第55話 少年は愁いている

 ――ぺちんっ。


 空の朱さは疎らな模様へと色を変え、蒼白い夜の帳に呑まれつつある。校舎裏の影の形は、陽が落ちた影響でもはや判別のしようもない。

 けれど、これだけははっきりと聞こえる。それは微かだが判然としていて、音の響きが空にも鳴り渡るほどであった。


「――そんな言い草、あんまりです」


 さっきまで逡巡しゅんじゅんとしていたはずの、少女の声だった。そこに恐怖の色も、躊躇いの意思も存在しない。

 あったのは静かな怒りだった。彼女は掲げていた手をゆっくりと下ろし、目の前にいる男を鋭い瞳で睨みつける。


「結衣、ちゃん……?」


「どうしてそんなこと……言えるんですか……?」


「……ぇ」


 大して腫れていない頬に手を当てている三橋は、結衣の態度に少し慄いているようだった。おそらくは、純粋無垢な結衣にビンタされるなどと一ミリも思っていなかったのだろう。


「エリカちゃん……頑張ってたんですよ? 毎日朝練は誰よりも早く来て、毎回放課後は誰よりも遅くまで残って、いっぱいいっぱい練習してた……。スタメンになれれば先輩に褒めてもらえるかなって、上手くなれば先輩とも一緒にバスケできるかなって、エリカちゃん惚気ながら言ってたんですよ……」


「ちょっ、ちょっとゆいゆい……!」


 口が軽いのは今に始まったことではないが、結衣が放ったこの言葉はきっと無自覚ではない。

 背後からエリカが声だけで止めに入るも、それに構わず、結衣は必死な面持ちで訴えかけるように言う。


「部活は大変だったけど、エリカちゃんはその間もちゃんと、先輩のこと考えてましたっ。デート出来なくて困ってたことも、手を繋げなくて悩んでたことも、キスをして顔真っ赤っかになってたことも……わたし、知ってるんです」


「なんだよ、いまさら……」


 結衣の熱弁に、三橋は拳を握って俯いていた。そんな彼に対して更なる怒気をぶつけ、結衣は声を張り上げる。


「今さらって……。言えるわけないじゃないですか! 女の子の陰の努力を赤裸々に語るなんてできませんっ……髪型も、化粧も、アクセサリーも、全部気づいてもらいたくて変えてることなんです」


 それを聞いて確かに。

 思えば秋鷹からしてもエリカのアクセサリー事情は過剰だった。化粧もナチュラルではあるが、試行錯誤していたのか日替わりで変化していたことがあったような気がする。


「エリカちゃんは……一生懸命なんです、努力家なんです。それを先輩も、わかってると思ってました……」


「僕が……?」


「そうですよ。エリカちゃんと同じくらい、先輩もエリカちゃんのこと好きだったじゃないですか……! 見てればわかります。バカなわたしでもわかっちゃうくらいなんですよ」


「それは……っ」


 図星なのか、三橋は出かかった言葉を呑み込んで、次に言う言葉が見つからずに口籠る。と、そこに結衣が畳み掛けた。


「それなのに、どうしてですか……!? エリカちゃんをきじゅつけて、傷つけて傷つけて……先輩は、なにがしたいんですか? エリカちゃんは、道具じゃないんですっ。エッチなことをするために先輩と付き合ったわけでもないんですよッ!! アバズレでもビッチでも、ましてや、い、い、いっ、いんばいでもないんです――ッッ!!」


 時には噛み、時には羞恥し、言葉をつかえながらも最後の一言まで言い切った結衣。そんなになってまで代弁、あるいは勝手な訥弁が続くものだから、エリカは鼻をすすりながら泣いてしまっていた。

 本当は結衣も、怖くて避けたくて、友人のためであっても逃げてしまいたいはずなのに。それでも勇気を振り絞って、懸命に、エリカの身になって怒ってくれている。


 それを間近で見ていた秋鷹も圧倒されたが、さりげなくエリカに近づきハンカチを渡した。泣き方が尋常ではないので、渡さざるを得なかったが正しい。

 そして「チーンッ!」とハンカチで鼻をかみ、エリカはお礼を言って鼻水まみれのハンカチを返してくる。それを受け取った秋鷹が再び結衣を見ると、丁度、三橋が口を開く最中であった。


