第百六十五話 彼女の元へ

緑におおくされた深い森を抜け――。


ソニックは女性二人と共に、ライト王国へと辿たどり着いていた。


以前に見たライト王国とは思えぬ惨状さんじょう


そのひどいあり様に、ソニックは思わず息をむ。


すでに半壊はんかいしている王国の周囲しゅういには、愚者ぐしゃの大地からやって来た大軍がじんいている。


そこら中に見える灰色はいいろ甲冑かっちゅうに見つからないように、ソニックたちはある場所に向かう。


「ここを抜ければ選択せんたくほこらというのに着くのですね」


女性のうちの一人――体の小さな少女リム·チャイグリッシュがそう訊ねた。


彼女は武道家ぶどうかの里ストロンゲスト·ロードの里長の娘であり、さらに大賢者のように様々さまざまな魔法を使いこなす武道家でもある(魔力のほうは一日三回までしか使用できないという低さだが)。


彼女はおのれこぶしを強くにぎりながら、けわしい顔をしてソニックの後に続いている。


「ああ。うちは行ったことないっすけど。裏山にあるとか聞いているっすよ」


リムの質問に彼女の後ろを歩いていた女性――ラヴィ·コルダストが答えた。


メイド服を着た彼女の背には、剣、やりおのなど実に様々な武器が見える。


ただでさえ道が悪いところ歩いているというのに、それだけの武器を背負せおいながらも、彼女は全くになっていないようだった。


「それよりもリム。エン殿どのだまってきてよかったんすか?」


答えたラヴィがリムに訊ねる。


エンとは、リムの父親であるストロンゲスト·ロードの里長だ。


訊ねられたリムは、後ろを振り返って返事をする。


「そういうラヴィ姉さまこそ、ライト王さまやルバードさまに何も言わずに来ているのです」


ラヴィは、少し不機嫌ふきげんそうにそう返してきたリムに、乾いた笑みを見せた。


ライト王はラヴィが使えるの主人であり、ルバードは彼女の元婚約者だ。


リムとラヴィは、それぞれ大事な人に何も伝えることなく、この危険きけん敵陣てきじんへと来ていた。


その理由は――。


「二人とも……近いぞ。ビクニが近くにいるのを感じる」


今ソニックが言った名――。


ビクニをすくうためだった。


完全に吸血鬼化きゅうけつきかしたビクニの身体は、その流れる血の影響えいきょうでソニックとつながっているいるようで、彼には彼女の居場所を感じることができる。


そんなことが可能かのうなのは、ビクニがソニックによって眷属けんぞくにした吸血鬼だったからだ。


リムとラヴィの二人は、聖騎士せいきしリンリに連れ去られたビクニを助けに行くというソニックについて行き、敵陣まで来たのだ。


彼女たちが大事な人に黙って来たのは、自分の我がままに付き合わすことをいやがったためだった。


ラヴィはビクニにことを妹のように思い――。


リムは自分の夢――いつか大魔導士だいまどうしなるという夢を思い出させてくれた友人だと思っている。


そんなビクニが敵に連れ去られたと聞いた二人は、いてもたってもいられなかった。


だが、彼女たちに負けないくらいビクニを思っているのがソニックだ。


彼は目の前でビクニを連れて行かれたのだ。


自分の無力むりょくさをあじわいながらも、かならず彼女を取り返すと誰よりも意気込いきごんでいる。


「着いたな。ここだ……ここが選択の祠……」


敵の目をくぐり、目的地へとたどり着く。


この洞窟どうくつおくにビクニがいる。


三人ははやる気持ち抑えられず、駆け足で中へ入ろうとすると――。


「うわぁッ!? な、なんなのです!?」


――リム。


「ちッ、どうやらお見通しだったみてぇだな」


――ソニック。


「まあ、当然っすよね。もしうちがぎゃくの立場だったら、同じことを考えるっす」


――ラヴィ。


三人は周りにかくれていた灰色の兵たちに取りかこまれてしまった。


おそらく相手――女神の軍は、彼らがビクニを助けに来ることがわかっていたのだろう。


ラヴィは、そんなことは当たり前だった、と思いながら不敵ふてきに笑う。


「だけど、こんなことで止まるようなうちらじゃないっすよ」


そして彼女は、背負っていた剣と斧をそれぞれ両手に持ち、ソニックとリムをかばうように兵たちの前に立った。

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