番外編 異世界の先輩~その③
大空の中でそれを
「ぐわッ!」
だが、そんな気持ちも
「あらら、
地面に
半開きの目で見ているこのメイドは、私の姉であるラビィ·コルダスト。
ずっと
今は
「レヴィ……ホントにその技でカトプレパスを
ラヴィ
そう思うのも
何故なら私は
かつて竜騎士の跳躍力は空飛ぶモンスターを
という
それが竜騎士の技であるジャンプだ。
だが、どうやら私には
すでに
それでも、目の前で
だから、こうやって空から
「ちょっと早いっすけど、城へ
ラヴィ姉さんは倒れている私を
私はかなり
「なッ!? や、やめてくれ姉さん! こんな
「何を言っているんすか。姉が動けない
「私はもう子供じゃないなんだ! こんな姿をあいつに見られたら
私は体が動かなかったので
その
「ラヴィ姉さまにレヴィ。こんにちはなのですよ」
フードの付いたノースリーブの服を着た少女。
私がこのライト王国へ来るきっかけをくれたリム·チャイグリッシュだ。
こんな小さくて
リムは武道家でありながら、その
その
それで、
その
だが、リムは体内にある魔力が
それでは、いくら魔力コントロールが上手くできても大魔導士にはなれない。
なのだが、リムは夢を諦めずに、ライト王国に一から魔法の
そういう身の上もあって、私と彼女はすぐに打ち解けた。
いくら
私とリムは
というわけで、私たちはまだ出会って日は
「う~すリム。
「うぅ……午前の
無理もない。
いくら
私もその気持ちはよくわかる。
ラヴィ姉さんは、そんな彼女の
「
そして、そう言葉を続けた。
ラヴィ姉さんの言葉を聞くと、なんだか私まで優しく撫でられたみたいに感じた。
「リムもよかったら一緒にお昼をどうすっか?」
「はい! なのですよ」
それから私たちはラヴィ姉さんの部屋で
ラビィ姉さんが作ってくれた
このライト王国では、肉や魚は
だが、どれも
「そういえばリム。リョウタを知らないか?」
私はパンをかじりながらリムに
リョウタとは、私が自身の
両親の死後、姉とも離れ離れになり、生きていくために
彼がいたから私はまた姉に会えたし、リムにも出会えた。
リョウタは私にとって、大空を飛んだときに見える
それに、ラヴィ姉さん以外で初めて私の夢を応援してくれた人であり、ともかく大事な人……って!? わ、私は何を考えているんだ!?
私は騎士だぞ!?
リョウタはただ私が槍を捧げた相手というだけだ!
「なんで顔が赤いかは訊かないですが。あの人なら馬小屋で
リムはどうでもよさそうな
それを聞いた私は
そのときのラヴィ姉さんの目は、普段と同じ半開きの
私が手を離すように言うと、姉さんは大きくため息をついた。
「レヴィ……姉からの
「リムもそう思うのですよ」
「今まであの男と何があったのかは聞いたっすけど。お前は
ラヴィ姉さんはそれから
あの男――リョウタはお前に
家が亡くなったとはいえお前は貴族の出であり、
あんなどこの馬の
この国――ライト王国の王であるウイリアム=ライト28世が国に入れるのを
そう、冷たく言い放った。
「そ、そんな言い方……いくらラヴィ姉さんでも怒るぞ」
私はラヴィ姉さんの言葉を聞いて、手を振りほどき、食って掛かった。
リョウタの人柄の
それが伝わってなかったと思うと……。
いや、私はリョウタがそんな悪い言い方をされて怒りが
だが、それでもラヴィ姉さんは落ち着いた様子で言葉を続ける。
「レヴィのその
「リムも
そして、またリムがラヴィ姉さんに同意した。
何故だ……。
何故姉さんはわかってくれないんだ……。
リムだって、この国へ来る前にリョウタの
カトプレパスの力、相手を
なのに何故……。
「ラヴィ姉さんもリムも何故わからないんだ!? リョウタがいなかったら私は竜騎士をやめていた! あいつは私にとって
私は
そして、
その
「これはこれはレヴィさん。そんなに
白いローブを着た若い男に声をかけられた。
笑みを作りながら、私のほうへと向かってくる。
この男の名は大賢者メルヘン·グース。
しばらく前に、このライト王国に
私はメルヘンの顔を
この人は、こんなしまりのない顔をしていても世界を平和にした英雄なのだ。
リョウタは見た目はあれだけど……と、思っていたが、このメルヘンも負けずに怪しいし、胡散臭い。
だから、人は見た目では
それでも、ラヴィ姉さんやリムに理解してもらおうなんて思う必要はない。
リョウタの良いところは私だけが知っていればそれでいい。
……って、わ、私はまたふしだらなことをッ!?
