第6話 MAHO!!
「なぁハジメ」
シルヴィーがメニュー画面の操作を始めたがすぐに手を止めて話し掛けてきた。
「はい、何ですか?」
「我にもそれを使わせてくれないか?」
シルヴィーが自分が持つタブレットを顎で指した。
「タブレットですか?」
「うむ」
「いいですよ」
持っていたタブレットをシルヴィーに差し出す。
「噛んでも大丈夫か?」
「あ、そうですね」
シルヴィーの前にタブレットを置くと早速いじりはじめた。
「複製して規定量の電力を供給しろ」
オリジナルが壊れたら困るのでオリジナルを使って新たな複製を作り、さっきまで使ってたものと同じようにペンとビニールテープで印をつけて電源を入れる。
「いたぞ」
自分の作業が終わるのと同時にシルヴィーが目的のモンスターを見つけたらしい。
シルヴィーが地面に置いて操作していたタブレットを覗き込むと、画面には枝分かれした黄色い角に青い石がいくつか埋まっている鹿の姿が映っていた。
また鹿だな。
「これですか?」
こう言っちゃ何だが全然強そうには見えない。変な角が生えた鹿って感じだ。
「うむ」
「これは進化するとどのくらいの強さになるんですか?」
「名前をもらう前の我と同じくらいだな」
おぉ、それは強い……のか? シルヴィーの能力を知らないから強さがよくわからん。
「どうします?」
「強化に必要な魔力によるな」
「ですね」
魔力を全部使っても進化しないなんてことになったらシャレにならないしね。
「ウムルー」
「なぁにー」
「強化するときに必要な魔力の量ってわかりますー?」
「レベルを一から二にするときは創造するときの二割の魔力が必要だよー」
「二から三にするときはどのくらい必要ですかー?」
「三にするときは創造するときの三割だよー」
ほうほう。レベルアップ後のレベルと同じ割合の魔力が必要になるってことかな。
「じゃあ九から十にする場合は十割必要ってことでいいですかー?」
「そうだよー」
「ありがとうございまーす」
「またいつでも聞いていいよー」
「了解でーす」
ということは、レベルを十まで上げると…………全部で五十四割か。創造するときに必要な分を足して必要魔力量に換算すると……えーっと、全部で三十八くらいか? 連携させるモンスター達より八多いな。
「進化させる場合は連携させるモンスターを六匹生みだせるくらいっぽいです」
「そうなのか?」
「はい、たぶん。進化させたあとのモンスターと自分が調べたモンスター達ではどっちが強いですか?」
「正面から戦えばハジメが調べたやつらで、正面から戦わなければ進化させたやつって感じだな」
微妙なところかぁ……。
いっそのこと両方いっちゃうか? ウムルを生み出したときはそんなに魔力が減った感じはしなかったし、名前を付けなきゃなんとかなりそうな気がしないでもない。
「どうします?」
「ユリス達はどっちがいいと思う?」
「そこまで差がないなら単体で強いのが欲しいかな」
「私は連携を取るモンスターがいいです」
「我が輩はどっちも創造しちゃえばいいと思うよ!」
まとまりないなぁ。まぁ全員が同じ考えってのも問題だとは思うけどさ。
「ハジメはどれがいい?」
「もうどっちも生み出せばいいんじゃないですか?」
連携を取るモンスターには普通に迎撃をしてもらって、単体で強いやつには遊撃をしてもらえばいい。
「じゃあそうするか」
「どっちがどっちを生み出します?」
「ハジメはウムルを生み出したり名前を付けたりで魔力を消耗してるだろうから我が進化するほうをやろう」
「わかりました」
モンスターの名前を確認すべくメモを起動する……しかし何も書いていない。
そういえばメモしたのはシルヴィーに渡しちゃったんだった。
「タブレットを交換してもらってもいいですか?」
「ん? 少し待ってくれ」
シルヴィーがタブレットを操作して画面に映っていたケルーノスという魔物を生み出した。
「場所は適当でいいか?」
シルヴィーがユリスさんに話を振る。
「マスタールームから遠くなければどこでもいいよ」
「うむ」
シルヴィーはユリスさんに配置する場所を確認すると画面をタップしてケルーノスを配置した。
「意外と魔力を持ってかれるな」
「そうですか?」
「うむ。広範囲に魔法を放つのと同じくらいだな」
うん、わからん。
「そうなんですか」
ケルーノスの配置が済んだので適当な相槌を打ちながらタブレットを交換し、メモを見ながら順番にモンスターを生み出しては配置を行う。
モンスターを一体生み出すごとにウムルを生み出したときみたいに魔力が抜けていく。
…………。
これゴリゴリ削られてくな!
