第3章:夏休み

3-1 海の準備

夏休みに入った。

当然のように暑い日々が続く。蝉の鳴き声を聞きながらも、あまりの暑さにばて気味になっていた。そんな暑い中、行われた部活最後の定期演奏会は無事に終えた。しかも、特別賞まで受賞でき、頑張ってよかったと思う。


八月上旬となり、もうすぐ海旅行がやって来る。

最近は、定期演奏会の練習で忙しくて、海旅行のことを少し忘れていた。

過去のグループリンクを見返してみると、凛君から招待され、グループ名が、<海メン>と書かれている。海のメンバーは、僕、優君、凛君、響君、武藤君、重岡君、藤澤君、東条君の八人で、凛君が言っていた別荘に1泊2日で行くことになった。場所は、自宅の最寄駅から電車で10駅ほどあり、綺麗な海沿いに立っているらしい。夕ご飯にバーベキューをすることになり、叔父さんが機材を借してくれて、食材は、僕らで調達することになった。東条君と藤澤君は、お肉担当、凜君と響君は、野菜担当、武藤君と重岡君は、遊び道具担当、僕と優君が花火担当と決まった。


花火かぁ、、、そろそろ買わないと、、、


そんな時、リンクが点滅した。

「おはよー!愁君、今日空いてる?」

優君からだった。

「うんー大丈夫だよ(OKスタンプ)」

「じゃあ、水着と花火を買い行かない(可愛いはてなスタンプ)」

ちょうどいいタイミングだった。

「(OKスタンプ)待ち合わせは、いつものところにする?」

「うん!時間は、13時で大丈夫?」

「(OKスタンプ)」



待ち合わせの時間となり、駅前の大きな銅像の前で待っていると、優君が、帽子を被り、ロングスカート姿の可愛らしい姿でこちらに向かってくる。僕は、夏用の生地で薄めのジーンズとオレンジ色のTシャツを着ていた。