いかん!? いかんぞ!
リョウタはそういう
「そんな顔を赤くしてどうしたのかな? 」
私はこの大賢者を見て、弱くなっていた心が強くなっていくのを感じた。
こんな見た目が“あれ”な男でも英雄なのだ。
リョウタだって……。
「いや、その……大賢者メルヘン殿……ありがとうございます」
「うん? なんか
死者の祝祭とは、このライト王国で行われている
毎年死者の
私はメルヘンの言葉に頭を下げ、その場を後にした。
午後は祝祭かぁ……。
なら、私もリョウタと二人で……。
って、あぁ~! 私はまたふしだらことをッ!?
私が一人その場で
「なにしてんだ、レヴィ?」
その体からは
「リョ、リョウタッ!」
そう――。
この冴えない、くたびれた男が私の槍を捧げた人物――リョウタだ。
「お前、馬小屋に
私は突然
それは、リョウタと一緒に祭りを見て回りたいなどと恥ずかしいことを考えていたからだ。
だが、そんな私を見たリョウタは、特に気にした様子もなく返事をしてくる。
「仕事ならさっき
私たちがこのライト王国へ
リムはその名が
私はというと、この国のメイドだったラヴィ姉さんからの
だが、リョウタだけは
それでもライト王は優しく、
私とリョウタは、あるギルドでのいざこざもあってお
しかし、ライト王はそれを知ったうえで私たちを受け入れてくれていた。
さすがは
「はぁ~、女神からはいっさい
ため
リョウタはたまに私にはわからない言葉を使う。
おそらくだが、リョウタはよく女神のことをずいぶんと
そして女神のことは、私とリョウタだけの
……秘密とはいっても、別にやましいことなんかない。
だが、リョウタと私……二人だけの秘密なんて……。
そんなことを思うだけで私は……私はッ!
「おい、今飛ぼうとしたろ」
「していないッ!」
リョウタが突然振り返り、私へと言った。
私は
止める理由は、私が着地できずにそのまま動けなくなってしまうからだ。
うぅ……自分のこの
飛ぶことは大好きなのだが、この止められぬ
それからスタスタと歩き始めたリョウタの後ろを、私は何も言わずについて行った。
そして、リョウタは目的地に着くと、井戸の水を
「リョウタ、この後は何かあるのか?」
私は
もしもう仕事がないのなら、死者の祝祭――祭りへ行きたかったからだ。
だが、リョウタは
「実はまだ仕事があるんだよ。レヴィはいいよな。何もしなくてよくて」
私はその言葉を聞いて
こちらとて
王国の
それに私は、リョウタが酷いことを言われているのを
「……そうか。ならいい」
私は少し
「おい、なにを
「怒ってないッ!」
自分でもわかりやすく怒っているのが
今さら引けず、私は
それから私は一人で街へと向かった。
街では
何をそんなに
いくら祭りとはいえ、死者の魂の安息を祝う行事だろうが。
「ねえ、お
目の前で母親に手を引かれていた少女が、突然そう言った。
母親はそれを聞いて、会いに来てくれるかもね、と優しく言葉を返していた。
私はそれを聞いて、自分が思ったことを恥じた。
この少女はきっと父親を亡くしている。
だから、毎年この死者の祝祭で父親に会えるかもしれないと、楽しみにしているのだ。
この少女だけではない。
この国の住民たちは、この祭りで亡くなった人への思いや言葉を
なのに私はなんということ……。
私はリョウタとギクシャクしたのもあって、
心に
そんな自分が情けなくなった。
私が
「元気出して、騎士のお姉ちゃん。お姉ちゃんも今日は大事の人と会えるよ」
少女は何か
そこへ、ラヴィ姉さんとリムがやって来る。
二人が言うに、ライト王から死者たちへ言葉を
「ラヴィ姉さん、仕事じゃなかったのか? それにリムにも午後の授業が」
私がそう訊き返すと、ラヴィ姉さんが
どうやらライト王が、午後は皆手を止めて、死者たちが