「できました」
「我も進化させたぞ」
シルヴィーが使っているタブレットにはケルーノスではなくケリュネイアというスラリとした鹿が映っている。
ケリュネイアはケルーノスと比べると毛が緑がかっていて、黄色かった角は長くなり鈍い金色に変化し、いくつも埋まっていた石はなくなり碧い宝珠が一つずつ角に埋まっている。
進化するとデカくてゴチャゴチャした感じになる印象があったけど全体的にスマートになった。進化っていうよりは洗練って言ったほうがしっくりくる感じだ。
「名前はどうします?」
「余裕ができたらでいいんじゃないか?」
「そうですね。じゃあ次は何にします?」
「ハジメ君」
「はい、何ですか?」
「ちょっと外の空気を吸ってきてもいい?」
「はい。どうかしたんですか?」
「あ、うん。ちょっと気分が悪くなっちゃって」
ここは窓もないしそんなに広くもない。気分が悪くなるのも頷ける。
「一人で大丈夫ですか?」
「あ、うん。リューズさんに付いてきてもらうから大丈夫」
「わかりました。ティッシュとかゴミ袋は必要ないですか?」
机の上にあったティッシュと机のそばにあるゴミ箱に手を伸ばす。
「一応貰っておこうかな」
「わかりました。複製しろ」
なくなったら困るので複製を作って渡す。
「ありがと。じゃあ行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ユリスさんがリューズさんを伴ってマスタールームを出ていった。
「大丈夫ですかね?」
「敵も入ってこないし大丈夫じゃないか? そんなことより、我らはユリス達が戻ってくるまで何をすればいいんだ?」
確かに。勝手に強化するわけにもいかないし何もすることがないな。
…………!?
これは千載一遇のチャンスや!
「私めに魔法の使い方を教えてくだされ!」
「何だその喋り方は」
「喋り方などはどうでもよかろうに! はよぅ! はよぅ童に魔法の使い方を教えてたも!」
二人が帰ってきたら教えてもらえなくなるぅ!
「ダンジョンの強化に使う魔力が減るだろう?」
ちぃっ! 常識人振りおって!
「使い方を教えて下さるだけでよいのです! 魔法の練習は空いた時間にするから! 何卒! 何卒オラに魔法の使い方をおせーてけろ!」
「ハジメ」
「はい!」
「ずっと聞こうと思ってたんだけどな」
「はい!」
「ハジメはニホンという国を知ってるか?」
え、ニホン? 国? 魔法じゃなくて?
「知ってるといえば知ってるんですが、しっかり理解しているかと問われればそうでもないです!」
行ったことないところもいっぱいあるし、自慢じゃないけど都道府県とかもわからない!
「そうか」
「何でシルヴィーさんが日本のことを?」
「我に名前をくれた人間がニホンから来たと言ってたからだな」
「それでどうして自分が日本人だと思ったんですか?」
「その人間はニホンに住んでたときにタツミユタカという名前だったらしいぞ」
辰子豊……?
「ハジメもタツミという名前だっただろ?」
「はい」
「だからだ」
「なるほど」
まさかな。
「もう一つ聞いてもいいか?」
「答えたら魔法の使い方を教えてくれます?」
「うむ」
「何なりと聞いてくだされ」
どんとこい!
「うむ。ユタカにはハジメとノドカという孫がいたらしいんだが、このハジメというのはお主のことか?」
「んー……、どうなんですかね? 一応自分のじいちゃんは辰子豊で妹は
日本だけなら自分の可能性が高いだろうけど、異世界や異星も含めたら何人かいてもおかしくなさそう。
「……そうか」
「自分も少し気になるので調べてみます。シルヴィーの名付け親が自分の祖父と同一人物か教えろ」
〈ユタカと辰子豊は同一人物です〉
……おぉ。世間は広いようで狭いって言うけどここまで狭いとは。
「どうだ?」
「同じ人みたいです」
「まぁそうだろうな」
「じゃあ自分達の接点もわかったところで、魔法の使い方をご教授下さいまし!」
レッツウィズ!
「うむ。接点がわかったことと魔法の使い方を教えることには何の繋がりもない気がするが、まぁいいだろう。我が教えて進ぜよう」
「しくよろ!」
「……しくよろ?」
「あ、気にしないで進めてください」
「うむ。まずは使いたい魔法をイメージする」
「はい」
目を瞑り魔法をイメージする。
火はマズイし水も家電が濡れたら困る。風は物が飛んでって壊れるかもしれないし、雷は家電が壊れるし燃えるから話にならない。となると土が一番安全か?
