番外編 異世界の先輩~その④
「あぁぁぁッ! また負けたのですよッ!」
白いノースリーブのパーカーを着た少女が
オープンフィンガーグローブを付けた
「ふふ、これで俺の
その目の前では、
その
「くッ!? こんなのおかしいのですよッ! 何回やってもリョウタが勝ち続けるなんてッ! きっと何か
リムと呼ばれた少女は、自分の
それから
「わりぃけど俺……ゲームで負けたことねぇから」
少し
二人がやっていた遊びは、オセロという白い石と黒い石を
彼らがいた国――ライト王国で今
リムはその暗黒騎士の少女とは友人であり、それもあってすぐにのめり
それもそのはずだ。
なにせこのオセロは、暗黒騎士の少女とリョウタのいた世界にあるゲームなのだから。
そう――。
リョウタは、ある日に突然この本やゲームに出てくるようなファンタジー世界に連れて来られた人間だったのだ。
リョウタは
それが、ある日に
リョウタは、女神から異世界へ行って世界を
だが、それがすべての
リョウタは
さらにリョウタは、女神にハーレムイベントはまだかと呼び掛けた。
彼の
だが彼のパーティーメンバーには、
それで、さらにしつこく女神に呼び掛けていたら、
その後、女竜騎士と
「それにしても何にもねえ村だな」
「
今リョウタたちは、リムの
それはライト王国で
「俺だって来たかなかったよ。でも、レヴィがうるせえから」
レヴィとは、リョウタのパーティーメンバーである女竜騎士のことだ。
彼女はリョウタに
リョウタは、レヴィの
「まったく、あいつ一人でここへ来ればよかったのによぉ。あぁ~
「そんな文句ばかり
「あん? 何がだよ?」
「フフフ……なのですよ」
「
リョウタがリムの
そこには、
彼女がリョウタのパーティーメンバーであり、
「おいレヴィ。
「リョウタ、さっき
「ああ、
リョウタの返事を聞いたレヴィは、フフフと笑みを浮かべると、部屋に
それはとてもすぐには
「あぁッ!? なんだよこの数の
レヴィが部屋に投げ入れているの獣は、リョウタの世界にいる猪のような生き物だった。
こちらの世界では
レヴィは近くの森で狩りでもしてきたのだろう。
次から次へと投げ入れていく。
「ふぅー。どうだリョウタ。これだけあれば
そして、すべての猪を投げ入れると、レヴィは何故かモジモジと
「ほ、
きっと気の
だが、大量の猪に押し
「俺たちを押し殺す気かッ!? お前、俺が言ったことをちゃんと聞いてたのかよッ!?」
「ハッ!? たしかにこのままでは食えんな。だが大丈夫だ。これから
「そういう
リョウタはそれから大声で、「小腹が減ったと言ったのに、どうしてこんな生の獣の食べ
猪の
それは、リョウタの元いた世界でいう“
「リムは
「部屋に猪を投げられて感服してんじゃねえッ!」
それからリョウタの
「これだけの量ならば、里に住む全員に
「そ、そうか。そ、そいつはよかった」
レヴィは元は
その様子を見よう見まねでやっているリムは、その
両目と口をを見開き、おぉ~と声をあげながら見られているせいなのか。
レヴィは少しやりづらそうだ。
「さすがなのです! レヴィはきっと
「そ、そうかな?」
「なのですよ」
そんな二人のやりとりを調理場の
リムはそれに気がつくと、彼に声をかけた。
「それで……あなたは見ているだけなのですか?」
それは今までレヴィと話していたときとは
そう言われたリョウタは
普段から
「リョウタは何をやっても手際が悪いから、リムは
「リムお前……俺にだけなんかキツ
その後――。
里に住む全員、いやそれ以上の量の猪鍋料理を
「なんだかちょっとしたパーティーみたいだな」
「いいじゃないか。
リョウタとレヴィがテーブルに食器を並べていると――。
「
いつの間にか集まっていた住民たちが、ずらりと
叫ぶように言ったのは、その中の
そして彼に続き、並んで立っていた
「おぉ! すごいなリョウタ。これがこの里での挨拶なのだな」
「
その様子を見ていた二人――。
レヴィは嬉しそうに声をあげ、リョウタはただ呆れていた。
「
リムも住民たちと同じように頭を下げ、皆に
「うん。リムはすごいな。まだ
「慕われているのはたしかにわかったんだけど。なんか俺の