「そうか……。それだったらリョウタも……」
「うん? 何か言ったすっかレヴィ?」
「いや、なんでもない……」
私はこんなことならリョウタと一緒にいればよかったと思った。
そうすれば、一緒に祭りを楽しめたかもしれない。
だが、
リョウタの言い方も酷かった――正直苛立った。
だが、一緒に祭りを楽しみたかったのが私の
「ほらレヴィ、早く行きましょうなのですよ」
楽しそうに
そして彼女が私の手を引き、私たちはラヴィ姉さんの
広場には、
しばらくすると、その舞台にライト王が現れた。
「よく集まってくれた、
ライト王が笑顔でそう言うと、住民たちから
まるでドラゴンを
何故ならば、これほど民に
ライト王に
多くの王が自分中心で物事を考えるというのに(だがそれは、けして恥ずかしいことではない)、ライト王はまず民であり人なのだ。
あの人が王でいる
自分以外の者を守るために王でいるのだ。
「それでは、これから死者の祝祭の儀式を始める。大賢者メルヘン。さあ上がって来てくれ」
そして、ライト王の呼びかけにより、本物の英雄メルヘン·グースが
住民たちもさらに声援を送り始めている。
だが、リムだけは
「どうしたんだリム? そんな顔して?」
私が気になって訊ねると、リムは周りには聞こえないように
リムは武道家の里での
それで、どうもメルヘンからは
「なのですが。あの人が聖騎士の少女と共に世界を平和にしてくれたのは
そういうリムではあったが、やはりメルヘンが住民たちに笑顔を向けると、何か
そういえばリムは、リョウタのことも
私が思わずそのことを訊ねると、リムはクスクスと笑い始めた。
それは、まるで突然
「リョウタに悪い気は感じませんよ。それにリムはあの人を嫌ってなんかいません。ただ、情けない人だなぁ~と思うだけなのです」
それを聞いて私は少し
リムはただ、リョウタの
そうだよな。
リョウタが
私は人を見る目には
これだけは
「それでは皆さん。これからあの
メルヘンは舞台に上がると、意味がわからないことを話し始めた。
それは私だけではないようで、ラヴィ姉さんもリムも、住民たちも、そして、舞台の上にいるライト王へ兵士たちも理解できていないようだった。
「大賢者メルヘンよ。それは
ライト王がメルヘンに訊ねると、当然舞台ごと
そして、漂う
「さあ、今日は死者の祝祭。思う
メルヘンがそういうと煙が
それは人間のように動く
かなりの数のスケルトンはそれぞれ剣と大きな
「レヴィ! リム! うちはライト王様を守る。広場のほうは
「はいなのですッ!」
「
私とリムが返事をすると、ラヴィ姉さんは目の前にいたスケルトンの
そしてスケルトンの集団の中、
「あわわ~、ラヴィ姉さまってお城のメイドじゃなかったのですかッ!?」
リムがラヴィ姉さんのあまりの強さに
「ラヴィ姉さんは
「ただ者ではないと思ってはいましたが、まさかなのですよ」
「そんなことよりも住民たちを
そして、私とリムはスケルトンの大軍に向かっていった。
リムの言葉で思い出したが、このライト王国には周辺
って、そんなことを考えるよりも、今は早く住民たちを
私は住民へと襲い掛かるスケルトンに槍を突き刺す。
だが、相手は集団――それもかなりの数だ。
次から次へと現れ、いくら倒しても切りがなかった。
「レヴィ、住民のみなさんはだいたい逃がしましたよ」
私が食い止めている
「よしリム。あとはこいつらを
「今日はもう魔法は使えません。ですが、それでもリムはまだまだ戦えます」
「心強いな。よし、我々もラヴィ姉さんに続くぞ」
私とリムは、スケルトンの集団を
敵の数は多く、打ち倒してもすぐに次の攻撃が襲ってきたが、私の横にはリムがいる。
私を襲う奴はリムが倒し、リムを
こんな状況だというのに
