一睡目
「さぁー、今日もお昼にやってまいりました!格安だけど品質最高のテレビショッピング、アベニューのお時間です!」
12時ぴったりに甲高い声が部屋に響く。
祖父が先程まで囲碁の解説番組を見ていたせいか、テレビの音量がかなり大きい。
画面のなかでせわしなく動くおじさんは、金色のスーツを身にまとって満面の笑みを浮かべている。
「今回の目玉商品はなんと今話題の超快適枕、フォーエバースリーパーです!どの世代の方にも楽々フィットし、必ず極上の眠りをお届けいたしますよ!」
柔らかいのか硬いのか。
なんとも言えない感じの真っ白な枕がゆっくりと回る映像が差し込まれ、どこかヨーロッパ系の綺麗な女性が大きなベッドに横になり、気持ちよさそうに枕に頭を委ねている。
「いやー、この枕を使った次の日からほんとすっきりしまして!なんか肩の力が抜けたというか体が軽くなった気持ちになって。ほんと農作業がすごい楽になりましたよ」
72歳男性、
「驚きましたね。今までどの枕を使っても首の痛みが取れなかったのに、これを使ったら一発ですよ、一発!もうずっと使い続けていきたいです」
54歳女性、
仮名なら別にわざわざ名前を出さなくていいのに。
Aさん、Bさんでいいじゃん。
「嬉しい声をたくさんありがとうございます!そんな皆様に感謝して、今から30分以内に申し込んだ方限定にこの特別設計のアイマスクもお付けして、なんと税抜き2万2800円!これはスペシャルプライスですよ!買うなら今、2万2800円です!」
カラカラと氷の音を立てながらキッチンから出て来た母が僕の隣に座る。
「枕が2万円超え?いくらなんでも高すぎでしょ!そんなの買う人いるのかしら」
キンキンに冷えた麦茶が入ったコップから垂れる滴が、僕のズボンを濡らしていることに母は気付いていない。
「気持ちよすぎて極楽浄土へ召されないように注意してくださいよ!」
笑いながら言う金色司会者に合わせて、あははは!という効果音が、そのジョークを助長するように場を盛り上げる。
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