第8話 インフラ整備
タブレットを取って〈マスタールーム設定〉に移動する。
マスタールームの環境を変えられそうな項目は〈拡張〉〈分割〉〈設置〉〈属性変更〉の四つがある。何をするにしてもまずは拡張からかな。
〈拡張〉を選択すると画面にマスタールームらしき長方形が現れたのでなんとなく長い辺に触れて指を動かすと長方形が長くなった。
これで大きさを変えられるってことかな。
「お風呂とトイレは男女別で作りますか?」
「そうだね。ハジメ君が気にしないようならそれでお願い」
「わかりました。寝室は一人一部屋にしますか? それとも男女で分けます?」
「プライベートな時間も必要だろうから一人一部屋がいいんじゃない?」
「わかりました」
お風呂とトイレが二つずつでキッチンが一つ、それに寝室が五つ……でいいのか?
「自分とシルヴィーさんの部屋も新しく作っていいですか?」
マスタールームは敵以外にも知らない人が入ってくる可能性があるから出入口の近くに自分の部屋が晒されてるのはちょっと嫌だ。
「ハジメ君の魔力を使うんだしそこはハジメ君に任せるよ」
「じゃあ自分の部屋も新しく作ろうと思います」
「うん」
ここにあるものはあとで運び込もう。
「我は別にここでもいいぞ」
「中に入るたびに足を洗うのは面倒くさくないですか?」
「多少面倒ではあるな」
「ですよね? ということで、手間を減らすためにシルヴィーさんの部屋も作ります。ウムルはどうしますか? 一人の部屋が欲しいですか?」
「我が輩はマスターと一緒でいいよ!」
「わかりました。じゃあ部屋は五個作りますね」
「全然わかってないよね!?」
「ん? 自分と一緒でもいいってことは別でもいいってことですよね?」
「違うじゃん! 遠回しに一緒の部屋がいいって言ったんじゃん!」
「自分も一人の時間が欲しいので却下です」
「トイレとかお風呂には一緒に行かないから大丈夫だよ!」
「全然大丈夫じゃないです」
「……本当にダメなの?」
ウムルがあからさまに落ち込んでる。
「……はい。遊びに来るのは問題ないけど同じ部屋はダメです」
「わかった! じゃあ遊びに行く!」
「そうしてください」
ウムルが落ち込んでたから妥協しちゃったけど、これだと部屋を別にする意味がない気がする……いざとなったらお風呂かトイレとお友達になろう。
「お風呂とかトイレの大きさってどのくらいにします?」
「お風呂はこの草が生えてるところの三分の二くらいで、トイレはお風呂の半分くらいがいいかな? リューズさんはどのくらいがいい?」
「私もユリスさんが言った大きさくらいでいいと思います」
「わかりました。寝室はここと同じくらいの広さで大丈夫ですか?」
「うん」
「はい」
「シルヴィーさん達はどうですか?」
「我もそれでいいぞ」
「我が輩も!」
「わかりました。キッチンはどのくらいにしますか?」
「ご飯を食べたりする場所とは別に話し合いをする場所が欲しいから少し広めの場所が欲しいかな」
「わかりました」
一つ一つ確認しながらタブレットに映る長方形を広げていく。
「だいたい今の七倍くらいの大きさになったんですが、これで大丈夫ですかね?」
「うん。狭かったらまた広くすればいいし今はそれでいいと思うよ」
「わかりました」
画面の下のほうにある〈決定〉を選び、最終確認を行う文章を読んでから〈はい〉を押すと魔力が抜ける感覚とともにマスタールームが急激に広くなった。
現れた場所は自分の部屋ににた場所と違って家具などは一切なく、ただただフローリングの床だけが広がっている。あそこだけ見ると新築の家みたいだ。
次は〈分割〉〈属性変更〉〈設置〉のどれかなわけだけど……。
「ウムルさんや」
「なに?」
「分割って何ですか?」
「場所を区切って属性を変えたり壁を作ったりできるようになるよ!」
範囲指定みたいなもんかな?
「属性って何ですか?」
床が火とか氷になるのか?