「できました」
「うむ。それができたら身体の中にある魔力を外に出してくれ」
「わかりました」
「自然にある魔力と混ざると使えなくなるから離さないようにな」
「はい」
身体の中を巡る魔力を外に出して自分の周りに留めるようにイメージする。
「できてますか?」
「何かやってるのか?」
「はい。全力で魔力を放出してるつもりです」
「何も出てないぞ」
「マジですか?」
「マジだぞ」
マジだったかぁ。
「まずは魔力を外に出すところから教えるか?」
「はい。お願いしゃす」
…………。
「……あの、シルヴィーさん?」
シルヴィーが黙ったまま何も言わなくなった。
「うむ……魔力はどうやったら外に出せるんだ?」
「知らんがな」
自分が聞いてますやん。
「我は出そうと思えば出せるんだが……」
野生の勘ってやつですか。そうですか。
「ウムル先生!」
「はい!」
「魔力の出し方教えてちょっ!」
「任せて!」
…………再びの静寂。
「ウムルさん?」
「今考えてるから少し待って!」
「かしこまり」
……自力でなんとかするか。
魔力に関する出来事っていうと、シルヴィーがダンジョンの入り口を開くときに感じた圧力とウムル達を生み出したときに感じた違和感くらいか?
自分は魔力を圧力として感知してるらしいから身体の中に意識を集中させて圧力を探してみればわかるか?
再び目を瞑って体内に意識を向け、頭のてっぺんから足の裏に向かって圧力を探していく。
…………。
全然わからん。
「マスター!」
「お、わかりました?」
「うん! 全然わかんない!」
はい、元気でよろしい。
「ウムルは魔法使えるんですか?」
「やってみる!」
「危なくないやつでお願いしますね?」
「うん!」
ウムルが瞼を閉じながら肉球を上に向けた手をお腹の前に持っていく。
一応釘は刺しておいたけど自分とウムルとで「危なくない魔法」の認識が違うかもしれないので身構える。いざというときは神の系譜さんで止めよう。
ウムルがゆっくりと目を開き、それと同時にウムルの気配が少しだけ濃くなった。
「【“
ウムルが魔法を発動すると何もない空間に水が現れ、肉球から少し離れた場所に緩やかな螺旋を描きながら集まっていき小さな水の雫になった。
「できた!」
「できましたね」
そういえばちゃんとした魔法を見るのってこれが初めてかもしれない。
「どうやって魔力を出したんですか?」
「魔法をイメージしてちょびっとだけ魔力を使おうと思ったら出たよ!」
「なるほど」
意識して魔力を出そうとするんじゃなくて魔法に使う魔力の量を考えればいいのか。
「ちょっとやってみます」
目を瞑り掌の上に浮かんでいる小さな土の塊をイメージし、手をお腹の前に持ってきて掌を上に向ける。
目を開いて掌を見ながらイメージしたものを現実に重ね、ほんの少しの魔力で魔法を発動することを考える。
身体から何かが抜けてる気がする。成功か?
「ハジメ」
「はい」
「何をしようとしてるのか知らないがもう少し魔力を抑えないと危ないぞ」
「わかりました」
よし、とりあえず魔力を出すことには成功。
ということはこれが魔力を外に出すときの感覚か。この感覚を覚えれば意図的に魔力の量を調整できたりするんじゃないだろうか?
身体から出ていく魔力に意識を集中させて魔力の量を増減させる。
まずは量を絞っていき、限界まで減らしたところで量を増やす。それを何度か繰り返して魔力を動かす感覚を掴んでいく。
しばらく繰り返して問題なく増減させられるようになったので次の段階に進む。
増減させるのではなく一旦外に出ていく魔力を全て止めて魔法を使おうとする前の状態に戻す。ここから魔力を再放出できれば魔力の操作ができるようになったと言っても過言ではないだろう。
さっきの感覚を元に魔量を少しだけ放出する。
「どうですか? 魔力出てますか?」
「うむ。少しだがちゃんと出てるぞ」
よっしゅぁあ! これでいつでも魔法が使えるぜぇ! フルリッヒィ!
あとは魔法の名前を唱えればいいだけ……か?
「あの、魔力を出したあとはどうしたらいいんですか?」
「適当に言葉を発したら発動するぞ」
「魔法の名前とかじゃなくていいんですか?」
「考えたものが出てくるんだから名前なんてないだろ?」
「あぁ、確かに」
全ての魔法がオリジナルになるんだから名前なんてないか……自分、ワクワクすっぞ!
「まぁ名前を考えるのは悪くはないと思うけどな」
「何でですか?」
「名前があったほうが魔法をイメージしやすくなるだろ?」
「あぁ、確かにそうですね」
「水」って言って火を出すよりも「火」って言って火を出すほうがイメージしやすいと思う。
「とにかく、イメージして言葉を発すれば発動できるってことだ」
「わかりました」
とりあえず一回やってみっか。
掌を見てイメージを重ねる。
「ハジメ」
「はい」
「何やってるんだ?」
「一回試してみようかと」
「ダメだぞ?」
「え」
何でそんな酷いことが言えるん?
「使い方を教えるだけって約束だろ?」
「そうでしたっけ?」
「ウムルも聞いてただろ?」
「うん! 聞いてたよ!」
……ちっ。目撃者がいたんじゃあしょうがないか。
「……わかりました。練習はあとでします」
「うむ」
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