そして、猪の鍋パーティーが始まった。
住民たちと気さくに話ながら、リムは実に楽しそうにしている。
「
リョウタとレヴィも鍋料理を
リムの父親であり、この武道家の里ストロンゲスト·ロード里長のエン·チャイグリッシュだ。
彼は、リムや他の住民たちがしていたように左手で自分の右
その
「ど、どうもご
「わざわざ気にかけていただき、ありがとうございます。リム嬢の
リョウタとは
そんな彼女を見たリョウタは、
「いやいや、そんなかしこまらないでくだされ。二人のことはリムからよく聞いています。これからも娘と仲良くしてやってくだされ」
一部を
「
「ああ。ライト王もそうだったけど。
レヴィとリョウタがそんな話をしていると、突然パーティーの
その姿は
「誰かッ! この者の手当てを」
誰よりも先に兵士の体を
すぐに屈強な武道家たちに声をかけ、兵士をその場に
「あぁ……エン·チャイグリッシュ
兵士は
近くで見るとよくわかる。
兵士の
今からこの火傷を
ならばせめて、
エンがそう考えていると――。
「
リムがエンの前へと飛び出していき、兵士の体に自分の両手を
その手から
「
レヴィが
そして手に取ると、口いっぱいに米を
「なんだリョウタ。そんなに感動したのか。わかる、わかるぞッ! 私もお前と同じくリムの
レヴィは
そして、リムの成長とリョウタの仲間思いな面に、彼女はつい泣き出してしまう。
リョウタはそんなレヴィのことを見て、一体何を
彼はただこのファンタジーのような世界に来てから、もう食べられないと思っていた自分の国の
米を口にすることができて感動しているだけだった。
二人がそんなやりとりをしている側で――。
エンが自分である娘リムの治癒魔法を使っている姿を見て、
「リム……
「そんなことないのですよ。リムはまだまだ
その言葉を聞いたエンの表情に
何か
「……今までいろいろとすまなかったな……。私は魔法で人を救える娘をもったことを
「はいッ! なのですよ」
そう言ったエンの目には、うっすらと
リムは武道家でありながら、
その魔力コントロールの
だが、彼女は体内にある魔力が
リムはまず回復魔法を同時に唱えると、それから
「ふぅ~、これ以上はもう無理ですが、
体内の魔力を使い
そんな娘を見て
一体何があったのだ?
その傷や火傷を見るに、
兵士はなんとか体を起こすと、
「な、なんだと……ちょっと待てッ!?」
兵士の話を聞いたレヴィが前へと飛び出してきた。
それも当然だ。
彼女は今リョウタやリム――そして姉のラヴィと共に、ライト王国に住んでいるのだから。
「ライト王国には
ルバート・フォルテッシとは、海の国マリン·クルーシブル
金色の長髪を後ろに
彼は元
兵士は怯えた表情のまま頷くと、その口を
我々の
何故聖騎士リンリが攻撃してきたのか
だが、ライト王はドラゴンの
聖騎士リンリを止めようと、吟遊騎士ルバートが
自分はライト王から言われていた――。
“何かあればストロンゲスト·ロードのエン·チャイグリッシュを頼れ”
思い出し、ここまで落ち
「どうかお
兵士は両膝をついてエンにひざまづいた。
エンはそんな兵士にゆっくり休むように言うと、屈強な武道家に声をかけ、彼を
「父様ッ! ここはリムが
左手で自分の右拳を掴み、胸を張る姿勢――拱手の礼をしたリムが叫ぶように声をかけた。
そんな娘の
「だが、今回は王や住民たちの
「
その後――。
「えッ!? 俺たちも行くのかよッ!?」
「当然だ。お
そして、もちろんリョウタとレヴィも、リムたちストロンゲスト·ロードの
リムを
その道の
「これでほとんどの住民の人たちは里に案内できたと思うのですが……」
「ああ。だがライト王やラヴィ姉、それにルバートの姿は見えないな」
馬に乗り、その
あれだけいた武道家たちはすでに誰一人いなくなり、現在はリムとレヴィ、そしてリョウタの三人となっていた。
「お~い二人とも。ここは一度戻らないか? 俺たち三人だけじゃ、王様やラヴィ姉さんを
レヴィの乗る馬に二人乗りしていたリョウタが、そう
彼には
「ふん。
「いくら王様やラヴィ姉さんが見つからないからって
