お願いと恐喝は紙一重(前編)
精粋帝国帝都・珱都
女王が住まう帝国最大の中央都市。煌びやかで人々の活気溢れるこの町にも日陰と呼ばれる場所が必ず存在する。城下から遠く離れたそこを人々は
「お嬢ちゃん、こーんなところで何してんだい?暇ならお兄さん達とイイことして遊ぼうか、へっへっへっ…」
下品な笑みを携えてそう言いよってきた数人の男たち。
「暇じゃないの。この
あたしは懐から出した写真を目の前の男に突きつける。しかし、そいつは写真もロクに見ようともせずに
「知らねーな。それよりお嬢ちゃん、人に物を頼む時はどーするかがなってねーんじゃねーのか?」
ニヤニヤしたまま言う男に、あたしはわざとらしくため息をついて
「知らないなら別にいいのよ」
短く言って、男の横を通り過ぎようとするが、もちろんタダでは通してくれない。
「おっと、待ちな。そんなに急ぐなよ。せっかくだからここらでの礼儀ってやつを教えてやるよ」
あたしの行く手を阻む男がそう言ったのを合図に、周りにいた連中がジリジリと間合いを詰めてくる。
「…礼儀、ねぇ。そもそもあんた達、礼儀って言葉の意味知ってるの?」
取り囲む男達_ざっと六人ほど_を見廻して言う。するとそれまでニヤけ顔だった男の顔からスッと笑みが消えた。
「…あんまり調子に乗んじゃねーぞ」
低い声で男がそう言ったのを合図に、両脇にいた男達がガシッとあたしの腕を鷲掴みにする。目の前の男は再びニヤニヤと下品に口の端を上げるが、その眼は決して笑ってはいなかった。
「気の強い女は嫌いじゃねーけど怖かったら泣き叫んでもいいんだぜ。そっちの方が燃えるからな」
言いながらあたしに手をかけようとした、刹那
「術式・黒!
あたしの放った呪文に応じて火柱がごうっと音を立てて舞い上がる。加減はしたつもりだから死んではいないが、黒くなって吹き飛ぶ男たち。
「なっ……!」
驚愕して絶句するのは目の前の下品男。腰を抜かしたのかその場にへたりと座り込むそいつに、今度はあたしが不敵な笑みを浮かべて言い放つ番だ。
「で?礼儀がなんだって?」
「あっ……!アニキ!やばいです!そいつ!帝都で噂の魔道士です!」
吹っ飛ばしたはずの男の一人がそう叫ぶ。
「なっ⁉︎ま、まさか、お前が、あのっ…⁉︎」
ふっ、隠すつもりはなかったが、バレてしまったならしょうがない。そう_あたしこそ、帝国一の天才美少女魔道士、世のため人のため、己の私欲のため!いずれは帝国最強の魔道士七賢者の称号を手に入れるべく日々悪と戦う帝都の何でも屋!人呼んで___
「帝都の破壊神、ヤンキー
「誰がヤンキー魔道士だ!」
どごぎゅる。
「アニキぃぃぃぃぃぃ…!」
思わずツッコミを絶叫しながらあたしの放った回し蹴りで、アニキと呼ばれた下品やろーは吹っ飛び昏睡した。キッと辺りを一瞥すれば比較的軽傷で済んだ連中が、ひーと情けない声を上げながら蜘蛛の子を散らすようにその場から立ち去っていった。
ったく、イキがってた割には骨の無い奴らめ。
「ここも手がかりなしかー」
写真を取り出して独りごちる。そこに写っている幼い少女、確か名前は千鶴と言ったか…。聞いている情報では確か十歳ということだが、暗い表情のせいか、少し大人びても見える。
何でも屋のあたしのところに、この少女を見つけ出してほしいと依頼があったのは数日前。依頼主は、あたしが居候先でお世話になっている女中の千代さん。詳しい事情については教えてもらえなかったが、ともかくこの娘を見つけ出してきてほしい、と。正直、事情が定かでない人探しは難航するし、あまり気も進まないのだが、なんといっても千代さんには日々三度のごはんの大恩がある。なんとか少ない情報を辿ってこの羅生街に少女がいるらしい、とそこまでは割り出せたのだが、この街も決して小さな街ではない。おまけに先ほどのような柄の悪い連中がウヨウヨいるもんだから、なかなか話も進まないといった現状だ。
せめて顔役と呼ばれる街のボス的な存在にでも遭遇できれば手っ取り早く事も進むのだろうが。
「……いっそ、ここで大暴れしたら出てくるかな?」
思案げにつぶやいて、あたしはすぐにその考えを打ち消すようにぷるぷると首を振った。
我ながら効率的なナイスアイデアだとは思うが、スラム街とはいえここで生活している人もいるのは事実だ。さきほどのザ・悪人みたいな連中だけとは限らないだろうし、そうした人を巻き込むのはあたしの意に反する。何よりヘタに大暴れして、居候先の竜騎士なんてえらそーな立場にいるあいつが、「責任取って私と結婚してください」とか抜かすのが目に見えているので、ここは世間一般でゆーところのジョーシキというやつに乗っ取って事を進めていこうと思う。
「てなわけだから起きなさいよ」
あたしは先ほど蹴り飛ばしたチンピラ連中のアニキと呼ばれていた男の胸ぐらを掴み上げてがくがくと揺さぶった。
「んぶべっ…!ひっ!ひぃぃぃ!た、頼む!命だけは命だけは取らないでくれぇぇぇ!」
「そー思うならこの娘の居場所吐きなさいよ、知ってるんでしょ?」
目を覚ますや否や怯えた口調でそう哀願する男に、あたしはドスを効かせた低いトーンで言う。一応断っておくがこれは恐喝ではない。そもそも先に手を出してきたのはこいつらであって、歴とした正当防衛なのである!
「し、知らない…!本当に知らないんだ!た、ただ!もしかしたらこの街の東に寺小屋があってここいらのガキは大体そこに通ったり寝泊まりしたりしてるから、そこに行けばもしかしたら…いや!きっと…多分っ…わかる…!かと思いますです…」
段々と自信なさげに声が小さくなってやんの。
「…わかったわ。ありがと」
短く言って、パッと男から手を離す。
とりあえず、他にあてもないわけだし行ってみるか。
踵を返して、あたしはその場を後にした。
続く《ルビを入力…》
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