第9話 魔法!!
「リューズさんは大丈夫ですか?」
「はい。私は防具を着けてないので大丈夫です」
「え、防具着けてないんですか?」
「はい」
「危なくないんですか?」
「私は防御系の魔法が使えるのでそんなに危なくないですよ」
「そうなんですか?」
「はい」
防具がなくても危なくないってことは相当強力な魔法なのかな?
「それって自分達にも掛けられたりしますか?」
「はい」
「じゃあ自分も防具なしで大丈夫ですかね?」
防具を着けたまま動き回るのは体力が必要だろうし、何の訓練もしてこなかった人間が急にできることじゃないと思う。
「ハジメさんの能力で魔法を掛け直したり防御力を上げることができれば大丈夫だとは思いますが、それができないようであれば防具を着けたほうがいいかもしれません」
そっか。分断される可能性を考慮するとリューズさんの魔法に頼り切るのはよくないのか。
まぁでも、神の系譜さんならなんとかなるでしょ。
「たぶんできると思います」
怖いから一応あとで試そう。
「それなら防具がなくても大丈夫だと思います」
「わかりました」
「あ、ハジメさんの能力って怪我を治したりはできますか?」
「はい、たぶんできると思いますよ」
これもあとで試さないとな。
「じゃあ大丈夫そうですね」
「? 何がですか?」
「私の魔法が掛かっていても相手によっては怪我をすることがありますし、腕や脚の一本や二本はなくなることもあるのでハジメさんに回復する手段がないなら防具があったほうがいいかもしれないかなぁっと思っただけなので気にしないでください」
「……気にしますね」
……腕や脚の一本や二本て、腕も脚も二本しかないんですけど?
「回復できるんですよね?」
「はい、たぶんですが」
「最悪、傷口さえ塞いでもらえればあとは私がなんとかしますので安心してください」
安心して腕や脚を吹っ飛ばせと? 異世界ジョークですかね?
「いや、そうじゃなくてですね、腕や脚がなくなるんですか?」
「はい。たまに飛んでっちゃったりします」
「飛んでっちゃうんですか?」
「はい」
異世界人は身体とか精神の構造が違うのかな?
「痛いですよね?」
「はい、それなりに」
四肢が吹き飛んでるのにそれなりで済むのか……。モンスターが普通にいる世界みたいだから環境に適応して痛みを感じにくい身体に進化してるとか?
「防具があれば飛んでいかないんですか?」
「防具の質にもよりますがそれなりにいいものであれば防げると思います」
ダンジョンの能力で日用品が生み出せるんだから防具くらい生み出せるよな? 魔力に糸目をつけなければそれなりにいいものが生み出せそうだ。
「後で調べてみます」
「はい」
「じゃあ、キッチンに行きましょうか」
「はい」
キッチンに戻ってさっき座ったソファーに座る。
ユリスさんは足に着けてる防具を脱ぐだけでも少し時間が掛かってたから全身の防具を外すとなるとまだ少し掛かるかな?
「リューズさん」
折角だしちょっとだけ魔法の話を聞いちゃいましょう。
「はい」
「さっき言ってた防御系の魔法っていうのはどんな魔法なんですか?」
「身体能力を上げるものとダメージを軽減するものです」
「どのくらい軽減できるんですか?」
「掛け方によります」
「使いやすいのはどのくらいですか?」
「いつも使ってるのは身体能力を上げたときに身体がどこかにぶつかっても軽い痛みで済むくらいです」
「それはモンスターの攻撃にするとどのくらいですか?」
「オークにこん棒で殴られるのとオーガに拳で殴られるのの中間くらいです」
自分で聞いといて何だけどモンスターの攻撃力がわからないから全然参考にならないや。
「自分達が掛けてもらうのもそのくらいなんですか?」
「いえ、ちゃんと状況によって変えますよ」
「そうですか」
「はい」
よかった。ドラゴンとかを相手にするときに対オーク用の防御魔法を掛けられても何の役にも立たなそうだもん。
「そういえば何でリューズさんは防具を着けないんですか?」
防御魔法を掛けても腕や脚が飛んでいくなら防具を着けたほうがいいと思うんだけど。
「私は怪我をしても回復魔法で治せますし、どちらかと言えば防御力よりも機動力が欲しいので」
「そういうことですか」
「はい」
なるほど。当たらなければどうということはないし当たったところでどうということはないということですか。
「リューズさんは魔導書魔法を使うんですよね?」
「はい」
「それはやっぱり魔導書を使う魔法なんですか?」
「はい」
「魔導書はどこかで見つけたりするものなんですか?」
「いえ、私は最初から持ってました」
「今も持ってるんですか?」
「はい、持ってますよ」
正面から見た限りではそれらしいものはどこにも見当たらない。背中側に持ってるんだろうか?