「森とか洞窟とかマスターの部屋とかだよ!」
「地形を変えられるってことですか?」
「うん! そんな感じ!」
「わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして!」
あながち間違いじゃなかった。
とりあえず分割から始めるかな。
〈分割〉に移動すると画面の中央に長方形が表示され、画面の右端にツールアイコンのようなものが七個表示された。
なんとなく絵でわかるツールもあるけどよくわからないのもある。とりあえず上から順に押してみればいいか。
まず最初に四角形の真ん中に横線が入ってるアイコンを押してみる。
……アイコンの色が変わるだけで他に変化した様子がない。
アイコンの色が変わった状態で画面の真ん中に描かれているマスタールームらしき長方形に触る。すると長方形の真ん中に横線が入って上下に二等分された。
なるほど。アイコンを選択してからマスタールームに触ればいいのね。お絵描きツールみたい感じだ。
続いて四角形の真ん中に縦線が入ってるアイコンを選び、さっき二等分になった内の上側に触ると上側だけに縦線が入り左右に二等分された。
上の二つは選んだ場所が縦か横に二等分されるみたいだ。
次は万年筆のペン先で直線を引いているような絵が描かれたアイコンを選び、上下にわかれたマスタールームの下側に指を当てて横に滑らせる。すると指の通った場所に直線が引けた。
そのまま四角形を描こうと思い指を下に移動させるが直線が指に付いてきて下向きの線が引けなかった。そのまま指を上下左右に動かしても始点と自分の指を結ぶ直線が移動するだけで新しい線は引けず、結局指を離すまでは線が確定しなかった。
これは始点と終点を結ぶ直線が引けるツールってことかな。
指を離して線を確定させてから次のアイコンを選ぶ。
次のアイコンは今使っていたツールと似ているツールらしく、万年筆のペン先で曲線を引いているような絵が描かれている。
さっきと同じように直線を引いてから指を下に移動させると今度は下方向にも線が引けた。
円形に指を動かすと円を描くこともできたのでこっちは直線のときと違って自由に線が描けるツールっぽい。
次は十字の先端が矢印になっているアイコンを選択する。
アイコンを選択した状態で線に触れて指を動かすと線を移動させることができた。
これは予想してた通り移動用のツールだな。
続いて長方形が重なってるアイコンを選択する。
他のはなんとなく予想だけど、これだけはどうなるのか見当もつかないのでとりあえず左上の四分割された状態の長方形をタップする。
何も起こらない。
再び四分割された長方形に触れ、そのまま左に移動させてみる。すると、四分割された長方形と同じ形のものが指に付いてきた。
さっき描いた直線でも同じように試してみると同じ形の直線が付いてきたので、たぶんこれはコピペするためのツールだと思う。
最後に消しゴムのようなアイコンを選び、適当に線の上を指でなぞるとその部分にあった線が消えた。
まぁこれは定番のツールだよね。
一通りアイコンを試したので一旦〈拡張〉に移動する。
アイコンの効果を確認してて思ったんだけど、このままだと廊下が作れない。部屋を小さくしてスペースを作れば平気だけど、大した手間でもないし部屋が窮屈になるのも嫌だから拡張して廊下になるスペースを作っちゃおう。
少し横に拡張してから〈分割〉に戻る。
さっき試したのは画面を移動するときに消したので最初からやり直しだ。
「部屋の場所とかってどうしますか?」
そういえば部屋の大きさは聞いたけど配置は聞いてなかった。
「キッチンの横にトイレがなければ他は気にしないかな」
「私はユリスさんの隣の部屋がいいです」
「じゃあ我が輩はマスターの隣がいい!」
「我はどこでもいいぞ」
「わかりました」
とりあえずマスタールームを七個に等分する。
今いるところを一個目とすると二個目を丸ごとリビングダイニングキッチンにして、三個目と四個目と五個目に寝室を二つずつ、六個目にお風呂と脱衣所兼洗面所を二つで七個目にトイレを二つ。
三個目から七個目の中央には廊下になるスペースを作り、その両サイドに各部屋が来るようにした。
寝室が六個になっちゃったけど気にしない。来客用とか荷物置き場とかにでもすればいいでしょう。
よし、分割完了。次は〈設置〉か〈属性変更〉だな。
「ウムルー」
「なにー」
「属性変更って壁とかも出てきますか?」
「うん! 出てくるよ!」
「わかりました。ありがとうございます」
じゃあとりあえず属性変更してみるか。
〈マスタールーム設定〉にある〈属性変更〉を選ぶと分割された状態の長方形が現れた。
まずはお試しってことでリビングダイニングキッチンの属性を変更してみようかな。
リビングダイニングキッチンになる場所をタップするとサムネではなく属性の一覧が表示された。
火・水・風・土・氷・雷・光・闇のような魔法の属性を思わせるものや、創の部屋・リビングダイニングキッチン・寝室・風呂・脱衣所・トイレなどの普通の家庭にありそうなもの、草原・森林・火山・氷山などの地形が変化しそうなものなど様々な属性がある。
リビングダイニングキッチンにするのに最適な属性があるな。他の属性も気になるところではあるけど火山とかを選んでマスタールームが焼けても困るのでリビングダイニングキッチンを選ぶ。
魔力が減る感覚があったのでリビングダイニングキッチンになる予定の場所を見ているとフローリングのあちこちから芽が生えてきた。
芽はすぐに大きくなり始め、成長しながら徐々に色や形を変えていく。