リムの冷たい返事を聞いたリョウタは、別にそういう意味じゃなかったのにと思ったが、彼女の機嫌を
気まずい空気が流れる中、リムは馬の足を早め、一人先へと行ってしまった。
「なあ、リョウタ。お前が言っているのも
そんなリムの
彼女は、リョウタが今提案したことはもっともだと思ったが、
きっとラヴィ姉さんは、怪我をしたライト王やルバードが一緒にいるため
そう思うと、じっとしてはいられないのだと、心配そうに言う。
「でもよ。ルバートの傍には、きっとイルソーレとラルーナもいんじゃねえかな? あいつらと姉さんがいりゃ心配はいらなそうだけど……」
イルソーレはダークエルフの男性。
ラルーナは
二人ともルバートの
レヴィの心配を
目をウルウルと涙で
「くっ! わかったよッ! 行けばいいんだろッ!」
「リョウタ……」
「ほら、早くしねえとリムに追いつけなくなるぞ」
リョウタのその言葉を聞いたレヴィは笑みを浮かべ、馬を走らせて先へと進んでいったリムを追いかけた。
笑顔で馬の
(くぅぅぅぅッ! やはりリョウタは優しいッ! 普段は冷たいがそこがまた……って、私は何を考えているんだッ!? ライト王国の一大事だというこんなときにッ!? しかし…… くぅぅぅぅッ!)
そして、自分はこの男に槍を捧げてよかった、とその身を
「おい、今飛ぼうとしたろ?」
「し、していないッ!」
そんなレヴィを後ろから見ていたリョウタは、すぐに彼女が飛びたがっていることに気が付いていた。
レヴィは感情的になると、どこでも構わず竜騎士の
当然、やれば
動けなくなった彼女の
「そ、そんなことよりもちょっと飛ばすぞ! 思っていたよりもリムと
「はいよ」
反対にリョウタは、しかめっ
自分はこのダメ女竜騎士のせいで、また
(はぁ、レヴィにあんな顔をされる
彼はレヴィの
リョウタは
「着いたのですよ」
それから馬を足早に進め、リョウタたちはライト王国へと
ライト王国は、三人が
国を
一体何をすればここまで
「ひでぇ……
めずらしくリョウタが口を開くと、リムも続く。
「父様が、けして聖騎士やドラゴンと
「ああ……ルバートが負けたのも
その惨状は、一国の
まだ近くに、その
「ともかく、
リムがそう言うと三人は、
「ラヴィ姉さん……一体どこに……」
ポツリと言うレヴィに、リムは彼女と同じように
ライト王国の状態が、これほどまで酷いとは思ってもみなかったのだ。
この
リムはそう思うと、彼女を元気づける言葉が出てこなかった。
「心配するなよレヴィ。あの
「リョウタ……。そうだな。姉さんがそう簡単に死ぬはずないよな」
リムは自分が言わないでいたことを、あっさりと話し始めたリョウタを見て、この男が考え無しと思うのと一緒に、その口の
実際にレヴィは、リョウタの言葉で笑顔になったのだ。
この男は
何故か他人に
(この冴えない男からビクニっぽさを感じるのは、こういうとこなのですかね……)
リムはそう思うと、二人に気がつかれないように笑った。
里へ戻って、今度は大人数でライト王やラヴィらを捜すためだ。
「だから俺は
やはり文句ばかり――。
リムはそう言ったリョウタを無視してながら、里へと馬を走らせた。
その帰り道に、三人のいたところが突然
今は朝だというのに、何故と三人は空を見上げると――。
「あ、あれは……バハムートッ!?」
三人の上を
バハムートが向かっている
「ライト王国を
リムはそう言うとバハムートを馬で追いかけた。
レヴィも馬の手綱を引き、すぐに彼女を追いかける。
「あんなデカいやつに勝てるのかッ!? それにバハムートって言ったら最初は
「すまんが何を言っているのかよくわからん」
「
「勝てる高い
二人がそう言い合っているとき――。
リムはすでに馬から飛び降り、バハムートの
「はぁぁぁ、オーラフィストッ!」
リムの叫び声と共に、彼女の突き出された両手の
チャイグリッシュ家に
地上から空に飛んでいるバハムートへ光の波動が向かって行く。
だが――。
「なッ!? オーラフィストを
光の波動を受けたバハムートは、その光を体内に取り込んだ。
そしてリムの姿に気がつき、ゆっくりと彼女のいるほうへと向かってくる。
「今の一撃はうぬか?