それは
これほどまで
「あらかた片付いたな。よし、あとは兵士たちに任せて、次はライト王を助けるんだ」
「はいなのです。今の戦いで理解したのですよ。リムとレヴィのコンビに勝てる者などいません。魔王でも大魔王でも連れて来いなのですッ!」
リムも私と同じことを感じていたようだ。
なんの打ち合わせも
先ほどの
またもや不謹慎
そして、私たちが舞台に上がると、そこでは――。
「これはこれはレヴィさんにリムさん。
しまりのない顔で笑うメルヘンと、
ラヴィ姉さんは、倒れているライト王を庇うようにメルヘンと向かい合っていたが、その体はすでに傷だらけで
私は
すると、メルヘンの体が――。
「
そう言い笑うと、ラヴィ姉さんが叫んだ。
「気を付けるっすよレヴィ、リム! メルヘンは、アンデッド――リッチっす!」
リッチはアンデッドモンスターの
ローブを身にまとった骸骨で、
だが、メルヘンは大賢者で、しかも世界を平和にした英雄のはず。
一体何がどうなってアンデッドになったんだ?
「アンデッドなら、リムの技が
リムはそういうと、
その掌には光の
「はぁぁぁ……オーラフィストッ!」
凄まじい光の波動がメルヘンを
だが、メルヘンは少々ダメージを負ったものの、まだ動いている。
「
そういったメルヘンの顔が
いや、顔の皮だけでない。
手足も含め、全身の皮が無くなり、スケルトンと同じような骸骨の姿へと変わった。
あの人間だったときのしまりのない顔は、カモフラージュだったのか。
「だが、それだけ私に勝てるものか。
骸骨の姿となったメルヘンは、両手から激しく
リムはもう一度オーラフィストを撃とうと構えたが――。
「
激しい炎が二つの
体から煙をあげながら、
「リム! 大丈夫かッ!?」
まだ死んではいない。
だが、全身に負った
ヘルフレイムとは火の魔法。
魔力を手に集め、それを火に変えて相手へと放つ魔法だ。
だが、火を両手から
両手から放つ炎の
「レヴィッ! 気を抜くなッ! 次が来るっすよッ!」
ラヴィ姉さんが叫んだ。
だが、もう時すでに遅く、二つの
ここで
だが、私はこの炎を受け切ることができるのか?
たとえ
そう考えた私だったが、
ここで避ければリムが死ぬ。
その理由だけで私はこの炎のドラゴンを受け止めるしかない。
槍を立て、身構える私。
だが、その前に突然
「下がれレヴィッ!」
「ラヴィ姉さんッ!?」
飛び込んできたラヴィ姉さんは、折れた剣を炎のドラゴンへと突き刺し、
激しい炎を全身に浴びながらも、姉さんはなんとか相殺に
「そんな傷だらけで、どうして私を庇ったんだ!?」
ラヴィ姉さんは私に心配をかけないためか、
もはや立って
「やれやれ、相変わらず考え無しっすね。ここでお前がやられたら誰があいつを倒すんすか?」
その言葉を聞いた私は、ラヴィ姉さんを下がらせ、メルヘンの前へと出る。
「そう……だな。すまない姉さん。あとは私が片付ける」
メルヘンに
そんなリムはもう
聖属性も火属性も持たない私には、不死者のアンデッドを仕留めることはできず、戦えば確実に殺されるだろう。
だが、それでも私は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
不死者に対する
「おやおや。なんだか
メルヘンはそんな私の表情を見て、カタカタと
笑う骸骨など
しかし、私は
「私には仲間がいる……」
「仲間ぁ? くだらないことを言いますね。事実その仲間はもういませんよ。戦えるのはもうあなた一人じゃないですか」
「お前は知らないんだ。いや……誰も知らない……私だけしか知らないんだ……。ラヴィ姉さんが私にしてくれたことで、それを思い出せた……」
「何を言っているのですか? 恐怖で頭がおかしくなったのですか?
