イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第五話 奇跡の泉

「ちょ、ちょっと!? なに脱（ぬ）いでんの!?」

すでに下着姿のリンリの体を隠そうと私は彼女に飛び掛（か）かった。

そんなリンリは、私のことをポカンした顔で見ている。

「えッ? だって服を脱げって言われたじゃん?」

おいおい、あんたの貞操観念（ていそうかん）はどうなっているんだ……。

こんなさっき出会ったばかりの人たちの言われるがままにして……。

私はこの幼（おさな）なじみの将来（しょうらい）が心配になっていた。

そんな私たちに大賢者（だいけんじゃ）メルヘンが、持っていた荷物（にもつ）から服を出して渡（わた）してくる。

「実はこれに着替（きが）えてほしいんだ」

その服は極薄（ごくうす）の生地（きじ）できたものだった。

その肌触（はだざわ）りからして、かなりの高級品（こうきゅうひん）だということわかる。

でも、なんでこんな透（す）けているものを着なければならないのか……。

言いたくても言えずにいる私のことを察（さっ）したメンヘルが説明（せつめい）をしてくれた。

なんでもこの極薄の服は、奇跡（きせき）の泉（いずみ）に入るために着用（ちょくよう）しなければいけないものなんだそうだ。

「この奇跡の泉は、選（えら）ばれし者が入れば人知（じんち）を超（こ）えた力を授（さず）けてくれるんだよ」

しまりのない顔で言うメンヘル。

私はその顔を見て疑（うたが）いながらも――。

……なるほど。

つまりこの泉に入ることが、チート能力を得（え）るためのイベントなわけだ。

でも……だからって、人前で裸（はだか）になんてなりたくないよ!

「いくら異世界から来た者とはいえ、年頃の娘……人前で着替えるのは恥（は）ずかしかろう。よし、わしらはしばらく出ていることにしよう」

いつまでもマゴマゴしている私を見たライト王が、メンヘルや兵士たちに声をかけてくれた。

このお爺（じい）ちゃんはやっぱり優（やさ）しくて気が利（き）く王様だ。

みんなが出て行く中、やたらとメンヘルが残念（ざんねん）そうにしているのを見て、やっぱりこの大賢者はロリコンなのでは? とさらに疑いが深（ふか）まった。

「よし、ビクニ。あたしが手伝ってやる!」

「わあッ!? ちょっとやめてよリンリ!?」

私は、みんながいなくなった後に、リンリに身ぐるみを剥（は）がされてしまった。

「お～い、みんな～! もういいよ～」

極薄の服に着替えた私たち。

上下黒のスエットも恥ずかしかったが、こんな透けている服も恥ずかしい。

そしてメンヘルは、そのしまりのない顔で私たちをジロジロと見ている。

……正直キモい。

「じゃあ二人とも、泉に入ってみて」

ずいぶんと軽い感じで言うメンヘル。

リンリは私の手を取って、無理やりに奇跡の泉へと飛び込む。

「わあ～気持ちイイ!」

泉に入った私はそのままじっとしていたが、リンリは嬉しそうに泳（およ）ぎ始めた。

あまりふざけていると神様が怒るんじゃないかと心配になる。

「二人とも、そのままでね」

大賢者が泉に入った私たちを見てそう言った。

おいおい、こんな水遊びみたい感じで本当にチート能力がもらえるのか?

私がそんな不安を感じていると――。

「おおッ! なんか光ってきたよ、ビクニ!」

リンリに言われなくてもわかる。

奇跡の泉の底（そこ）から、突然眩（まばゆ）い光が放（はな）ち始めた。

そして、頭の中に声が聞こえ始める。

「選ばれし者たちよ。そなたたちの奥（おく）に眠（ねむ）っている力を、今から目覚（めざ）めさせましょう」

穏（おだ）やかでいながら力強い女性の声――。

きっとこの奇跡の泉の女神様なのかな?

「おお、お願いします～!」

リンリが吠（ほ）えると、彼女の頭にキレイな髪飾（かみかざ）りが現れた。

見るからに一点物（いってんもの）というか、伝説の魔道具（まどうぐ）的な感じのものだった。

それからまた頭の中に声が聞こえ始める。

「リンリ、あなたは聖騎士（パラディン）。あなたの持つ聖なる光で世界の悪を浄化（じょうか）するのです」

「はい、わっかりました～!」

元気よく返事をしたリンリは、誰もいない空中に向かって敬礼（けいれい）のポーズをした。

いやいや、女神様だから。

軍隊じゃないから……。

そう呆（あき）れていた私だったが、ふと腕を見るとアクセサリーが付いていた。

「こ、これは!?」

「おお、ビクニ! カッコいい!」

その腕輪（うでわ）は、明（あき）らかに伝説の魔道具（まどうぐ）的な感じのものだった。

けれど……リンリの髪飾りとは違い、真っ黒で禍々（まがまが）しい装飾（そうしょく）が施（ほどこ）されており、とても年頃の女の子が身に付けるようなものではない。

俗（ぞく）に言う中二病（ちゅうにびょう）の男子が好（この）んで身に付けそうなアクセサリーだ。

「えぇぇぇッ!? 私イヤ、こんな呪（のろ）われていそうな腕輪なんてイヤァァァッ!」

腕輪を取ろうと暴（あば）れる私に、女神は穏やかに語りかけてくる。

「ビクニ、あなたは暗黒騎士（ダークナイト）。あなたの持つ漆黒（しっこく）の闇（やみ）で世界の悪を飲み込むのです」

「私が……暗黒騎士……? えっ!? な、なんで……なんでよぉ……そ、そ、そんなのイヤァァァッ!」

洞窟内が、私の悲鳴（ひめい）と、それを何か勘違（かんちが）いしたライト王とメンヘル、そして兵士たちの歓喜（かんき）の声で覆（おお）い尽（つ）くされていった。