バハムートは
言葉を
「ちょっと待てよッ!? 喋るのは別に驚かねえけど。バハムートが聖属性の攻撃を吸収するなんて、俺の知ってる設定にそんなのなかったぞッ!?」
だが、リョウタだけは二人とは違う
「言葉が通じるのなら……」
レヴィは馬を降り、バハムートへと向かっていく。
彼女はある
「ライト王国を襲ったのはお前か?」
訊ねられたバハムートは
その吐いた息で、周囲にあった
「たしかに我である」
「何故そんなことをした? いや、たとえどんな理由があったとしても、お前をこのまま
レヴィはそう言いながら背負っていた
そして、彼女の横にリムも
「我はすべてを焼き尽くさねばならぬ……。すべては女神のために……」
バハムートはそう言うと口を大きく開く。
リョウタは慌ててレビィとリムのことを引っ張り、二人を連れて走り出した。
彼につられたのか、
「ど、どうしたというのだリョウタ!?」
「そうなのですよ! 逃げるのなら一人で逃げてください!」
リョウタの
だがそれでも彼は、彼女たちを引っ
「バカ野郎ッ! バハムートが口から吐くものって言ったらメガフレアだろッ!? そんなもん
二人が理解しようがしまいが、リョウタはそう叫びながらただ思いっきり走る。
そして、バハムートは口から
そのあまりの
力任せに引っ張られながら彼女たちが思ったことは――。
リョウタが
「リョウタッ!? お、お前はどうしてバハムートのことを知っているんだ!?」
「そうなのです! バハムートは本にしか
叫ぶように訊いてくる二人にリョウタは、今は
「それよりも早く逃げるんだよッ! あんなやつ、伝説の勇者でもない
だが、そんなリョウタの手は振り払われた。
レヴィとリムは、再び体を
「悪いなリョウタ。いくらお前の言うことでも、ここで引くことはできん」
「リムも同じくなのです。バハムートは里へと向かおうとしているのです。ならば、ここでやつを止めねば里も焼き払われてしまうのですよ」
背を向けたまま言う二人を見たリョウタは、その表情を
バハムートがレヴィとリムの姿に気がつき、その大きな
二人は
「伝説の幻獣バハムートか……。竜騎士として私の
「リムもライト王国で
レヴィは槍を構え、竜騎士の必殺技であるジャンプの姿勢に入る。
リムも両腕に魔力を込め、
「我が名はリム·チャイグリッシュッ! 武道の
突然リムが叫んだ。
それはどこか、彼女の
そんなリムを横で見ていたレヴィは、クスッと笑みを浮かべると、彼女に続いた。
「そしてその友、レヴィ·コルダストッ!