メルヘンがそう言った瞬間――。
一匹の馬がもの凄い速度で私とメンヘルの前に現れた。
そして、その背に乗っていた人物が振り落とされ、私たちの目の前に
「お前は……?」
メルヘンは
その声からして驚きを隠せないようだった。
だが、私は驚かない。
何故なら、この人物がここへ来ることをわかっていたからだ。
「あぁぁぁッ! なんでこういつもいつもこんな強そうな奴が現れるんだよッ!?」
そう――。
リョウタ――。
私が槍を捧げた男――。
リョウタはいつだって私の
「やはり来てくれたか、リョウタ!」
それでも私はリョウタが来てくれたことが嬉し過ぎて、ついはしゃいだ声を出してしまう。
「実は大賢者メルヘンは、アンデッド――リッチだった。こいつには打撃も効かないうえ、さらに強力な造形魔法を使うぞ」
「そういうお前はなんでそんな嬉しそうなんだよッ!?」
「お前がここにいるからだッ!」
自分でも凄いことを言ってしまったと思ったが、恥ずかしがることなど
だって、私はリョウタが来てくれたことを正直に言葉にしただけなのだから。
「お、お前はッ!? こ、こんなときにそういうことを言うかッ!?」
顔を
慌てているが、いつものことで私は安心する。
そして、きっといつものように何か
「くだらないものを見せられました。そんな
メルヘンは再びカタカタと歯を鳴らすと、炎の造形魔法を
私はリョウタに
そして、私はラヴィ姉さんを担いで、リムを
「姉さん、ライト王は?」
「すでに避難してもらっているっすよ。それにしても、まさかこいつが来るなんて……」
ラヴィ姉さんは、リョウタが現れたことに驚いているようだった。
無理もない。
あれだけこき下ろした男だ。
私はそのことで何か言ってやりたくなったが、今はそんなことをしている
「リョウタ、何か考えているんだろう?」
「お前……相変わらず俺頼りだな……」
「当然だ。私はお前がいないと生きていく自信がない!」
「それが
そうは言いつつも、リョウタはちゃんと
街にアンデッドの集団が現れたと聞いたリョウタは、すぐに城にあった
やはりリョウタは、私のことを……。
あぁ……そこまで思われていたなんて恥ずかし過ぎるぞ!
そう思うと、
この場ですぐにでも空へと飛びあがりたい。
「おい、今飛ぼうとしたろ」
「していないッ!」
身を
ともかく、リョウタは考えた作戦を話し始めた。
アンデッドは聖水を浴びると、その身が崩れる。
たとえ、それがリッチのような
「なら、メルヘンの奴にここにある聖水をすべて浴びせるってことか?」
「いや
リョウタが言うに――。
全身と
「あいつはアンデッドのボスなんだろ? だったら聖水を浴びせるだけじゃ倒せない
「なるほど。大ダメージを喰らわせたうえで聖水も浴びせるということか。よし、今すぐ飛ぶぞ、私は!」
「待てって! お前のジャンプは狙いが付けられないうえに着地もできないだろうが。だからチャンスは一度しかないことを理解しておけよ」
そして、リョウタは落ちていたスケルトンの大きな盾を拾って立ち上がった。
「毎度のことだが、俺が
そういうと、リョウタは盾を突き出してメルヘンへと向かって行った。
リョウタは弱い。
私が知っている
だが、自分の弱さを受け入れ、そして勝つために
それに、竜騎士の才能はないと誰もが言ったこの私の技を、自分の
リョウタ……。
お前は出会ったときからそうだった。
私はリョウタが持ってきていた大量の聖水を、全身と武器にあるだけかけた。
そして、
空へと飛びあがる。
青い空、白い
そして
風を感じながら、
下を見ると、メルヘンがリョウタに向かって炎の属性魔法を唱えていた。
だが、それでもリョウタはうまく盾で自身を守りながら、メルヘンをその場から動けないようにしていた。
「どうした大賢者メルヘンッ! こんなもんじゃ俺は倒せないぞ!
