第百九話 思いを音楽に込めて

今夜こんやは~ほしが~キレイでぇ~」


パーティーが始まってから――。


みな料理りょうりたいらげ、楽しそうに談笑だんしょうしていると、突然ラルーナが歌い始めた。


世辞せじにも上手うまいとはいえなかったが、それを聴いた亜人あじんたちは彼女に声援せいえんおくった。


「いまでもおぼえて~いるよ~君に~こいをした日のこと~」


それに負けじとトロイアも、ラルーナとかたを組んで歌い始める。


二人ともかなりさけを飲んだのか、顔がになっていた。


トロイアなんて上着以外いがいいでしまっていて、なんともあられもない姿すがただ。


酒瓶さかびんを持って歌う前にふくを着ろよと言ってやりたかったが、俺以外の誰もトロイアの格好かっこうを気にしていなかった。


トロイアは飲むと脱ぐタイプなのか?


まあ、どうでもいいか……。


「君はまだけんにぎっているのかな~会えなくなったあいだに僕は大人になった~それでも僕は~世界で一番大事な君のために歌うよ~」


そして、店内にいる全員が一緒いっしょになって大合唱だいがっしょう


パーティーは大り上がりをむかえていた。


「いい歌だね」


ビクニが楽しそうに歌う亜人たちを見て、微笑ほほえみながら言った。


ググも同じ意見いけんのようでうれしそうに大きくいている。


「おっ? 気に入ったかビクニ。この歌はな。ルバートの兄貴あにきが作ったんだぜ」


酒樽さかだるかかえたイルソーレが、それを飲みながら近づいてきた。


こいつもかなり顔が赤い。


あきらかに飲みぎだ。


それからイルソーレは、ご機嫌きげん様子ようすでこの歌のことを俺たちに説明せつめいした。


イルソーレが考えるに、この歌は暴力ぼうりょくメイドことラビィ·コルダストとの出会いから、今のルバートの心境しんきょうかたちにしたものだという。


「そうなんだ……ルバートはずっとラビィねえのことが好きなんだね」


「あぁ。ラビィ姉さんが生きていて、今はライト王国にいるって知ったから……本当はすぐにでも飛び出していきたいだろうな、兄貴は……」


ビクニがそう言うと、イルソーレは少しかなしそうに返事をした。


ルバートはラビィからの手紙を読んだくらいでなみだながすほどだ。


当然今でも好きだろう。


だが、ルバートにはこの国を出れない理由りゆうがあった。


そう――。


このマリン·クルーシブルで人間ぞくと亜人たちがいがみ合っているかぎり、ルバートはけしてラビィに会いに行けないのだ。


ラルーナとトロイアは皆とまだ歌い続けていた。


俺はイルソーレに「長いきょくだな、いつまで続くんだ」とたずねた。


イルソーレがいうに、この『剣を持つ君と星の綺麗きれいな夜』という歌は、第五十一楽章がくしょうまである楽団がくだんでやるような曲だそうだ。


今ラルーナたちが歌えているのは、ルバートが以前にこの店でピアノのがたりをしたときにおぼえたからだという。


なるほど、元々もともとはオーケストラを想定そうていして作った曲だったのか。


ルバートのやつ吟遊騎士ぎんゆうきしとか呼ばれていたし、実際に宮廷詩人きゅうていしじんみたいなものなのだろうが――。


管楽器かんがっきげん楽器すべての譜面ふめんを書けるのは少しおどろいたな。


それにしても、たかが恋の歌なのに第五十一楽章は長すぎるだろう。


まあ、俺が知らないだけで、そういうものなのかもしれないが。


それにしても本当に楽しそうだな、こいつら……。


この光景こうけいを見ていると内戦ないせんなんて本当にあるのかとうたがってしまう。


そんなことを考えていた俺のとなりで、ビクニもググも実に楽しそうにしていた。


「ねえソニック、楽しんでるッ!」


グラスをかかげてさけぶビクニと、それに続いて鳴くググ。


本来ほんらいなら俺はパーティーなんて好きじゃない。


わざわざ大勢おおぜいでワイワイ料理を食べたり酒を飲むなんてのは、馬鹿ばかのやることだと思っている。


だが、たまにはわるくないかな、と思った。


この曲とこの店が出すグレコ·ワインはまあまあイケてるしな。


俺がビクニとググに悪くないと返事をしようしたとき――。


「おいッ! ルバートさんはいるかッ!?」


突然店に入ってきた獣人じゅうじんの男が叫ぶように訊ねてきた。


そのせいで歌がピタリと止まってしまう。


「兄貴ならいねぇが、何かあったのか?」


イルソーレが獣人の男にそう答えると――。


「いま中心街ちゅうしんがいのほうで火の手があがってるんだよッ!」


その言葉で楽しかったパーティーか一気いっきしずまり返ってしまった。

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