第5話 宣戦布告とモンスター
〈当ダンジョンへの宣戦布告が為されました。これより当ダンジョンへの進入に制限が掛かります。開戦まで残り七十一時間五十九分〉
「宣戦布告?」
「はい」
「何それ?」
そんなこと自分に聞かれても……。
「たぶんそのままの意味だと思いますけど」
「されるとどうなるの?」
「このダンジョンへの進入に制限が掛かるって書いてあります」
「敵が入れなくなるってこと?」
「たぶんそうなんじゃないですか?」
味方が入れなくなったら困るだろうし、そんなに宣戦布告する側が有利になる仕組みなんて作らないだろ。
「何度もお願いして申し訳ないけどハジメ君の能力で調べてもらってもいい?」
「わかりました」
「それなら我が輩がわかるよ!」
「? どういうことですか?」
「我が輩達は生まれてくるときに迷宮戦争とダンジョンの知識をもらってるから仕組みとかがわかるよ!」
歩く迷宮戦争ウィキか。わからないことが多いから助かるな。
「じゃあ宣戦布告について教えてもらってもいいですか?」
「いいよ! 宣戦布告をしたりされたりすると開戦するまでは創造主ペアとそのダンジョンで生まれたモンスターしか中に入れなくなって、開戦してからは宣戦布告をした側とされた側の創造主ペアとモンスターだけがお互いのダンジョンに入れるようになるよ!」
ほぅ。少なくともダンジョンの中にいるうちは邪魔が入らなくなるってことか。余計なことに気を回さなくていいのは楽でいいな。
「じゃあとりあえず今から三日くらいは安全ってことですかね?」
「そうだね!」
「何で三日ってわかるの?」
「ここに開戦までの残り時間が書いてあるからです」
「そっか。じゃあそれまでは敵が入ってくる心配はしなくてもいいってこと?」
「うん!」
「じゃあ一旦マスタールームに戻ろう」
「はい」
「鍵を代行者に渡すから代行者をこっちまで移動させてくれる?」
「わかった!」
代行者はユリスさんの前まで行くと三叉槍のような手を差し出した。
ユリスさんが差し出された手に鍵を置くと代行者が地中に潜って……行かない。
「手が握れないみたい!」
うん、元気に報告することじゃないね。
ユリスさんが代行者の首から垂れているランタンの金具に鍵を付けようとしているが付けるのに手間取っている。
「ごめん。誰か付けて」
「あ、じゃあ私が付けます」
ユリスさんは手にガントレットを着けてるから上手くできなかったらしい。
リューズさんが鍵を受け取って鍵を付けると、代行者が棒立ちのまま地中に沈んでいった。
「じゃあマスタールームに戻ろう」
「我が輩はどこにいればいいの?」
「んー……どうしよっか?」
「自分達は迷宮戦争やダンジョンについて知らないことが多いですし、マスタールームでアドバイザーをしてもらうっていうのはどうですか?」
「我はどっちでもいいぞ」
「私もそれでいいと思うよ」
「他の子達からの反応がよくない可能性はありますが賛成です」
「そういうことなのでウムルも一緒に来てください」
「わかった!」
「じゃあ戻ろう」
「はい」
皆がマスタールームに向かって歩く。
「ハジメさん」
「はい」
「あれは消さなくていいんですか?」
「あ、忘れてました。神の系譜を使って開いた窓を全て消せ」
面倒なのでマスタールームの中で開いた窓もまとめて消せるように命令を行う。
「あ、そういえばさっき言ってた他の子達からの反応がよくないっていうのはどういうことですか?」
丁度よく時間ができたので気になったことを確認する。
「ウムルちゃんを見ればわかると思いますが、モンスターの中には外見以外がほとんど人と同じような子がいます。なので中にはマスタールームに入れるウムルちゃんをよく思わない子も出てくると思うんです」
「モンスターが嫉妬するってことですか?」
「はい」
モンスターが嫉妬……?
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
たぶんモンスターっていうと普通は倒すべきものだよな?