レヴィは、リムの
「
そして、バハムートは再び口を大きく開いた。
その口からは先ほどと同じく、青白い炎が吐き出される。
高く
炎がさらに辺りを焼け野原へと変える。
もしさっきリョウタが無理やり引っ張ってくれなかったら――。
もしあの炎を避けなかったら――。
レビィはそう思い、口に溜まった
「よしリム。このまま奴に突っ込むぞ!」
「はい! なのですよ!」
レビィはそのままリムを抱え、再び跳躍。
その流れるような動きは、今までの彼女とは思えないものだった。
ただ、どれだけ高く飛べるかだけに力を注いでいたレビィだったが、今は状況に合わせて跳躍できている。
それは、これまでのリョウタとの旅やリムとの出会い――。
そして、これまでけして諦めず努力をしてきた彼女の成長の証であった。
レビィ本人はそのことに無自覚だが、その成長を彼女の姉であるラビィが見ていたら、堪らず涙ぐむかもしれない。
「うおぉぉぉッ! リムもお空を飛んでいるのですよ!」
「いいかリム。このまま奴の頭に一撃喰らわすぞ」
「
バハムートの頭上を越え、空へと上がった二人はそれぞれ構える。
槍を下に突き立てたレビィの肩に足を乗せたリムは、そこからさらに上空へと飛んだ。
重力とリムのかけた重さを利用し、レビィは槍をバハムートの頭に突き刺す。
「どうだ! 私の槍、グングニルの味はッ!」
額から血を噴き出し、怯んでいるそこへ先ほどさらに高く上がったリムが突っ込んできた。
「これで決めるのですよ!」
空中で
レビィ、リムの連続攻撃を喰らい、バハムートは大地へと叩きつけられる。
まるで
跳躍がいつもよりも高くないためか、レビィは失敗することなく着地できていた。
その
「今のは
「だがバハムートは伝説の幻獣。この程度で倒せたとは思えないが……」
レビィがそう思ったように、バハムートはゆっくりと立ち上がった。
黒銀の翼を広げ、それを羽ばたかせると、レビィとリムに強風が吹き荒れる。
バハムートにダメージがないわけではなさそうだが、まだまだ戦う余力はありそうだ。
「やはりそう易々とはいかないか……」
「ならば、倒れるまで続けるだけなのです」
「よし、もう一度飛ぶぞリム。今度はさっきよりも高くだ!」
「なのです!」
二人が
レビィが言った通り、より高く上空へと飛んでいく。
だが、
「ぐわッ!? 何の光だッ!?」
「これはオーラフィストと同じ
そして二人は、その身を
「いたた……。レビィ、大丈夫なのですか?」
リムが声をかけたが、レビィは苦悶の表情をみせた。
どうやら地面に落ちたときに、リムを庇って両足を痛めたようだ。
これではもう高くは飛べない。
リムがレビィの怪我のぐらいを見て、そう思っていると――。
「少しはできるようだな。だが、その程度は我を倒すことなど、夢のまた夢に過ぎぬ」
光の波動を放ちながら、ゆっくりと二人へと向かってくるバハムート。
そして、その口を大きく開く。
地獄の業火のような炎――メガフレアを喰らわせるつもりだ。
リムはレビィを抱えて逃げようしたが、すでに間に合いそうにない。
「何をしているリムッ!? お前だけでも早く逃げるんだッ!」
レビィが叫ぶ。
リムは彼女を抱えて逃げるのを諦めると、すでに青白い炎を口から吐こうとしているバハムートに向き合った。
「何をしているんだッ!? 奴の炎が来るぞッ!?」
レビィの声を無視して――。
リムはその両手に魔力を溜めていく。
「リムの夢は大魔道士……英雄になることです」
「こんなときに何を言っているッ!? このままお前まで殺られたら私は……」
「リムの命はある人に救われたものなのです!」
突然レビィの言葉を遮って叫ぶリム。
彼女はレビィが驚きで黙ると、そのまま言葉を続けた。
前に精霊に誑かされ、里を破壊しようとしてしまったとき――。
我が身を顧みずに、リムを助けてくれた暗黒騎士がいた。
その暗黒騎士は、操られていた愚かな自分のことを英雄、そして友人と呼んでくれた。
それ以来、もう自分の境遇や才能のなさを恨むのをやめ、ただ夢を追いかけてきたのだと。
「ここでレビィを置いて逃げるようなら、リムはもうその人に合わせる顔がないのです。それに……」
リムは、急に言葉を止めてレビィのほうへと振り向いた。
その顔はいつも見せている笑顔――レビィのよく知るリムの顔だった。
「レビィはもうリムの大事な人なのですよ。だから、置いて逃げるなんてできません」
そして、その微笑みのまま、そう呟くように言った。
「リ、リム……お前……」
レビィは頬に暖かさを感じていた。
それはポタポタと垂れる自分の涙だった。