「久しぶり。元気だった?」

「元気、元気。」

「定期演奏会、本当に感動したよー。」

「来てくれたんだ。知らなかったー」

「会場すごい人多くて愁君を見つけられなかったんだ。やっと見つけたと思ったら、ミーティング始まっちゃったみたいで、、声かけるのも悪いかなぁーって。」

「そんなことなかったのに。ごめんね。気づかなくて。」

「ううん。それと特別賞、おめでとう!!」

「ありがとう!」


駅前にある大きなショッピングモールへ向かう。

向かう途中、少し風が強くて、優君は帽子が飛ばないように抑えていた。

しばらく歩くと、ショッピングモールに着いた。

「水着コーナーって、三階だったかなぁ、、」

優君が、辺りを見渡す。

「とりあえず、回ってみようかぁー」

「そうだねー」

僕たちは、三階から回る。

しばらく歩くと、水着コーナーを見つけた。

「あったね。優君は、どんな水着にするの?」

「んーー、、これかなぁ、、、、どう?」

薄い赤色の上下セットの水着を手に持つ。

「上もあるんだぁ、、、、」

「えっ?当たり前だよぉーー」

優君は、不思議そうに笑っていた。


周りのマネキンを見ると、全て上下の水着がセットになっていて、サーフィンタイプやパーカータイプがほとんどだった。


上も着るんだぁ、、、、


最近は、感じなくなった違和感をふと覚える。

けれど、よくよく考えれば、当たり前のことなんだけどね、、、、

変だなぁ、、、、


結局、優君は、薄い赤のパーカータイプの水着を買った。僕は、オレンジ色で、優君と同じタイプの水着にした。

「これで、水着は大丈夫だね。あとは、花火を買わないといけないねぇー」

「じゃあ、花火コーナーに行こう!」

優君は、ご満悦な顔で言う。

一階を回っていると、花火コーナーを見つけた。

「いろいろ、あるねぇ、、どれにしようかなぁ、、、」

「これとかどう?」

優君が、大人数用のたくさん種類が入っている花火を見つけてくれた。

「これにしよう!」

僕たちは、その花火を買った。

買い物を終え、ショッピングモールをぶらぶらする。

「僕たちの用意するものは揃ったねぇ!」

「あとは、旅行を待つだけだね!」

「大人数だけど、優君は、平気なの?」

「愁君と凛君がいるから、平気だよー」

「いい旅行になればいいね、、あっ、アイスあるよ!食べよう!」

僕たちは、アイスを買った。僕は、バニラで、優君は、ストロベリーにする。

休憩所があり、そこのベンチで食べることにした。

アイスを食べ終わろうとした時、目の前を武藤君と重岡君が通る。

武藤君は、短パン、タンクトップに、薄いカーディガンを羽織っていて、

重岡君は、チノパンにポロシャツだった。

僕たちに気づいて、ニヤニヤしながら話しかけてくる。

「愁か?久しぶりだな!」

すぐさま武藤君が僕の隣のベンチに座る。

「アイス、もーらい!」

「ちょっ、、、、」

勝手に食べる武藤君。

「いつも、ごめんねー勇が迷惑かけて。」

丁寧に重岡君が謝ってくる。

「お前ら、何してんだ?まさか、デートか?」

武藤君がニヤニヤしながら聞いてくる。

「違うよー海の準備してたのー」

今さっき買った花火を見せた。

「そっか。俺らも海で遊ぶものを買いにきたんだ。暇なら、付き合えよ。」

僕は、優君を見る。

「愁君がいいなら、ウチは、大丈夫だよー」

優君は、なぜだか重岡君を見つめながら言った。

「決まりだな!」

そう言われ、強引に付き合わされた。


武藤君は、ずっと僕の横にピッタリくっつき、時折肩を抱いてくる。

重岡君は、笑みを絶やさず、優君と仲良さそうに話している。

どこか、優君の様子がいつもと違った感じがする。


いろいろと見て回り、ビーチボールや、いろんな種類の浮き輪を買った。

「こんなもんだろ!」

武藤君が、買ったものに満足する。


海の準備は、思いのほか、大変だった。


帰り道、武藤君が僕に言う。

「演奏会、よかったぜ!」

「見に来てたんだー」

僕は、驚いた。

「まぁなー」

「来てくれてありがとう。」

定期演奏会を思い出し、素直に感謝した。

「部活は、もう引退なのか?」

「あの演奏会で引退だったよ。武藤君は、あの試合で、、」

最後まで言葉が出なかった。


定期演奏会の少し前、野球部の応援演奏に行った。

最後まで接戦だった。

僕は、二年生の時の応援を思い出し、あの時は、勢い余って音を間違えた。

今回は、しっかり弾こうと決め、心を込めて演奏し、勝ってほしいと最後まで願っていた。


「ああ、あれで、終わり。甲子園まであと少しだったのになぁー」

武藤君は珍しく残念そうな顔をしている。

「ごめん、、もっと、僕たちの応援が、届いていたら、、」

何て声を掛けたらいいのかわからなかった。


少しずつ、夕日が沈もうとしている。


「お前らの演奏は、俺らに届いてた。気にすんな!」

優しく僕の頭を撫でる。


「あーーーーーーーーーーーーー。これから、勉強かよーーー」

「お互い、頑張ろうよ。」

「おうよ!」


辺りが少しずつ暗くなる。

僕らは、海で会うことを約束して、駅前で別れた。


「はぁ、、疲れた、、」

僕は、武藤君の対応に少し疲れていた。

悪い人では、ないんだけどね、、、

「武藤君、すごい元気だったね!」

優君が、笑う。

「ウチ、思うんだけど、武藤君って、愁君のこと好きなんだと思うんだよねー」

「えっ?」

僕は、優君の急な発言に驚いた。

「なんか、そんな気がするんだよねー」

「やめてよー。僕は、武藤君、苦手だよー」

優君は、ニコリと笑った。

「ところで、優君は、重岡君と何話してたの?ずっと、楽しそうだったけど、、」

優君と重岡君のことが少し気になっていた。

二人は、本当に仲が良さそうに見えた。

「特別に何か話したってわけじゃないけど、、、」

「そうなんだぁ。僕、重岡君ってあまり知らないんだよね、、そういえば、重岡君って選択授業で美術だったよねーどんな人なの?」

「とっても優しい人。」

照れるように笑った。

「そうなんだ、、重岡君、優君のことが好きなんじゃないの?」

僕もからかってみる。

「やめてよー」

「さっきの、おかえしーーー」

お互いに笑った。



気づくと、夕日は、沈んでいた。





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