「小さい頃からモンスターや動植物と話をしてきたので」
「……なるほど」
色々と残念な子なのかな。
「あ、一応言っておきますが魔法で話せるようにしてますからね?」
「あぁ、そうだったんですか。自分はてっきりリューズさんは友達のいないちょっと変わった人なのかと」
「友達が少ないのと人と少し違うところは否定できませんが変わってはいませんよ」
「そうなんですか。ちなみにその動植物と話せるようになる魔法っていうのは自分でも使えたりしますか?」
「ハジメさんの適正によりますね」
リューズさんと話をしながらマスタールームに入る。
「調べる方法は?」
「適正を調べる道具を使います」
「それは今持ってますか?」
「すみません。武具や服以外は迷宮戦争に持ち込めないので持ってません」
「そうですか……」
残念です。
「ハジメ君、ウムルちゃんが中に入れないみたいなんだけど」
ユリスさんがマスタールームの入り口から顔だけ出して言った。
「あ、はい。ちょっと待ってください」
さっき鍵を出すときに見た〈登録者変更〉ってやつを使えばいいかな?
〈マスタールーム設定〉から〈登録者変更〉を選択すると画面にシルヴィー、自分、ユリスさん、リューズさんの名前が表示されたので〈追加〉を選択してウムルの名前を追加する。
「もう大丈夫だと思います」
「わかった」
ユリスさんは顔を引っ込めるとウムルと一緒に入ってきた。
「お邪魔します!」
「よし、それじゃ改めてダンジョンの強化を始めよう!」
そういえばまだマスタールームの鍵を置いてウムルを生み出しただけだった。
「何から強化します?」
「まずはダンジョンを広くしてモンスターを配置しよう」
「木を増やして地形に合わせたモンスターを配置しましょう」
これさっき聞いたな。ここは専門家である森の王さんに話を伺おう。
「シルヴィーさんはどうするのがいいと思いますか?」
「目的によるんじゃないか?」
「目的ですか?」
「うむ。足止めが目的なら倒す必要はないだろう?」
確かに。守ることしか考えてなかったけど、足止めだけしておいて手薄になった相手のダンジョンに攻め込むっていう手もあるのか。
「私はあとのことを考えると殲滅しておきたいかな」
「私は……いえ、私も殲滅がいいと思います」
リューズさんが何かを言いかけて止めた。リューズさんはモンスターとも仲がいいみたいだからあんまり戦いたくないのかもな。
「じゃあ殲滅するのが目的ってことでお願いします」
「なら我から言うことはないな」
え~。
「何でですか?」
「普通にモンスターや罠で敵を減らすしかないだろ?」
「それはそうですが、オススメのモンスターとか罠とか、配置の仕方とか、そういうのはないんですか?」
「我が教えられるのはモンスターくらいだな。罠やら配置やらは使ったことないからよくわからん」
「じゃあ森で戦ってもらうモンスターでオススメのものを教えてください」
「単純に強いのがいいか? それとも他のモンスターと連携することで力を発揮するのがいいか?」
何がいいだろう?
単体の場合は倒されたときに一気に戦力が落ちるし相手が複数だと背後を取られやすい。
逆に連携させる場合は背後を取られづらいけど分断されただけで戦力が落ちる。
どっちもどっちだな。
「私は単体がいいと思う」
「私は連携させるほうがいいと思います」
この二人は意見が合わないなぁ。
「ハジメはどうだ?」
「強いのを連携させるっていうのが一番強いんじゃないですか?」
ただの折衷案だったけど、よく考えたらこれが最適解じゃないか。
「連携できればそうなんだが、力があるやつらは基本的に協調性がないからな。そういうやつらは無理に連携させても弱くなるだけだぞ」
「そうですか……」
さて、どうするべきか……。
「連携させて強くなるっていうのは単体で強いやつよりも強くなるんですよね?」
「なるぞ」
だよね。じゃないとそのモンスターを使う意味がないもんね。
「そうなると、創造するのに必要な魔力量によりますね」
「じゃあとりあえず調べるか」
「ですね」
「我はダンジョンの管理がしたい」
シルヴィーがメニューを呼び出すと草が飛んできてメニューになった。
「ハジメはどれを調べる?」
「連携するやつで」
シルヴィーは初めてメニューを使うから自分が多めに調べたほうがいいよな?