「自分の気のせいでなければ草の芽が流し台とかコンロとかソファーに変わっていってるんですけど異世界の草は全部あんな感じなんですかね?」
「モンスターなら別だけど普通の草はあんな風にはならないよ」
「我の世界でもあんな奇妙な育ち方はしないぞ」
「やっぱりそうですか」
「うん」
自分達が草を見ながら話をしていると下から壁が出てきて視界が遮られた。
壁にはドアも取り付けられていて、キッチンへ繋がるドアは中央よりも少しフローリング寄りに付いている。
ドアも出るのか……。あとで廊下の位置を変えないといけないかもな。
「立ってるのも何ですしキッチンに行きます?」
「うん。そうだね」
ユリスさんが歩き出した。
「あ、こっちの世界って家の中は土足ですか?」
「国とか地方によって違うみたいだよ」
「私の住んでる国は基本的に家の中では靴を脱いで生活しますよ」
「ユリスさんは靴を脱いで生活するのは嫌ですか?」
「ううん、別にそんなことはないけど」
「じゃあ靴で入るのはそこまででお願いします」
「わかった」
ユリスさんとリューズさんが靴を脱いでフローリングに上がるのを確認し、ドアを開けてリビングダイニングキッチンに入る。
よかった。廊下側に繋がるドアはちゃんと真ん中にある。これなら廊下の位置を調整しなくてもよさそうだ。
「物があると思ったより狭く感じるね」
「広げますか?」
「ううん、大丈夫」
「皆さんは大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫だぞ」
「大丈夫だよ!」
適当なソファーに座る。
「じゃあ続きをやりますね」
とりあえずお風呂、脱衣所、トイレ、寝室はそれぞれに対応した属性があったのでそれに変える。まだ部屋割が決まってないので自分の寝室が決まってから自分の部屋だけを創の部屋属性に変えるつもりだ。
「終わりました」
「もう終わったの?」
「はい」
予定地に予定通りの属性を付けるだけの簡単な作業だったからね。
「じゃあ見に行こっか」
「はい」
ユリスさんがドアを開けて廊下に出ていき、自分達もそれに続く。
「一番奥がトイレで、その手前がお風呂、残りが寝室です」
「わかった」
「部屋割ってどうします?」
「お風呂とトイレは二つ作ってくれた?」
「はい」
「私達が使うお風呂はどっち?」
「たぶん同じものなのでどっちでもいいですよ」
「リューズさんはどっちがいい?」
「形が同じならどっちでもいいです」
「ハジメ君は?」
「じゃあ自分の家のお風呂が右側なので右側で」
「わかった。じゃあ私達は左側を使うね」
「はい」
「じゃあ私は左側のお風呂の隣がいいかな」
「わかりました」
となるとリューズさんの部屋はユリスさんの部屋の手前か。
「自分はユリスさんの反対の部屋でもいいですか?」
お風呂で鼻歌とか歌ったりするから隣に誰かの部屋があると恥ずかしい。
「うん、いいよ」
「じゃあ我が輩はその隣がいい!」
「シルヴィーさんは希望とかありますか?」
「特にないぞ」
「じゃあ残ったところでもいいですか?」
「いいぞ」
「わかりました」
タブレットを操作して自分の寝室を創の部屋属性に変更する。
「皆さんは欲しい家具とかありますか?」
「寝室に鏡が欲しいな」
「あ、私も鏡が欲しいです」
「我はゲェムが欲しいぞ」
「我が輩は特にないよ!」
「わかりました。じゃあそれぞれの部屋を回って……」
いや、開戦まで時間あるしタブレットを渡して自分でやってもらえばいいのか。
「あ、やっぱりいいです。複製を二つ作って規定の電力を供給しろ」
手元に二つのタブレットが現れたので二人に渡す。
複製の複製になると異常が起きそうで怖いけど、まぁ大丈夫だろう。
「上にあるボタンが電源ボタンなのでそれを長めに押してもらってもいいですか?」
二人が電源を入れたことを確認し、説明を続ける。
「次からはそこを押すだけで画面を暗くしたり明るくしたりできるので使うときと使い終わったときに押してください」
「うん」
「わかりました」
「上にスワイプして解除する画面って出ました?」
「うん」
「じゃあ画面を指で上に動かすような感じで解除してもらって、解除できたら画面に出てくるダンジョンマネージャーっていうのを押してください」
二人は自分の説明を聞きながら無言でタブレットを操作している。
「起動できました?」
「うん、できたよ」
「できました」
二人は迷宮創造主じゃないからダンジョンマネージャーを使えないかもしれないと思ったけど起動できたなら大丈夫かな。
「はい。じゃあ自分には頼み辛いこともあると思うので、魔力を節約しなくてもいいときはそれを使って各自で必要な物を生み出してください」
「わかった」
「わかりました」
「これは私達の魔力を使うってこと?」
「シルヴィーさんが操作したときはシルヴィーさんの魔力を使ってたみたいなのでたぶん操作してる人の魔力を使うんだと思います」
「そっか。じゃあ遠慮なく使わせてもらうね」
「はい。今からやりますか?」
「ううん。何かあったら困るしまずはダンジョンの強化を済ませちゃおう」
「わかりました」
「あ、でも少し待っててもらっていい? 邪魔だから防具外してくる」
「わかりました。自分達はキッチンにいればいいですか?」
「うん」
「じゃあキッチンで待ってます」
「わかった」
ユリスさんは返事をすると廊下の奥に向かって歩いていった。
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