとも、知りたいとも思えない僕は僕で、きっとあやふやで冷たい人間なのかもしれない。
そうは言っても、小学校から帰ってテストの点数を見せびらかせる人はいなかったのは、当時の僕にとっては意外と悲しいものだったような気もする。
中学の部活後にお腹を空かせて帰宅しても、あるのは温かい母の味なんかじゃなくて、いつも冷たい500円玉や薄っぺらい1000円札。
幼稚園の頃なんて家に帰るどころか、夜遅くまで近所の預かり所でおばさん達に遊ばれ続けたっけ。
向こうからしたらたぶん遊んであげているつもりだったのだろうけど、「小さな親切、大きなお世話」とはまさにこのことだな。
「
ピコーンという音とともにスマホの画面が明るくなる。
同じクラスの
高校生になった今でもこの状況はさほど変わらないが、きっと僕も大人になったのだろう。
たとえ家族とは距離があっても、今なら自信をもって…かどうかは置いといて…。
少なくともテストを見せびらかせられる相手が、こんな僕にもちゃんといるのだから。
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