「じゃあスクアーマ・アスルディア、ピナエール・ルフスディア、メアカーフ・キトゥリディア、ヴァサルート・オウロディア、リモニューミ・メランディアを調べてみてくれ」
「わかりました。もう一回お願いします」
「ん? もう一回か?」
「はい」
全然覚えられなかった。そうだ、メモを取ろう。
「メモを取るのでゆっくりお願いします」
喋りながらタブレットを操作してメモアプリを起動する。
「うむ。じゃあ言うぞ? スクアーマ・アスルディア。ピナエール・ルフスディア。メアカーフ・キトゥリディア。ヴァサルート・オウロディア。リモニューミ・メランディア……大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「うむ。じゃあ頼む」
「はい」
アプリをダンジョンマネージャーに戻し、メニューにある〈創造〉から〈モンスター〉を選んで言われたモンスターを探す。
とりあえずスクアーマ・アスルディアから順番に探していけばいいか。
サ行を探す作業……。
あ、いた。
スクアーマ・アスルディアは鹿のような姿をしていて、青っぽい毛と無数に枝分かれして絡み合う大きな角が特徴的なモンスターだ。
胸の辺りと脚の前方部分、それと目の下と尻尾には毛ではなく鱗が生えていて、尻尾の上部には突起が並んでいる。
ピナエール・ルフスディアも鹿に似たモンスターで、スクアーマ・アスルディアと同じような角が生えている。
こちらは毛が赤っぽくて鱗が生えておらず、代わりに肩甲骨の辺りには翼があり尻尾も鳥の尾羽のような形をしている。
種族特性はスクアーマ・アスルディアと同じく燐光鹿蹄で必要魔力量も同じく六。スクアーマ・アスルディアの亜種みたいなものかな?
メアカーフ・キトゥリディアはこれまでの二種類とは異なり鹿の獣人のような姿で、身体は全体的に黄色っぽくて角は普通の枝角だ。
先に見た二種類と違い二本足で立っていて、足は普通の鹿と同じように蹄があるが手は蹄ではなく人間と同じように五本指になっている。
種族特性と必要魔力量は先に見た二つと同じく燐光鹿蹄と六。
ヴァサルート・オウロディアはスクアーマ・アスルディアやピナエール・ルフスディアと同じ系統のモンスターのようで、目を引く大きな角が生えている。
外見は全体的に白っぽくて毛が多く、足元まで毛が達しているため蹄が見えず首回りの毛は鬣のようになっている。尻尾は普通の鹿よりも太くて長い感じで鹿というよりは犬に近い。
これも必要魔力量は六で種族特性は燐光鹿蹄だ。
リモニューミ・メランディアも他の三種と同じく絡み合う大きな角が生えている鹿っぽいモンスターで、毛色は黒。
角の手前には先端を丸くした円錐のような突起があり、それと同じような形の突起が背中や胴にもいくつか生えている。
種族特性と必要魔力量は他の四種と同じだ。
どのモンスターも備考欄には〈空中を足場にして移動できる〉と書いてあるし、名前も少し似てるから皆同じ系統のモンスターなのかな。
「終わりました」
結局どのモンスターも必要魔力量は六だったな。
ウムルも六だったし、シルヴィーが知ってるモンスターは六が多いのかね?
「うむ。我のほうも終わったぞ」
「自分のほうは合計三十でした」
「我のほうは見つからなかった」
「単体で強いモンスターは他にいないんですか?」
「色々と調べてみたがどれも見つからなかったぞ」
そっか、見つからないってこともあるのか。全然考えてなかった。
「そうですか……」
さて、どうしたものか。
「モンスターって進化とかしますか?」
モンスター育成系のゲームではレベルを上げて進化させるのが定番だけど……。
「するぞ」
「ダンジョンのモンスターも進化するんですか?」
「するんじゃないか?」
自分とシルヴィーはウムルのほうに顔を向ける。
「どうしたの?」
「ダンジョンのモンスターって進化します?」
「するよ!」
「どうやったら進化するんですか?」
「強化したり戦わせたりしてレベルを十まで上げると進化できるようになるよ!」
おぉ、普通だ。
「強化ってどうやるんですか?」
「モンスターを管理するところからできるよ!」
「やっぱり強化をするときも魔力が必要なんですか?」
「そうだよ!」
だよね……。
「わかりました。ありがとうございます」
「うん! わかんないことがあったらなんでも聞いて!」
「はい。お言葉に甘えさせてもらいます」
よし、じゃあ進化させる方向でいってみるか。
「シルヴィーさんは強いモンスターに進化するやつは調べました?」
「いや、まだだな」
「じゃあお願いします」
「うむ」
さっきは自分が多めに調べたけど多少は慣れただろうし任せてもいいよね。
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