「しょうがないだろ……」


 威圧的な雰囲気で口にした言葉だったが、三橋の声はどこか弱々しかった。


「半年だよ……? 耐えられるわけない……どんなにアプローチしてもエリカとの距離は一定で、進展なんてありゃしない。むしゃくしゃするのも当然だろう!?」


「それでも、ですよ……」


 それでも、蔑ろにしていい理由にはならない。あるいは、人格を否定するような言葉を投げかけるのはもってのほかだった。

 結衣が言いたいことは、おそらくは誰もが思う普通のことなのだろう。ただの一般論、ただの常識。されど、紛い者からしてみれば想像を超えた不可解なもの。


 結衣の口から零れだし、いつのまにか落ちていたその言葉は、確かな響きをもって無理解を叩きつけてくる。


「……女の子ひとり幸せにできないで、どうするんですか」


 理不尽な物言いだが、その言葉が、否応なく秋鷹の心を揺らした。

 秋鷹は幸せにできなかったその先を知っている。息苦しくて、酷く退廃的で、色褪せてしまった退屈な世界。

 だから、幸せにできる未来をひっそりと密かに求めていたのかもしれない。できるはずないのに夢を見て、叶うはずがないのに憧れてしまって。悲しませてばかりの秋鷹では、求めること自体が不可知であったというのに。


 ふっとため息を吐いてしまった。自嘲するように、それでいて中途半端な自分を蔑むように吐く。そうして、同じような半端者に、秋鷹は憐れんだ視線を向けてしまった。


「それに……。だからって、他の子を傷つけていい理由にもなりません」


 結衣は悲愴を溜め込み、まるで自分のことのように他人を思いやる。

 半端者の彼が犯してしまった罪は、謝罪なんかでは決して償いきれない罪だった。


「その子たちは、今も苦しんでいるはずなんです……わたしが、そうだったから。怖くて、辛くて、生きるのがやっぱり苦しくて……。でも、笑いたかった。わたしは笑って、明日を迎えたかったっ」


 拙い言葉で涙ながらに語り、結衣は濡れた頬を手の甲で拭った。何度も何度も、頬を伝う滴を払いのけて。


「だから、どうか解放してあげてください……エリカちゃんも、その子たちも。……そして謝って、謝った上でまた、償ってください」


 そう言って、涙が枯れた瞳で三橋を見据え、決心したように息を吸う。それから、結衣の答えは流れるように吐き出された。


「――わたしは、あなたを許しません」


 寸分の狂いもない迷いなき瞳。自分にはもう謝罪はいらない、そう言っているようにも思えた。

 それを受けて三橋は押し黙り、なにを言うべきか口をまごつかせている。謝罪か、はたまた先程のような誹謗の数々か。しかし一向に答えがでないのか、結衣に言葉を返せずにいた。


 ならば、と秋鷹は場違いながらも彼らの間に割り込む。結衣の決意に邪魔だてするようで申し訳ないが、


 一つ、気がかりなことがあったのだ。


「先輩、今スマホ持ってます?」


「え、持ってるけど……」


「ちょっと見せてもらえません? ポケットから出すだけでいいんで」


「……なんだよ急に」


 秋鷹の予想通り、彼は渋々といった感じでポケットからスマホを取り出した。不思議そうにはしているが、秋鷹には一切の疑いをかけていない。

 唐突で、かつ真剣に頭を働かせていた後なため、判断力が鈍っているのかもしれない。それなら好都合だ。そのまま三橋の手にあったスマホを強引に奪い取り、秋鷹はそれを膝蹴りで――。


 ――バキッ!