だが、涙で滲む目には、容赦なく青白い炎が向かってくるのが見えていた。
レビィには、リムが何をするかがわかっていた。
おそらく両手から氷の魔法を同時に唱え、バハムートのメガフレアを相殺するつもりなのだと。
しかし、それが無謀なことなのは、リム本人が誰よりも知っているはずだ。
確かに、リムの合体魔法ともいえる技術は素晴らしいが、国を焼き尽くすほどの炎を打ち消すのは不可能。
それでも、彼女――リムは、吐き出された青白い炎に向かって、氷の魔法を放った。
業火がリムの放った氷の魔法を、まるで飲み込むように近づいてくる。
やはり、どう見ても相殺することはできなそうだった。
「まだまだッ!」
それでもリムは叫び、体内に残った魔力をさらにその掌へと集めていく。
「なんだとッ!?」
慌てふためくバハムート。
それは、リムの放った魔法は勢いを増し、飲み込むようだった業火は、氷塊に寄って相殺されたからだ。
「や、やってやったのですよ……」
リムが一日に唱えることができる魔法の数は三回。
今メガフレアへ向けて放っている二回と、残りは後一回だ。
だがリムはこの
その三倍の
「
バハムートは
再びメガフレアを吐くつもりだ。
「くッ!? も、もう魔力が……」
「リムッ!?」
レヴィが叫んだその
大きな
口から出かかっていた青白い炎は軌道をそらされ、誰もいない焼け野原へと吐かれる。
「それ以上、うちの妹二人を傷つけるのは
その声の先には、メイド服を着た
レヴィの実の姉――ラヴィ·コルダストだ。
「よし、イルソーレ、ラルーナ! 行くぞッ!」
「さすが兄貴ッ! やつが
「さっすがルバートの兄貴ですぅ!」
ラヴィの声に続き、吟遊騎士ルバートと、ダークエルフのイルソーレ、そして
そして、その後ろから現れた人物を見て――。
「リョウタッ!」
レビィが
喜びに身を震わすレビィだったが、彼女にはリョウタが来ることはわかっていた。
何故ならば、彼はいつでもレビィの
「
リョウタはレビィから目をそらしながら言うと、傍にいたラビィが
大きくため息をつき、やれやれと言わんばかりだ。
「何が勝てるかもとか
「うわぁわわッ! そのことは言うなよッ!」
ため息まじりのラビィの言葉に、リョウタは慌てふためいている。
そんな彼を見たレビィは涙を拭うと、両足の痛みを堪えながら立ち上がった。
「レビィ、まだいけるすっか?」
「当然だ姉さん。……と言いたいところだが、この足ではもう飛べそうにない……」
「うーん、ルバートが気がついた良い作戦があったんすけどねぇ」
「いや、たとえもう飛べなくなったとしても私はやる……やってみせるッ! 教えてくれ! その作戦とはなんなんだッ!?」
言葉を詰まらすラビィにレビィが声を張り上げて訊ねると、姉は渋々話を始めた。
ルバートは泣き喚いていたリョウタからとてつもなく高い魔力を感じた。
ライト王国にいたときは感じなかったが、何故か今のリョウタからは感じるのだと。
その魔力はライト王国を襲った聖騎士の少女や、吸血鬼族をも越えるほどのもので、それをうまく使えばバハムートを倒せるかもしれない。
「とまあ、そんな感じなんすけど……」
ラビィは人差し指で
残念ながらリョウタ本人は、魔法は何一つ覚えていないし唱えることもできない。
だが、その魔力を誰か別の人間に
そのとてつもない魔力をバハムートへぶつけることができるのでは?
それがルバートの考えた作戦だった。
「で、その魔力を移すやり方なんすけど。どうも相手への信頼関係が
「なるほど。だから私が、というわけなんだな。姉さん、やるぞ私はッ! リョウタの魔力を使ってバハムートを倒してやる!」
はりきってみせるレビィだったが、その震えている両足を見るに、誰でも無理をしているということがわかる。
レビィ以外が静まり返る中、リョウタが口を開いた。
「みんな、俺に考えがある……。聞いてくれ」
リョウタたちが話している間――。
バハムートを止めているルバート、イルソーレ、ラルーナの三人。
彼らは伝説の幻獣を相手に見事に戦っていたが、それももう限界が見えていた。
「あらら、ルバートたちがヤバいそうすっね。じゃあ、あとはあんたらに任せたっすよ」
そして、ラヴィは再び用意していた鉄球をバハムートへ向かって投げ始めた。
鉄球を喰らったバハムートは、メガフレアを吐こうとも吐けないでいる。
ラヴィなりのメガフレアへの
「よし。こちらも行くのです。自分で言ったことなんだから
「あぁ。……でも、できればあまり痛くしないでくれ……」
まるで
「こらリョウタッ! あまり動くな!