「見せてもらったりとかは……」
「いいですよ」
リューズさんがそう言うとリューズさんの目の前に色の異なる光の粒が七つ現れ、現れた粒は一つの粒を中心にして正六角形のような形に並んだ。
整列が済むと光の粒からそれぞれと同じ色に輝く液体が溢れ出し、同時に正六角形が回転を始める。
溢れ出した液体には溶かした金属のような粘り気があり、正六角形の回転に合わせてもったりとした動きで円を描き、床に落ちることなく空中に留まっている。
バラバラに溢れ出した七つの液体は円を描きながら混ざりあい、しばらくすると七色に輝く一つの円になった。
それを見たリューズさんは何の躊躇いもなくそこに手を突っこんだ。
「どうぞ」
「ありがうございます」
引き抜いた手に握られていた本を差し出されたので受け取る。
受け取った本の大きさは少年コミック誌と同じくらいだが半分ほどの厚みしかなく思ってたよりもだいぶ薄い。表紙は紙じゃなくて糸で編まれていて、セーターのように立体的な模様が所々にある。糸でできてるから表紙じゃなくて表糸かな。
「中も見ていいですよ」
「いいんですか?」
「はい」
お許しの言葉を頂いたので遠慮なく魔導書を開いてペラペラとめくっていく。
仲間とはいえ知らない人間に手の内を晒すのは嫌かなぁと思って表紙だけって言ったんだけど、いらぬ気遣いだったか。
次々ページをめくり、中身に目を通す。
「何か見えますか?」
「いえ、何も見えません」
めくれどもめくれども白紙しかない。
「ハジメさんには魔導書魔法の適性がないみたいですね」
「……そうですか」
面と向かって「お前才能ないよ」って言われるとちょっとショックだな。
「あ、他の魔法の適正があると思うので落ち込まなくても大丈夫ですよ」
「はい」
魔導書魔法が使えなくてもシルヴィーに教えてもらった魔法なら使えるから…………おや?
「ありがとうございました」
「もういいんですか?」
「はい」
とりあえず魔導書を返す。
自分はとんでもないことに気が付いてしまった。
シルヴィーとウムルに教わって魔力は操れるようになったけど魔法の発動自体はまだしてないんだった。
さっきはシルヴィーに止められたけど魔力が回復するならいくらでも試せるじゃないか。
目を閉じて魔力をほんのちょっぴりだけ出す。
イメージするのは土ではなく、さっきウムルが作った水の雫だ。
家電が壊れる可能性はあるけど、適当にイメージして土を出すよりも実物を見てるほうが事故が起こりづらいはず。
イメージを固め、肘を曲げて掌を天井に向ける。
「【“
瞼を開いて現実にイメージを投影するように魔法名を唱えると、イメージよりも少し大きい水の雫が現れた。
……できた。
……できたできたできた!
できたよできましたよできちゃいましたよ!?
「発動できました!」
まだ魔力の制御が甘いみたいだけどちゃんと発動したった!
「ハジメさん?」
「はい!」
天才魔法使い辰子創。爆・誕!
「魔法使えたんですか?」
「さっきシルヴィーさん達に教わりました!」
リューズさんはシルヴィー達のほうを見る。
「教えたぞ」
「我が輩も一緒に教えたよ!」
「そうだったんですか。急に魔力を出し始めるから何事かと思っちゃいましたよ」
「あ、すいません」
そりゃ今日会ったばっかりの人間が急に魔力を出し始めたら驚くよな。
「さっきは魔力の無駄だってことで発動の練習まではさせてもらえなかったんですが、魔力が回復するなら使ってもいいんじゃないかと思いまして」
「それで急に使っちゃったんですか?」
「はい。驚かせちゃってすいません」
「そういうことだったんですか」
「はい」
リューズさんは笑顔を浮かべてくれているのでたぶん誤解はされなかったと思うけど、次からは気を付けないとな。
「ハジメは魔法のことになるとアレになるな」
アレって何だし。
「そうですね。ハジメさんは魔法のことになると少しアレになりますね」
だからアレって何だし。
「ごめん、遅くなった」
自分達が話をしていると廊下側に繋がるドアが開いてユリスさんが入ってきた。
ユリスさんはずっと羽織っていたマントを脱いでいて、六分丈くらいの白いシャツにくるぶしが見えるくらいのミルク色のパンツを穿いている。
防具とマントがなくなったからか急に細くなった気がする。失礼だろうから口には出さないけど。
「そんなに遅くなってないですよ」
「そう?」
「はい。そんなに遅くなかったですよね?」
体感では六分前後くらいだと思う。まぁ、好きなこと話してるときの体感時間なんか当てにならないだろうけど。
「はい、そんなに遅くなってないですよ」
「そっか、ならいいんだけど。時間取っちゃってごめんね」
「いえ。そんなに切羽詰まってないですし、自分の魔力があればすぐに取り戻せると思いますから大丈夫ですよ」
「そっか。ハジメ君はアレなの?」
いや、だからアレって何なんだよ。
「さっきから皆さんが言ってるアレっていうのは何なんですか?」
「アレはアレだろ」
「アレはアレですね」
「アレはアレだね」
「アレはアレだよ!」
これは教える気がないと見た。
「ウムルは何のことかわかってるんですか?」
「全然わかんない!」
「そうですか」
よかった。仲間がいた。
「じゃあユリスさんも来たことですしダンジョンの強化を再開しますか?」
「そうですね」
「そうだな」
「うん!」
「そうだね」
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