「……へ?」


「え?」


「は、え? なにやってんの……?」


 愕然とする三橋の視線の先――秋鷹の手元には、ひしゃげたスマホが握られていた。真っ二つに割ることは出来なかったが、スマホは無惨にも折られてしまっている。


「あれ、バックアップとかとってませんでした?」


 秋鷹は平然とした顔で首を傾げて見せた。すると、一瞬の間放心状態だった三橋が、なにかを理解したように慌て始める。


「な、なん、で……」


「その反応……やっぱりスマホだけに保存してたんですね、写真」


 写真というのは、三橋が使用していた脅し材料のことだ。今までならスマホに保存していただけで事足りていたのだろうが、彼のその考えが仇となったのだ。

 スマホは壊れ、もう使い物にならない。秋鷹はそれを三橋に見せつけるように、顔の横でぶらぶらと揺らす。思い切った賭けではあったが、どうやら大成功を収めてしまったようだった。


「これで心置きなく謝れますよね」


「う、ぁ……」


 打つ手がないといった、絶望的な表情を模る三橋。いや、秋鷹だってこんな簡単に終わると思っていなかったのだが。


「じゃあ、いってらっしゃい三橋先輩。……ん? おーい、せんぱーい? ……死んでる? あ、よかった。動いた動いた」


「ぁ、あぁ……あ゛ぁ……」


「謝るときは慎重にお願いしますよ。ただでさえ、先輩の顔は彼女たちにとってトラウマなんですから」


「ぅ、あ、ぁ……」


「聞いてます? って、行っちゃったよ……」


 三橋は秋鷹に背中を向けると、ゾンビのようにトボトボと歩き去ってしまった。一応声をかけはしたが、本当に謝罪しに行ってくれるのだろうか。

 確認のため、脅されていた人たちには後で連絡を入れておこう。ついでにこの場で起こった出来事を隈なく伝え、録音・・しておいた記録も彼女たちに渡すと誓った。


 それをどう料理するかは、彼女たち次第だ。とはいえ――。


「ゆいゆい……!」


 緊張の糸が切れたのか、結衣は体をふらつかせた。エリカが咄嗟に支えたことで倒れはしなかったが、それでも、今にも倒れてしまいそうなほどに表情が優れない。


「ごめんね、エリカちゃん……わたし、何も出来なくて……」


「ううん、頑張ったよ、ゆいゆいは頑張った……本当はボクが助けてあげなきゃいけないのに、ゆいゆいはボクのために怒ってくれた。それだけでも、充分救われたんだよ」


「エリカ、ちゃん……」


「すごく嬉しかった。まだ、こんなに震えてるのに……一生懸命になってくれて。そんなゆいゆいは……ぞんぁゆいゆぃは……ボクの、ぼぐの、さいごうのどもだちだよぅ……うぅ……」


「あぅ……え゛りがぢゃん……」


 ぐすん、結衣は堪えきれなかった涙を溢れさせ、エリカのことを強く強く抱きしめた。

 エリカも、彼女の気持ちに応えるように抱きしめ返している。そして、その瞳から流れ出した滴が頬を濡らしていた。


 涙脆い二人は互いを慰め合うように、ただ静かにむせび泣く。それからずっと、苦しみを分け合い幸福を感じ合っていた。


 同じだったのだ。結衣もエリカも、悩みは違えど苦辛し、同じ痛みを味わっていたから。それを共有することがどれだけ心地いいか、今、身を持って実感している。

 取り残されてしまった秋鷹は、そんな彼女らの泣き声をじっと聞いていた。雨も降っていないのに、小さな雫に打ちつけられているような気分だ。

 

「……えっと、とりあえずは安心できるのかな。バックアップしてなかったみたいだし」


 独り、秋鷹は三歩ほど離れた場所で苦笑気味に頬を掻いた。なにはともあれ、使命は果たされたのである。

 そして言い訳をするなら、今回の件はぶっつけ本番の猪突猛進みたいなところがあったから少し失敗した。昨日はエリカにかかりきりで、結衣のことを考える時間なんてのは全然なかったわけだし。


 それ故、こんな秋鷹でも大雑把だったかとちょっとは反省している。はやめに結衣の心を晴らしてやりたいと思うあまりに、しっかりと計画せずにここまで来てしまった。

 きっと、結衣を救う方法は他に幾らでもあったはずなのだ。それが出来なかったから、彼女は今も何かに怯えている。その元凶だった者はもうここにはいないけれど、その対象は変わらない。