これは誰が見ても
それを自分でもわかっていてやるリョウタ。
さすがは自分の弱さを受け入れているだけのことはある。
「雑魚がちょこまかと。ならば、その盾ごと
「いや、灰になるのはお前だよ、メルヘン」
「なにをバカなことを」
「いっけぇーレヴィッ!」
そのリョウタの声と共に、私の槍がメルヘンの体を貫いた。
聖水をたっぷりかけてあった効果か、貫かれたメルヘンの体は灰へと変わっていく。
「バ、バカな!? こんな
「残念なのはお前だメルヘン。そのまま土に帰るがいい」
メルヘンの
やった、やったぞ。
私は……私たちはこの国をアンデッドから
安心して気が抜けた私は、その場にへたり込んでしまった。
騎士でありながら情けないが、ずっと続いた
「おーいレヴィ。大丈夫か?」
そこへリョウタが現れ、私に手を伸ばした。
リョウタの体はあちこち焼け焦げていて、盾のおかげでまともには炎を喰らわなかったにしても、酷いケガに見えた。
「お前こそ大丈夫なのか? 私には酷いケガに見える……」
「なに言ってんだよ。こんなもん、お前との
「そうだったな……」
そして、私はリョウタの手を握り、その肩を借りた。
体はクタクタだったが、リョウタにこうやって寄りかかれているのは嬉しい。
「それにしても
「なッ!? なにを言うんだリョウタッ! ラヴィ姉さんは私なんか軽々と持ち上げていたぞ! 私が重いのではない。お前の修行が足りないんだッ!」
ちょっと
そうだった……。
私とリョウタはそんな関係じゃなかったんだよな……。
そのとき――。
地面から突然灰が舞い上がり、それが次第に骸骨の形へとなった。
「よ、よくもやったな……」
メルヘンは死んでいなかった。
だが、私のジャンプで相当なダメージを受けたのだろう。
今にも崩れそうなその体には、ヒビやかけた箇所が至るところに見える。
聖水をあと一振りでも浴びせれば、止めがさせそうだった。
そんな体で何ができるのかと思っていると、メルヘンは近くにいたラヴィ姉さんに襲い掛かろうとしていた。
「せめて
「やめろッ!」
ラヴィ姉さんはもう動けそうになかった。
だが、姉さんは私を見て笑みを浮かべた。
「レヴィ、うちが間違っていたようっす。そいつはお前の言う通りの男だったっすよ」
いくら国を救えてもこんな
せっかくまたラヴィ姉さんに会えたのに……。
今度は
「姉さん逃げてくれッ!」
メルヘンがラヴィ姉さんに手をかけようとしたそのとき――。
飛んできた
よく見ると、その棒のようなものは
「私の大事な人に手を出すな」
「な、何者だッ!?」
そして、そのバラバラになった体へリョウタが持っていた聖水を浴びせると、メルヘンは
今度こそ奴を
「やっと君のために剣が振るえた……」
私はこの突然助けに入った男のことを知っていた。
そうだ。
金色の長髪を後ろに束ね、その顔は誰が見ても
愚者の大陸を
ラヴィ姉さんの
「こ、これは夢っすか……?」
ラヴィ姉さんは、ルバートの姿を見ながら
私は姉さんが泣いたところを見たのは、これが
父上と母上が死んだときでさえ泣かなかったというに。
ルバートの登場は、それだけのラヴィ姉さんの心を揺さぶったのだろう。
「いや、夢ではない。私は本物だよ、ラヴィ」
「……うちはもう
「私ももう貴族ではない。ただの
そういうとルバートは、泣いているラヴィ姉さんを
この国でラヴィ姉さんと会えて――。
そして、まさかルバートまで現れるなんて――。
二人のこれまでのことを知っているのもあって、なんだか私まで泣きそうだ。
「なんか
リョウタは顔を引き
何故ならリョウタもルバートも、大事な人ところへ必ず駆け付けるからだ。
「よかった……本当によかった……」
「って、うわぁッ!? おい! おいッ! レヴィッ! しっかりしろよッ!」
心配してくれている声を聞きながら、私もラヴィ姉さんのように男の体――リョウタの体に寄りかかった。
ルバートがここへいるのなら、きっとイルソーレとラルーナもいるだろう。
目が
きっと……いや絶対に仲良くなるはずだ。
今から楽しみだな……。
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