「そんなこと言ってもしょうがねえだろ! ただでさえお前は重いんだから」
「重いとか言うなッ!」
「はぁぁぁぁッ!」
そしてリムはリョウタを思いっきり蹴り上げた。
レヴィを担いだままリョウタは、そのまま空へと蹴り飛ばされていく。
「オーラフィストッ!」
リムは、そこからさらに両手の掌に集めた光の波動を放った。
蹴り上げられたリョウタは、その波動を喰らったの勢いでさらに
リョウタはすでに
「リョウタ! あとはお前の魔力を私に
「で、それってどうやんだよ?」
「私が知るか! さあ早くやってくれ!」
「お前、わかんないくせに引き受けたのかよッ!?」
言い合いをしながら空を飛ぶリョウタとレヴィに気がついたバハムートは、顔を上げてその口を大きく開こうとした。
だがラヴィが鉄球を投げつけ、それに続いてルバート、イルソーレ、ラルーナの三人がバハムートの体を斬りつける。
「
メガフレアを諦めたバハムートは、光の波動を全身から放った。
それにより、周囲にいた者たちが吹き飛ばされる。
「次は貴様たちだ! 人間どもッ!」
そしてバハムートは、上空にいるリョウタとレヴィにも光を放つ。
「危ないレヴィッ!」
「バカッ! やめろリョウタッ!」
リョウタはすでにボロボロだというのに、レヴィのことを庇った。
だが、そのとき――。
リョウタの全身から凄まじいまでの魔力が放出され、それが光の波動を弾き返していく。
そして、その魔力はそのままレヴィの槍へと集められていく。
「こ、これがリョウタが持つ魔力なのか……? これほどの魔力……初めて見るぞ……」
「いいからさっさと決めて来いよ、レヴィッ!」
「ああ、任せろッ!」
「ぐわッ!?」
そして、レヴィはロケットがブースターを切り離すように飛びあがった。
「クソッたれッ! やっぱお前といるとろくなことにならねえなぁぁぁッ!」
叫びながら落ちていくリョウタを見ながら――。
さらに上へと飛んだレヴィは、リョウタの魔力を纏った槍を下へ向け、バハムートを狙って
こんなときだというのに、レヴィは満たされていた。
今までで一番高く空へと飛んで行けたのもあったのだろう。
そして、何よりも皆の力を合わせ、自分が決着をつける役を任されたのだ。
レヴィは、仲間に信頼されていると思うと、喜ばずにはいられなかった。
「これで終わりだ! バハムートォォォッ!」
レヴィがバハムートの額に槍を突き落とすと、凄まじい魔力がその体に流れ始めた。
バハムートは悲鳴をあげながら、その体内に流れた魔力が内側から
「バカなッ!? 我がたかが人間ごときに敗れるのかッ!」
そう叫んだバハムートは、全身から溢れ出す魔力の輝きに飲み込まれて
危機は去り、すっかり安心したレヴィだったが――。
「やったぞ! ……って、うわぁぁぁッ!?」
「ゲフッ!」
そのまま落ちていき、やはり着地できず、すでに倒れていたリョウタの上に落ちた。
リムやラヴィ。
ルバートもイルソーレとラルーナと一緒に、そんな二人の元へと笑いながら向かって行く。
「やれやれ、締まらないっすね」
「でもいいじゃないか。二人とも
ラヴィがため息をつくと、ルバートはまあまあと声をかけた。
実際に気を失い、もうボロボロのレヴィだったが、ルバートの言う通りその顔は満面の笑みである。
反対にリョウタのほうは険しい顔で、まるで悪夢でも見てうなされているかのようだが――。
「リョウタ……やったぞ……私は……」
「ああ……レヴィ……お前は……いつまで……俺を苦しめるんだ……」
ムニャムニャと嬉しそうに眠っているレヴィと、呻くリョウタを見て――。
その場にいた全員が大声で笑い合った。
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