 秋鷹はやり残してしまった最後の仕事を片付けるべく、こちらを見ている結衣たちに小さく微笑みかけた。

 なにか言いかけたエリカには眼差しと頷きを返し、なにも言わない結衣には和やかに、


「まだ、男は怖い……?」


 そう問いかけると、結衣の瞳が不安そうに揺れた。

 

「なら、まずは手から繋ごうか」


「……え?」


「ゆっくりでもいいから、慣れていこう?」


「手……」


 差し出された秋鷹の右手を見て、結衣は抱き合っていたエリカと離れる。けれど、見ているだけで決して踏み出そうとはしなかった。


「大丈夫だよ、朝霧」


 だから、秋鷹は彼女を安心させられるように努めてみせた。


「ほら、怖くないよ」


「……ぁ」


 結衣の指先にそっと触れ、秋鷹はそのままに。

 すると、震えながらではあるが、彼女は触れられた指先を微かに動かした。そして、秋鷹の指に這わせていく。


「……握れんじゃん。全然怖くないだろ?」


「うん、怖くない……」


「じゃあ、いつもみたく笑おう? 俺、朝霧の笑顔好きなんだ」


「えっ……」


 ぎゅっと秋鷹の指先を丹念に握り、結衣は不意を突かれたようにひ弱な声を上げた。


「朝霧はさ、笑ってるとこがすっごく可愛いんだ」


「か、かわいい……?」


「そう、とびきり可愛い。それに、他にもいいところは沢山あって。例えばドジなとことか、素直すぎるとことか、笑い上戸なとことか。あとは、ツーショットの距離が近いとことか……かな?」


 朝の出来事を思い出して、揶揄い交じりに声を弾ませる秋鷹。一方、結衣は悲愴感を漂わせて俯いてしまう。


「でも、距離が近いのは、いけないことで……わたしは……」


「誰がそんなこと言ったの? そのままでいいんだよ」


 うんと一つ頷き、秋鷹は繰り返す。


「そのままの朝霧が一番だ。どんなことがあっても、変わらないでいて欲しい」


「そんなのっ、無理だよ……」


「手助けはするよ。悩みがあるなら相談乗るし、悲しくて不安ならそばに行く。頼ってくれれば絶対に応えるし、笑えないなら笑わせてやるから。だから、ふさぎ込むなよ朝霧」


「どうして……? どうして、そこまで……」


 絞りかすのように吐き出された結衣の声が、本当に消えてなくなりそうなくらいか細く鳴った。

 しかし、それもすぐにわからなくなる。言葉の途中でエリカに手を握られ、結衣はハッと目を見開かせた。


「友達だからだよ。ね? 秋鷹」


「そういうこと。一々気にすんな」


 秋鷹と結衣の繋がれた手、その上にはエリカの手が重なっている。温かくて、振り解こうという意思すらも穏やかに削いでいく。

 そんな思いを表情から滲みだし、結衣は目線を下げて口元をほころばせた。自然、それはたぶん、無意識に模られた結衣の真情だったのかもしれない。


「……ありがとう」


 ぽそりと偽りのない言葉が呟かれた。

 それに対し秋鷹とエリカは顔を見合わせて笑い合うが、結衣は眉を下げて控えめに口を開く。


「じゃあ、聞いてもいいかな……?」


 なにに乗じて、なんてのは言うまでもない。自分で言って頷いた言葉なのだから、秋鷹は嫌というほどにそれを理解していた。


 ――友達。


 そんな間柄を利用し、結衣は疑問を払拭すべく問うてくる。


「宮本君って、ちさちゃんと付き合ってるの?」


 驚きはしなかったが、目を細め、すぐには返答せずに沈黙を選ぶ秋鷹。

 いつか来るとは思っていたが、いざ聞かれてしまうと中々に言いづらい。しかし、どんなに偽ろうと結衣の前では誤魔化せない。もう二回ほど、彼女には決定的な現場を目撃されてしまっているのだ。


