第百二十四話 勝てる者はいた

「あのバカッ!? それにググもかよッ!?」


俺は飛び出してきたビクニとググを見て顔をゆがめた。


何故ならあいつらが出て来たところで、セイレーンにころされるだけだからだ。


最初さいしょは目をうたがったが、ビクニがちゅういていられるのは、おそらくググの魔力まりょくによるものだろう。


だが、ググにはもうそこまで魔力はのこっていないはずだ。


それは、昨夜さくやに俺が散々さんざん無理むりさせたからだ。


それに、ビクニのやつは俺にわれたばかりで立っているのもつらいはずなのに……どうして飛び出してくるんだよ。


ビクニもググもそんな状態じょうたいで、セイレーン相手に勝てるとでも思っているのか?


そこまでして他人たにんを助けてどうする?


自分が死んじまったらおしまいだろ?


いいからててくれ……。


たのむからそんな無茶むちゃをしないでくれよ……。


「あなた、どうやらさきに死にたいみたいね」


ビクニにりつけられたところをで、それから手についた自分の血をめるセイレーン。


まずい、ビクニとググが殺されてしまう。


「お前が何をしたって、私は……私たちは負けない」


セイレーンににらまれたビクニは、剣をかまえながらもフラフラとしていた。


だが、そんなビクニから出る言葉は力強ちからづよかった。


「ルバートはこころ誘惑ゆうわくに勝ったんだ。だから、これからお前がまた何かしたって私たちが一緒いっしょたたかうッ!」


「あなたごときに一体いったい何ができるの? たしかにその魔剣まけん厄介やっかいそうだけど。私の攻撃こうげきを受ける前からすでにボロボロじゃない? それはあなたのかたっている幻獣げんじゅうも同じよ」


「それでも……私たちは負けない……絶対ぜったいにッ!」


ビクニが自分をふるい立たせるように返事をすると、ググも大きくいた。


こりゃ魔力まりょく切れなんて言っている場合ばあいじゃないな……。


あいつらだって頑張がんばってんだ。


俺だって一回分の魔力まりょくでもしぼり出さねえと、後であの暗黒あんこく女にグチグチと言われちまう。


両目りょうめつぶり、意識いしき全身ぜんしん集中しゅうちゅうさせる。


そして、なけなしの魔力を行きわたらせる。


「なら見せてごらんなさいッ!」


頭上ずじょうでセイレーンのさけぶ声が聞こえた。


たのむ、あと一回でいいんだ。


ビクニとググを……殺されたくねえ。


「ヘルフレイムッ!」


なんとか出せた火の魔法まほうをセイレーンへと飛ばした。


油断ゆだんしていたセイレーンに、そのほのお直撃ちょくげき


「バカなッ!? なんで魔法が!? もう魔力はそこいていたのにッ!?」


その業火ごうかはセイレーンの体をつつみ、そのままえながら地上ちじょうへと落ちていった。


「ソニックッ!」


そして、空中くうちゅうにいたビクニとググが、俺のところへとりてきた。


ビクニは泣きながら俺を心配しんぱいしているようだったが、はっきりとした言葉にできていないので何を言っているかわからない。


ググもうるさいくらい鳴きわめいていて、正直しょうじきもうこのままねむってしまいたくなった。


「よ、かったぁ……ホントにぃ……よかったぁよぉ……」


「うるせえよ。こっちはもう限界げんかいの限界なんだ。たのむからしずかにしてくれ」


だが、俺がいくらそう言っても、ビクニもググも静かになどならなかった。


なんだよ……。


たたかいは終わったのに休ませてくれねえのかよ。


本当にさわがしい奴らだな。


俺がそんなことを考えながら、あきれて笑っていると――。


「よくもやってくれたわねッ!」


黒焦くろこげになってたおれていたセイレーンが立ち上がった。


その顔にはもはや先ほどまでの美貌びぼうは残っておらず、まるでいかれる鬼神きしんのような形相ぎょうそうだった。


まさかあれで仕留しとめられなかったのか。


俺はすぐにビクニとググをうしろへ下がらせた。


だが、それでどうする?


もう魔力は残ってねぇ。


しぼりカスすら出ねえぞ。


セイレーンのほうも満身創痍まんしんそういのようだが、その怒りの形相を見るに俺たちよりはまだ元気げんきそうだ。


どうする?


いちばちか奴に張り付いて自爆じばくするか?


ちくしょう、今が夜だったなら素手すででも十分じゅうぶん戦えたんだが。


「ググッ! なんとかまたビクニを宙に飛ばして逃げろッ!」


「何を言ってるのッ! 私が戦うからソニックは下がってよッ!」


「お前が戦えるかよッ! いいから早くググと逃げろッ!」


「戦えるもんッ! いいからソニックが逃げてよッ!」


こんな絶体絶命ぜったいぜつめい状況じょうきょうで、口喧嘩くちげんかを始めた俺とビクニ。


ググはそんな俺たちを見てうれしそうに鳴いていた。


「ちょっと私のことを無視むししてイチャイチャしないでくれる?」


セイレーンがつばさを動かし、強風きょうふうを俺たちにおくってきた。


その顔は、さらに怒りにあふれたものとなっていた。


「あなたたち、私にまだ勝てるつもりなの? さっきも言ったでしょ? もうこの場で私に勝てる者はいないってねッ!」


「……ここにいるぞ」


セイレーンが大声をあげたとき――。


奴のむね棒状ぼうじょうのものでつらぬかれた。


その貫かれた穴からは血が噴水ふんすいのようにき出て、セイレーンの周りをめていく。


「う、うそ……なんで……あなたが動けるの……?」


「さらばだ……私の心のよわさよ」


「ギャァァァッ!」


悲鳴をあげたセイレーンは、顔から胸、それからはらあなを開けられて絶命ぜつめいした。


そして、そのセイレーンの体からかれた棒状のもの――金属製きんぞくのフルートが見える。


そう――。


セイレーンを仕留しとめたの正気しょうきを取りもどしたルバートだった。

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