番外編 暴力メイド~ラヴィ·コルダスト
メイド服を着た女性が、誰も居ない城内にある教会で祈りを捧げていた。
「神よ。どうか異世界から来た少女二人のことをお願いします」
メイド服の女性は、同じ言葉を何度も呟きながら両手をちっから強く握り祈る。
それから彼女は、両膝をついた状態から、両手と頭を教会に敷いてある絨毯へと擦りつけた。
そして、また同じ言葉を繰り返すのだった。
「毎日大変だな」
メイド服の女性が祈っていると、その後ろから頭には
この国――ライト王国の
ライト王は被っていた王冠を手に持つと、メイド服の女性へと近づいて行く。
王に気がついたメイド服の女性は、すぐに体を起こし、片膝をついて
「よいよい。そんなことよりもラヴィよ。今日も仕事があるのだろう?」
「はい。ライト王様」
ライト王国の
まだ
本当なら他のメイドたちと
それは、彼女がこのライト王国で
かつてラヴィは、王であるウイリアム=ライト28世に、
住む場所とこの国での働き口を与えられた彼女は、その
その剣と身を
ラヴィ――彼女は、元は騎士の
ライト王国からかなり離れた、すでに亡き
両親と妹と彼女の四人家族の長女だった彼女は、女性ながら父の
幼い頃から
そんな彼女も年頃になると、お見合い――色々と貴族の男性との
「うちは自分よりも強い男じゃなければ
それがラヴィが両親に出した結婚相手の
それを聞いた多く貴族が、彼女との
何故ならば、その国でラヴィに勝てる騎士は誰もいなかったからだ。
その後も当然、彼女に勝てる男性などおらず、両親も困り果てていると、ある名高い貴族の男が名乗りを上げた。
ラヴィの住む王都と
それから海の貴族が贈り物を持って、コルダスト家へとやって来る
約一週間の
その数日で海の貴族は、ラヴィの家族との親交を深めていた。
貴族としても名門で、けして恥ずかしくない家系の出。
さらに得意だという楽器の演奏を聴かせてもらい、ラヴィの両親も妹も彼のことを大層気に入っていた。
だが、
「うちを嫁にしたければ、まずは実力を見せてもらおうか」
わざわざ足を運んできた海の国の貴族に――。
ましてやほぼ初対面の男性にいきなり決闘を申し込んだラヴィ。
両親は慌てて止めに入ったが、妹はそんな姉を誇らしく見ていた。
ラヴィの父と母は思った。
ああ、これでまた
この物好きな海の貴族の男性にも逃げられてしまうと。
だが、海の貴族はその決闘を受け入れる。
それを聞いたラヴィは、内心でせせら笑っていた。
この男は知らないのだ。
この世には男より強い女がいるということを。
貴族の女の誰もが、ただお茶を飲んでお
ささっと追い払ってやる。
ラヴィはそう思っていた。
だが、決闘の結果は陽が落ちても決着がつかなかった。
ラヴィは自慢の剣速で海の貴族に斬りかかっても、その攻撃が彼に届くことはなかったのだ。
生まれて初めて自分と同じ強さを持った男と対峙した彼女は、決闘後に貴族の男とどう接していいかわからなかったが――。
「今日のところは帰ろう。次は必ず君を私の妻にするぞ、ラヴィ。そして、この剣は君のために振るう」
そう言い、海の貴族は馬に乗って自分の国へと帰っていった。
自分の未熟さと世界の広さを知ったラヴィ。
その後はさらに
あの男に勝ちたい。
それはラヴィ生まれて初めて、家のことを考えずに自分の意志で剣を振るうきっかけとなったのだが――。
その後、海の貴族とラヴィが再び出会うことはなかった。
何故ならば彼女の住んでいた王都は、貴族同士の権力争いの末に、
ラヴィの両親は魔族に殺され、妹とは
王都が滅亡して、なんとか生き延びたラヴィは、その後、傭兵として食いつなぐこととなる。
だが、彼女のプライドの高さゆえか敵は増え、ある
その戦場で辛くも生き残ったラヴィは、先に話した通り、ライト王によって助けられた。
その後はメイドとして慣れない仕事に
ライト王国は、ラヴィがいた国とは違い、城に住む者から街にいる住民たちすべてが善人だ。
その影響もあってか、戦一つしたことのない平和の国だった。
兵士たちはもちろん万が一に備え、訓練を
その上、他の国から人がやってくれば、両手を上げて大歓迎。
その度に、痛い目に遭っても国の
ラヴィは思った。
こんなお人好しだらけの国で、今までよく滅びなかったものだなと。
そして、彼女は自分の役に立てることはこれだと思い、それ以来、ライト王国に害がありそうな者を
ラヴィが秘密裏に行っていたため、国内ではそれほど有名ではないが、近隣の国や村にはその名が響き渡るようになった。
メイド服を着た
ライト王国に入国し、もしそのメイドに疑われたら理不尽な制裁が待っていると噂が広がり、ラヴィは暴力メイドと呼ばれることになる。
そのため、彼女の活躍もあって、ライト王国には悪さをしに来るような者はいなくなった。
それがラヴィ·コルダストの騎士道。
受けた恩のため――。
剣を捧げたライト王のために、彼女は外敵から人知れずこの国を守っていたのだった。
舞台は城内の教会へと戻る――。
「あの娘たちのことが心配なのわかる。それは
ライト王は、ラヴィのことを自分の娘のように可愛がっていた。
それは彼女が特別というわけでなく、ライト王にとってこの国に住む者すべてが家族だからだ。
自分に子ができなったこともあるのだろう。
愛していた王妃が先に亡くなったのもあるのだろう。
彼にとってこの国は、血を分けた人間同士で作ったも同然なのだった。
それもあり、メイドの仕事を前に毎朝神へ祈りを捧げるラヴィの体を心配した彼は、彼女の前へと現れたのだった。
「ライト王様。うちは大丈夫っすよ。自分は丈夫だけが取り柄の人間っすから」
片膝をついていたラヴィが顔をあげてそう答えた。
彼女のその顔は満面の笑みだ。
だが、ライト王はラヴィとは反対に悲しい顔をしている。
「それならばわしも祈ることにしよう」
「そ、そんな!? 王自らそんなことをしなくても……」
「よいのだ。大賢者の話を聞いて、彼女たちを召喚するように言いつけたのわしだ。せめて、これくらいはしなければな」
それからライト王も毎朝陽が出る前から祈りを捧げるようになり、それを知った城の大臣や貴族――。
兵士や宮廷魔術師――。
街の住民――老若男女すべての人が毎朝祈るようになり、それがライト王国に暮らす者たちの習慣となっていった。
聖騎士と暗黒騎士へ――。
異世界から我々を助けに現れた少女二人へ――。
ライト王国に住むすべての人間が祈り続けるのだった。
ラヴィは夜になり、星空を見上げながら思う。
……ビクニ。
必ずリンリを連れて無事に戻って……。
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