「友達って言った矢先、図々しかったかな? ちょっと気になっちゃって。……えへへ」


 返答に困っていると、結衣が「つかぬことをお聞きしました」というようなぎこちない笑い方をする。

 秋鷹は別に、恥ずかしくて言い出せずにいるわけではない。そのため、迷った挙句、ついには言う覚悟を決めた。


「付き合ってるよ」


「え?」


「付き合ってる。これで、いい?」


 二度言えば、結衣は「そっか……」と納得してまた理解できないような顔をする。それは腑に落ちないというより、単に純粋な疑問を浮かべているように見えた。

 納得できないから理解に苦しんでいるわけではない。なぜなのかわからないから、自身の思考を目一杯に働かせて解ろうと努力しているのだ。


「それなら、さ……空き教室でやってた、えっちなアレはなんだったの……? ちさちゃん、じゃない子だったよね……」


「――え!?」


 聞いて、エリカが秋鷹と結衣の顔を驚愕しながら交互に見る。


 後ろめたい気持ちが少しでもあったから、言い出せなかったのだ。こればっかりは、誤魔化し方なぞ秋鷹にはわからない。

 だって、まさか空き教室に先客――結衣がいるとは思わないだろう。完全に想定外だったし、内心焦りまくりだった。


 校舎裏に来た時なんて、顔合わせるのちょっと気まずかったもん。なんなら、帰りたかったもん。疲れたから帰りたいとか言ったけれど、本当は結衣と会いたくなかったのが理由だもんっ。


「あーっと……アレはなー……はは、なんだろ」


 それを言ってしまえば、たぶん、いや必ず、軽蔑や失望が付き纏う。秋鷹はそれだけのことを平気でやってきたのだ。

 厚顔無恥、醜悪至極、悪いと思っていようがいまいが、自身の心が満たされればそれでいい。


 そうやって悪辣を積み重ねてきたからこそ、秋鷹はまた馬鹿なことを考えてしまっている。


 ああ、なんて浅ましくて悍しいのだろう。自分で自分を咎めたい。

 先程まで別の誰かを断罪していたけれど、咎められるべきは秋鷹の方だった。知らず、握っていた結衣の手を強く握りしめてしまう。


 ――誤魔化しが効かないなら、誤魔化さなければいいのだ。わかりたいと彼女が思うなら、わからせてあげればいいのだ。


 その意味を、その意義を、その意思を、秋鷹の思い描くすべてを。正しいと彼女に思わせてしまえばいい。

 そしてそれを実現するためには、また繰り返す。意味のない気遣いと偽りで塗り固められたこの笑みで、純真な彼女を騙すのだ。


 そう、これまでのように。酷薄で非道極まれる行為。迷いはいらない。彼女を――朝霧結衣を、



 ――手に入れてしまえばいい。



「……え?」


 しかしそんな考えとは裏腹に、秋鷹は素っ頓狂な声をあげた。

 ひらり、結衣のスカートが裾を靡かせ舞い上がる。まるで下から掬いあげられるように不思議な力が働き、ふわりふわりと肉置き豊かな太ももが露出。


 これは、風だ。


「――きゃっ」


 そこで、エリカが小さな悲鳴をあげると同時に自分のスカートを抑える。

 しかし一方で、結衣は出遅れてしまったらしく、ほんの一瞬だけスカートを野放しにした。

 

「ノー、パン……?」


 誰かが言った。もしかしたら自分で言ったのかもしれない。秋鷹は白妙のような結衣の脚を見て、内ももから秘密の花園にかけて視線を這わせてしまう。

 そこはまっさらで柔らかそうな場所だった。太ももの間には水蜜桃にも似たピュアで穢れのなさそうな縦筋が、みずみずしさを纏って一本の芸術を形づくっている。花弁を大切に仕舞い込み、まだまだ人慣れしていない様子も窺えた。


 それに一言、秋鷹は心に湧きあがった感想をこぼす。


「んー……パンツは?」


「いやぁぁぁああああああッッ――!!」


 しゃがみ、咄嗟に恥ずかしい部分を隠す結衣。一秒にも満たない短い時間だったけれど、彼女の花園は充分すぎるほど秋鷹の脳裏に記憶された。

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